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  • 2006/06/15 掲載

【ロングセラーを生み出すマーケティングの基礎】市場参入戦略の枠組み /早稲田大学 恩蔵直人教授

【売上アップ】

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消費者趣向の多様化、商品ライフサイクルの短縮化が進む中、ロングセラー商品が存在する。それを生み出すためのマーケティング戦略とは。その方法論を解説する。

早稲田大学商学学術院教授、恩蔵直人、マーケティング早稲田大学商学学術院教授
恩蔵直人
早稲田大学卒業、同大学院にて博士号(商学)取得。早稲田大学商学部専任講師、同助教授を経て現職。専攻はマーケティング戦略。
著書に、『マーケティング』『競争優位のブランド戦略』(日本経済新聞社)、『セールス・プロモーション』(共著、同文舘出版)、『マーケティング戦略』(共著、有斐閣)などがある。



 早稲田大学の初代総長が大隈重信先生であることは誰でも知っているが、第2代総長の名前を知る人はほとんどいない。早稲田大学の歴史を調べてみると、第2代総長は経済学者の塩澤昌貞先生であり、大隈総長のもとで第4代学長も務めた人物であることが分かった。また塩澤先生は、私立では異例の帝国学士院会員として名を連ねている。慶應義塾大学の初代塾長は福澤諭吉先生であるが、やはり第2代塾長の名前はほとんど知られていないようだ。

 能力や人格の面において、2代目が初代に比べて著しく劣ることはないだろう。しかし、記事などでの取りあげられ方や人々の記憶内への刻まれ方は、大きく異なっている。この種の話は、ビジネスにおける「先発優位性」を説明するときによく用いられるエピソードである。

 先発優位性とは、他社に先駆けて新しいタイプの製品やサービスを開発し、新しい市場を創造した企業は、競争上の優位性を築きやすいことをいう。例えば、コーラ飲料の「コカ・コーラ」、複写機の「ゼロックス」、シャンパンの「ドンペリニョン」、ヘッドフォンステレオの「ウォークマン」、宅配便の「宅急便」などのブランド名は、新しい製品やサービスを開発することで、その後の競争において大きな優位性を築いた。


市場参入戦略における四つの方向性

 先発ブランドが、競争上の優位性を得られるのはなぜだろうか。先発ブランドには、いわゆる“うまみ”のある市場を狙えるというメリットがある。新製品を真っ先に購入する消費者層は、価格にはあまり敏感ではない。そのため、先発ブランドは、高価格を設定することができる。

 また、ライバル企業が参入する前であれば、厳しい価格競争に陥ることもないし、原材料などの希少資源をいち早く押さえることもできるだろう。以上のような先発ブランドのメリットは、これまでにも議論されてきた。先発優位性の重要性そのものに異論を述べる人は、少ないだろう(恩 1995)。

 むしろ企業の課題は、現実の市場で「先発になれるか否か」である。何しろ、さまざまな製品が溢れている今日の市場において、目新しい製品やサービスでさらなるカテゴリーを切り開かなければならないからだ。

 アップルコンピュータのMP3プレーヤーである「iPod」のような製品は、そう簡単に生まれるものではない。あつい思いを込めて開発した製品であっても、多くの新製品は消費者から「本当に新しい」と見なされることなく、単なる後発組の一つとして片付けられてしまうものだ。

 では、先発になれなかった後発組が、市場参入に当たって講じることのできる方策はないのだろうか。従来、市場参入戦略の焦点は参入順位にのみ当てられていた。先発であるか後発であるか、後発であったならば先発からどれくらい期間的に遅れているのか、順位的に何番かといった問題が検討されてきた(Urban, Carter, Gaskin, and Mucha 1986)。

 しかし、企業が採るべき市場参入戦略は、消費者にとっての提供価値という視点を加えることで、いくつかの新しい方向性を見出すことができる。具体的には、「経験価値戦略」、「品質価値戦略」、「カテゴリー価値戦略」、「独自価値(先発)戦略」という四つの方向性である。

 これらの方向性は、消費者が当該新製品に接した時にパフォーマンスの違いを認識できる水準としての「知覚差異」、既存の製品カテゴリーと比較した場合に違いを認識できる水準としての「既存製品カテゴリーとの違い」という二つの軸を用いて整理することが可能だ(図1)。

早稲田大学商学学術院教授、恩蔵直人、マーケティング図1 四つの市場参入戦略

 知覚差異、既存カテゴリーとの違いが共に小さい新製品では、経験価値戦略を検討すべきである。この種の新製品はパフォーマンス上の優位性を備えていないため、何の工夫もなければ価格を引き下げない限り消費者は受け入れてくれない。そこで、経験的な価値を付加することによってブランドを特徴付けなければならない。

 新製品が既存カテゴリーの延長上にあっても、消費者からの知覚差異が明確であれば品質価値戦略を実施すればよい。消費者は、パフォーマンスの高さによって当該新製品を受け入れてくれるはずだ。
 仮に知覚差異が低くても、既存カテゴリーからの違いを訴えることができる新製品であれば、カテゴリー価値戦略が適している。カテゴリー価値戦略における“鍵”は、新しいカテゴリーもしくはサブカテゴリーを構築したことを消費者に納得させられるか否かにある。

 最後に、知覚差異が大きく既存カテゴリーとの違いも大きい新製品には、独自価値(先発)戦略を採用すればよい。オリジナルであること、先発ブランドであること、世界初であることなどを強調することで、先発優位性が発揮できる。「オリジナルである、先発ブランドであるというメッセージは、年を経ても色あせることはない」といわれている(Alpert and Kamins 1995)。

【次ページ】経験価値と品質価値を訴求する

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