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  • 2007/01/19 掲載

【連載】ナラティブマーケティング:第1回 インターネットがもたらした「意味と物語」への回帰

毎週金曜日連載

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人々は、インターネットによる知の革新を通じて、形態ではなく商品の意味や物語を求めるように回帰しているのではないか……。大前研一氏のアタッカーズビジネススクール(ABS)において講師を勤めた経験を持つ気鋭のマーケティングプランナー村山涼一氏は、マーケティングにも意味と物語の時代が戻ってきたと仮定。これを臨床の分野で物語を意味する言葉から「ナラティブマーケティング」と命名して、それが果たして成立するのかを本連載で検証する。


消費は新しい局面へ


キヤノンのデジタル一眼レフ「EOS Kissデジタル」
デジタル一眼レフカメラヒットの火付け役となった。
 2006年の日経のヒット商品番付を見てみると、「デジタル一眼レフ」「ショッピングセンター」「ICきっぷ」「軽car」「メタボリック対象商品」「脳グッズ」などが上位にきている。

 これらは、成熟市場から生まれた商品であること、機能やスペックの新奇性というよりも、意味づけの新しさが受けてヒットしていることで共通している。

 20世紀の初頭、「動物化」という言葉で新しい消費の形を分析した東浩紀氏は、大きな物語による意味づけで消費が行われるのではなく、表層の小さな物語に反応して消費が行われていると指摘した(東浩紀著『動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会(講談社刊,2001)』)。そして、限りない<欲望>を抱いて生きる人間に対して、目の前の<欲求>を充たせばそれで足りてしまう動物から、この消費の形を「動物化」と名づけた。

 とはいえ、冒頭のヒット商品群を見てみると、この東氏の指摘とは異なる消費の形が読み取れる。

 たとえばデジタル一眼レフは、一眼レフカメラがデジタル化したという機能よりも、同じ労力で今までとは違う、すばらしい作品が撮れることが受けた。また、軽carというカテゴリーでヒットした三菱自動車の「i(アイ)」も、画期的な機能ではなく、軽自動車でありながら窓を大きくとった斬新なデザインが受けた。ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」も、機能ではなく、脳全体を鍛えることができるという意味づけが受けてヒットした。


 これらの状況から考えると、明らかに消費は新しい局面を迎えている。

 東氏の指摘の論拠には、1990年頃に大ヒットした物語消費の崩壊があった。大塚英志氏が提唱した物語消費論(『物語消費論(新曜社刊,1989)』)とは、目に見えない大きな物語に基づいて、その断片としての作品を提示して、それを消費させることで大きな物語を解読させようという試みであった。

 これはビックリマンチョコレートを代表とする数々の商品に適用され、次々にヒットを生んだことで有名である。ところがこの大きな物語が消滅してしまうことで、この消費は終わりを告げる。

 東氏によると、大きな物語とは「思想的には人間や理性の理念として、政治的には国民国家や革命のイデオロギーとして、経済的には生産の優位として現れてきたもの」。これが、時代の流れにそぐわなくなり、結局、消滅してしまうこととなった。

 そうすると消費者は、表層の強度(言語化・意味づけできない価値)に反応するようになり、それと相まって登場したインターネットの世界をデータベースとして(インターネットをデータベースとするのは筆者の意見であり、東氏はもっと広義にデータベースを規定している)、自分なりの意味を作るようになる。これが見た目には、表層の強度だけで消費されているように見えた。

 私見だが、これはインターネットがまだ黎明期だったから起きたことだと思う。この頃はまだインターネット上の情報には秩序がなく、情報がカオス状態となっていた。ゆえに、本当にたどりつきたい情報にいきつく前に、目の前にある情報で満足させられてしまう。その結果、消費はきわめて表層部分だけで行われていたのだと思う。


 これが最近になって、状況が劇的に改善する。

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