• 2006/12/13 掲載

【中堅中小IT化】実店舗を持つ酒屋のノウハウがネットビジネスを変える

【情報化の処方箋 第9巻】中堅中小企業 IT戦略の成功事例 ~業種は違えど、ヒントを得られる~

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大阪の酒類販売店もりもとは、昭和40年代からオフコンを導入して業務改善に取り組んできた。POSによる販売・在庫管理の一元化を推進し、Webショップも開設して順調に売上を伸ばしている。この業績を支えているのは、実店舗を持つ酒屋としてのノウハウ、売れる商品を探し出す嗅覚であった。
昭和40年代に導入した
オフコンが飛躍のきっかけとなった


【売上アップ】中堅中小企業 IT戦略の成功事例
森本章氏
株式会社もりもと 代表取締役
 酒好きならずともその品揃えには驚かされるはずだ。大阪高槻市駅の近くにある「もりもと」本店の外見はごく普通のスーパーである。しかし、一歩店内に入ってみると、色鮮やかな世界各国のミニボトルが目を引き、ワインセラーにはワイン好きをうならせる年代物が並ぶ。

 現在もりもとの年間売上高は17億円を超えるが、現代表取締役の森本章氏が社長に就任した昭和42年当時の売上高は3800万円程度。この頃、もりもとは一般家庭への配達を主としていた。10人のスタッフが5000件の所帯を担当し、ご用聞き、配達、集金に駆け回っていたのである。毎月20日は、請求書の発行のためにまさに戦場のような忙しさだったという。学生時代すでに真空管コンピュータに触った経験を持つ森本氏は、自社の将来をコンピュータに賭ける決意をする。当時は銀行ですらコンピュータを導入していない時代であり、酒屋がコンピュータを入れるなど考えられなかった。

 しかし、思い切って導入したオフコンは絶大な威力を発揮し、5000件の請求書も3、4時間で発行できるようになる。経費を大幅に削減できたもりもとは利益率が向上、これ以降急速に業績を伸ばしていく。顧客からの注文はマークシートを使って効率的に入力、その日のうちに届けるという酒屋はほかになかった。また、問屋への支払いが早くなることで、問屋もよそにはない商品を優先的に回してくれるようになる。品揃えが豊富で配達も速いという、もりもとのスタイルが確立したのだ。

【売上アップ】中堅中小企業 IT戦略の成功事例
もりもとではパートに至るまでパソコン端末を使いこなす。
誰でも使いやすいシステムにするため、開発会社とは緻密なやり取りを



ネットで酒を売るには
リアルでのノウハウが重要

 順調に売上を伸ばしていたもりもとであるが、平成に入ると酒販業界の規制緩和、すなわち免許制廃止への流れが見えてくる。こうなると、これまで免許で守られていた酒販業は苦しい立場に追いやられてしまう。そこで森本氏は1990年からPOSによる販売管理を進め、1999年には在庫管理まで、すべてを一元管理できるシステムを完成させた。このシステムでは、受注から仕入れ、伝票印刷、出荷まですべてを一元的に管理しており、決算のデータから元データまでたどることも可能だ。ポイントカード発行から、会員割引といった処理もすべてまかなえるという。そして、2003年にはWebショップを開設。実店舗のIT化が進んでいたこともあって、バーチャル店舗の運営もスムーズに滑り出した。

 「変化に対応して、今までにない何かを考える。そして、今までやってきたことの無駄をできるところから省いていくのです。」(森本氏)
【売上アップ】中堅中小企業 IT戦略の成功事例
写真のアダプタを
携帯電話に付けると、自動的に
「お酒ネット・ドットコム」
への登録処理が行われる

 すでにWeb上には酒を販売する多数のショップが存在する。インターネットの便利さ、そして小売店にとっての恐ろしさは、酒の名前から価格の安い店を即座に探し出せるところにある。最安値の店に客が集中してしまうのだ。こうした価格競争に巻き込まれないようにするにはどうすればよいのか。

 もりもとの場合、実店舗を持つ酒屋としての経験が大きなアドバンテージとなっている。冒頭で述べたように、もりもとの実店舗には実に多彩な銘柄が揃っている。多くの商品、特にワインには味の特徴についてのコメントカードも丁寧に書かれている。ソムリエでもある森本氏は、おいしい酒を求めて世界各地を飛び回り、自分の舌で味わってコメントを記しているのである。こうしたきめ細かな対応はWebショップでも活かされている。ほかでは扱いの少ない中国酒についても、紹興酒はもちろん、白酒、ビール、ワインまで網羅。日本酒や焼酎などについては、蔵元と提携してオリジナル商品の企画・販売も手がけている。また、人気を集めている高級シャンパン、ブブクリコの製造元と特約を結んで売り出した。

 「実店舗がないとお客さんの好みはわかりません。ネットは恐いですよ。一時的に売れても次の機会に同じものが売れるとは限りません。ネットビジネスは固定客があるようでいてないのです。そこで、お客さんが離れないように絶えず商品を勉強することが必要になります」。

 もりもとでは、販売・在庫管理システムを整備することで、「売る」ことはアルバイトの店員でもできるようになった。それができた上で小売業にとって重要なのは売ること自体ではなく、きちんと売れる商品を探すことだという。

 「ディスカウントショップを脅威とは感じませんね。ビールや発泡酒の売上については、最初から捨てていますから。安売りにはできる限り巻き込まれない商品構成を心掛けています。」

実店舗連動型の携帯サイトで
酒屋の活性化を狙う

 もりもとでは、今後はますます携帯電話の利用が盛んになると見て、携帯サイトを強化している。一般の顧客が酒を買える携帯サイト自体はそれほど珍しいものではないが、もりもとの携帯サイト「お酒ネットドットコム」が特徴的なのは業者向けのサイトも用意していることにある。業者向けサイトではいつも注文する品がトップ画面に自動的に表示され、スムーズな発注ができるように工夫されている。

 そして、この携帯サイトへの誘導にも実店舗が活用されている点がユニークだ。もりもとの店舗には携帯電話に刺さる小さなアダプタが置かれており、これを自分の携帯に挿すだけで「お酒ネットドットコム」の会員登録が自動的に行われるのである。
 携帯サイトは店舗ごとに自由かつ手軽に作り込めるようになっている。もりもとは、全国の酒屋を対象にこの携帯サイト構築システムを販売していく予定だという。
「(安売りでない)酒は対面販売のノウハウがないと売れませんよ。各地域の酒屋がこのシステムを入れることで、元気になってくれればと思います」。
(取材・文:山路達也)


<もりもと 企業プロフィール>
会社名:株式会社もりもと
所在地:大阪府高槻市北園14番13号 森本ビル2F
主な業務内容:酒類、食料品、菓子の総合小売業および不動産賃貸業
TEL:072-682-0170


●注釈
■HTML
ウェブページを記述するために使われる言語。Internet ExplorerなどのウェブブラウザがHTMLや画像データを読み取ることで、ウェブページが表示される。

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