• 2007/04/26 掲載

【中国ビジネス最前線(5)】学研都市成都にて日中ビジネスサポートで成功--成都「四川飛鳥」

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中国の躍進が叫ばれてはや数年。日本人は大手企業に限らず、中堅中小企業、個人でも中国でビジネスを展開するようになった。ここでは、中国でビジネスを営む企業や個人の生活を現場の目線でお伝えする。


NECやトヨタ、キヤノン、マイクロソフト、インテル、SAP
なども成都に支社や研究所、工場を構える


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四川省、重慶市、雲南省、貴州省をまとめて
中国西南地方という
成都市内の風景
 四川省の省都成都は観光地として有名だが、同時に学研都市としても有名だ。四川省には60数校の大学や高専があり、うち30数校が成都にある。四川省、重慶市、雲南省、貴州省をまとめて中国西南地方というが、その中での中心的な存在の都市が成都である。都市の大きさは北京や上海に比べて小さいが、他の省都と比べるとかなり大きく、また他の省都クラスの生活を知っている人なら、成都の人々はほかの省都の人々よりもモラル面などが洗練されているのを感じるだろう。現在成都の市内では地下鉄建設ラッシュの真っ最中で、近いうちに複数路線が開業する。成都は都市インフラ面、人々のマナー・モラル面ともにさらなる発展を見せている。

 一般的に成都や西安などのある内陸部は、上海や広東省や北京などがある沿岸部よりも発展しておらず、国内外の投資が沿岸部に集中するといわれるが、成都市はその例外的な都市だ。少々古いが2004年の中国都市別GDPで成都は第10位に位置し、内陸では重慶市に続く2位となっている。またR&D(研究開発費)への投資額についても、2005年の統計で四川省は第8位、内陸部でトップとなっている(出典:2005年度全国科技経費投入統計公報)。以上の数字に裏付けされるように、成都は中国の内陸地方を開発する「西部大開発」の中心的な存在だ。

 R&Dの数値を紹介したが、成都の認知度が増えたためか、中国内外の企業の研究所や工場が続々と成都につくられている。いくつか企業を紹介すると、欧米企業ではマイクロソフト、ノキア、インテル、SAP、日本企業ではトヨタ、キヤノン、東芝、NECなどが成都に支社や研究所や工場を構える。日本企業でいえば、ここ2、3年で特に多くの企業が進出しており、そのほとんどが中小企業である。

 成都は、上海や北京など沿岸部の都市に比べれば発展しておらず、投資先としても著名ではないため、学校数などを根拠とした優秀な人材の多さと優良なインフラ面の割に物価や人件費の安さが、自他ともに認める投資先としての魅力だ。

日本語人材の育成、日本企業進出のサポート業務を行う四川飛鳥

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四川飛鳥の営業部長を務める仲田和代さん(左)と維納軟件の李さん(右)
 そんな成都にいち早く進出し、日本語人材の育成、日本企業進出のサポートの業務を始めたのが「四川飛鳥」だ。四川飛鳥の前身の企業を日本人1名と中国人2名で4年前に設立し、日本語教室をまず開設した。開業後数年で急速に成都の外資系企業が増え、日本語教育ほか各種日中ビジネスに関するサービスのニーズも急増した。

 前者の日本語人材の育成については、日本語学校を一般向けと団体向けに開設。地元の日本語を学び就職に役立てたいという学生や、社員に日本語研修を行う必要があるという成都市内の企業のニーズに対応する。一般的な日本語のクラスのほか、より実践的なビジネスクラスや、留学直前クラス、日本語ガイドクラスなどを用意している。

 後者の日本企業進出のサポートについては、中国語講座や、通訳・翻訳サービス、人材コンサルティング、市場調査、事務所代理、会社・工場設立手続きの代行、法律相談などのサービスを提供、成都に進出したい/進出した日系企業の駆け込み寺的な存在となっている。

 四川飛鳥の営業部長を務める日本人の仲田和代さんは四川飛鳥の創立者の1人だ。その当時をこう振り返る。

 「はじめは四川飛鳥の創立者の一人であり現在董事長である周が日本で私の中国語の先生でした。周に留学したいと尋ねたところ、留学先の成都の大学を紹介してくれて留学で成都に来ました。卒業後成都で自分の力を試そうとした矢先、偶然にも周と再会し会社設立へ話が進みました。残りの中国人メンバーは四川省の人で、日本の奨学金で留学し日系企業で10年近く働きました。その後恩返しということも兼ね、成都に日中の交流の場を作りましょうということで3人で四川飛鳥の前身『中日友好会館日本語研修センター』を設立しました。」

 その後、日本と中国の掛け橋として徐々に四川飛鳥は大きくなった。日本に関わろうとする四川の人々に認知されたころ四川飛鳥に転機が訪れた。

四川の教育現場とハイテクパークの企業をつなぐ


四川の教育現場とハイテクパークの企業をつなぐ

四川飛鳥のある中日友好会館
 3人でスタートした四川飛鳥(当時は中日友好会館日本語研修センター)設立後の流れについて、営業部長を務める日本人の仲田和代さんはこう振り返る。

 「社のある中日友好会館は、もともと研修できるだけの施設でしたが生かされてなかったので、そこを借り前身である『中日友好会館日本語研修センター』を運営しはじめました。設立前はオフィス探しから始めたのですが、中日友好会館は研修施設があることを知らず、他の建物をいくつもあたりました。まず日本語研修センターから始めて、その後現在の四川飛鳥の取り扱う業務をしてもよいという権利を取得した『成都アスカ文化交流有限公司』を立ち上げました。そうこうしているうちに日本語教室でのクラスは企業ニーズを中心にさらに増え、中日友好会館のキャパシティを越えたため、中日友好会館の外に新たに教室を設けました」

 当時の日本語学習のニーズを聞いてみると「全然少なかったです。今なら1ヶ月に新しいクラス(1クラス20名)を2つか3つは確実に開けるのですが、当時は1つのクラスを開くのに生徒数が少なすぎるため生徒に待ってもらっていました」いつから生徒は増え始めたのだろうか。「翌年ですね。日本語で授業をするということを評価していただいて、口コミで広がりました。広告はお金がなくてほとんど行いませんでした。またその後日本のYMCAから先生が来て、教え方も日本の日本語学校の研修スタイルとしました。現在の生徒の支持はそこから来ているのではないでしょうか」

 その後、日本と中国の掛け橋として徐々に四川飛鳥は大きくなった。日本に関わろうとする四川の人々に認知されたころ四川飛鳥に転機が訪れた。

 成都のハイテクパークに構える中国企業の「維納軟件」(WINNERSOFT)が四川飛鳥の日本語教育のノウハウを評価し、四川飛鳥と提携関係を結んだ。維納軟件は成都の国家ソフト産業基地におけるIT産業の人材育成で中心的な役割を担う企業だ。維納軟件のある天府ソフトウェアパークには、ノキア、SAP、NECなど外資系企業がはいっているほか、中国の著名なハイテク企業が名を連ねる。維納軟件は大学や高専の学生が、卒業後企業に入る前のラスト1マイルの実践的な職業教育を行うのが同社の業務のひとつだ。つまり四川の教育現場とハイテクパークの企業をつなぐ、産学提携の橋渡し役を維納軟件は担っている。

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天府ソフトウエアパーク。SAPやノキアなども軒を連ねる
 国際的なアウトソーシングなどに対応できるIT人材の育成を行うが、国際的なアウトソーシングといえばインドを思いつく読者も多いだろう。維納軟件はインドのIT企業最大手のTATAグループの企業の1つCMCとも提携し、インド流のITトレーニングを導入している。ITトレーニングだけでなく、アウトソーシングでもソフトウエアの作成をCMCと共同で行うこともある。ちなみにソフトウエアの分野で中国企業がインド企業と提携をするのは珍しいのだそうだ。

 日本企業が続々と成都に事務所を構え、ハイテクパーク内にも日本企業が続々と入居するなか、中国にも認定された教育機関である維納軟件が、否が応でも日本向けのソフトウエアに携わる人を育てなければいけなくなった。四川飛鳥との提携も必然だったのである。そして2006年6月より維納軟件は日本向けのIT人材の輸出、日本からの開発の委託業務を開始した。

 前編で紹介した四川飛鳥に所属する仲田さんだが、維納軟件の日本関連の業務も手伝っている。日本側とのやり取りの際の窓口、四川飛鳥と関連のある業務(人材コンサル/教育など)も多岐にわたっており、共同で取り組む必要性が高いため、仲田さんは四川飛鳥と維納軟件を往復する毎日だ。

 四川飛鳥は成都の日本商工クラブの事務局長も兼任している。日本人商工クラブは2006年度はトヨタを会長に、キヤノンを副会長に、73社の日本企業が会員となっている。上海や広東省に比べればその数は多いほうではないが、仲田さんは商工クラブについて「この2年で日系企業は急増していて、毎年14、5件加入しています」と成都の勢いを語る。

 中国国内の人件費向上が最近になっていわれはじめ、中国全体への投資が緩やかになってきているが、全体的にハード面でもソフト面でもコストの安い内陸、とくにその内陸の中心的な都市である成都はこれからが外資投資が本格化するだろう。



山谷剛史
海外専門ITライター。守備範囲は中国・東南アジア・インド・北欧など。現在主に中国に滞在し、中国関連の記事を複数メディアで執筆。一般誌にも時々執筆するが、とはいえノンポリティカルな執筆が基本。統計数字だけではなく、できる限り誰にでも読めて分かり、匂いや雰囲気を感じることができる記事をつくるのがポリシー。そのために裕福な人々ではなく、国民の大部分である平民層以下にスポットを当て、現地で体を張って取材。

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