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  • 2007/11/05 掲載

【日本型コーポレートガバナンスを求めて】社外取締役に求められるものとは/ 法政大 嶋口充輝教授

株主主権と社会貢献の舵取り役

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不二家やパロマ、リンナイ、日興コーディアルグループなど、企業の責任が問われる不祥事や重大な事故が相次いでいる。コーポレート・ガバナンスやCSRが叫ばれて久しいが、一部の企業における隠蔽体質や甘い管理体制はなくならない。しかし、こうした不祥事や事故は、一夜にして企業が長年培ってきた信用を失墜させてしまう。では、企業はどのようにして株主価値を担保し、社会に愛されつづけるためのコーポレート・ガバナンスを保つべきなのか。長年、大学に席を置きながら、東芝やライオンのアドバイザリーボード、エーザイ、石井食品、ライオン、ベルシステム24の社外取締役などを務めてきた嶋口充輝教授に、その経験を踏まえたヒントを聞く。
コーポレート・ガバナンスに必要な
マーケティングの視点


法政大学大学院<br>イノベーション・マネジメント研究科教授 嶋口充輝氏
法政大学大学院
イノベーション・マネジメント研究科
教授 嶋口充輝氏
─会社法の施行により、株式会社の機関設計にも自由度が広がりました。そのなかで、委員会等設置会社に注目が集まっています。また逆に、独立性の高い社外取締役を会社としてはどのように遇するべきかという戸惑いも見られます。先生は企業のアドバイザリーボードや社外取締役のご経験も長いとお聞きしていますが、そうした経験から、コーポレート・ガバナンスのあるべき姿に関して、どのような見解をおもちでしょうか。

嶋口●
私は実際に会社を経営したこともないですし、実務に関しては素人です。そんな私がこうしたテーマについて語るのが適任かどうか疑問ですが、確かに、ここ1 0 年ほどは、企業経営というものにさまざまなかたちで関わってきたという経緯があります。専門はマーケティングなのですが、ここ最近は、経営問題が主たる研究テーマになってきたような気もします。

─私見ですが、コーポレート・ガバナンスを考える場合であっても、内部統制を検討する場面であっても、マーケティングの要素、つまり顧客や企業のその他のステークホルダーとの信頼関係をどのように維持すべきかという観点は非常に重要だと思います。会社法の精神は株主主権ですが、株主価値は株価という市場価値で測られますので、この株価というものを左右する顧客基盤や社会通念というものが重要なような気がします。マーケティングの視点からコーポレート・ガバナンスを考えるということが、これか らは最も大切なのではないでしょうか。

嶋口●
まさに、そのとおりだと思います。マーケティングを突き詰めていけば、顧客価値を出発点に企業価値、さらには経営というもの自体を突き詰めなければいけないという問題認識をもってきました。それが、自然と企業経営に関心をもつに至った背景にあると思います。医療科学研究所という研究財団の所長を仰せつかっていますが、所長という仕事は執行役です。財団も将来は会社法に則って経営をしていかなければなりません。財団評議員によって選ばれる理事も会社でいう執行役となります。社会が変われば法律も変わり、会社や財団の統制の仕方も変わらなければいけないわけです。私自身、社外取締役としては貢献というよりは学んだことばかりというのが正直なところです。

エーザイの事例にみる
委員会等設置会社における社外取締役の役割


─先生が取締役を勤められていたエーザイは、いち早く委員会等設置会社〈※注〉に移行した会社だとうかがっていますが、委員会等設置という機関設計についてどのように思われますか。
嶋口●
これはそもそも米国型の機関設計なわけですが、日本では2 0 0 3 年に制度が導入され、エーザイは翌年に移行しました。私は2 0 0 5 年の6 月まで4 年間、エーザイの社外取締役を勤めさせていただき、この日本では画期的な機関移行の時期を経験させてもらいました。エーザイは、この方法によって非常にうまくコーポレート・ガバナンスを行っていると思います。

 そもそも会社の経営は執行系の役員によって営まれます。ところが、長年にわたり、経営のすべてを執行系の役員・社員だけで決定し実行していると、どうしても自己保身や甘えが出てきてしまう。そうした淀みのなかで、いわば不祥事や不正の種が育っていくのです。報酬の決め方や自分たちの身分保証などに関しても、甘えが出てくる可能性があります。

─人事権と報酬、そして財務を握ることが、すなわち会社の権力を握ることになるわけですね。
嶋口●
そこで、株主の立場から長期的な企業価値の向上にむけ、執行系の活動をモニターし監査する仕組みが必要になるのです。それがコーポレート・ガバナンスです。委員会等設置会社では、ガバナンスの担い手である取締役と執行役を完全に分離します。そして、取締役の過半数は利害関係のない外部の人間、つまり社外取締役が担うことになります。

─取締役会は当然、会社の重要事項を決議する機関なわけですが、具体的には主にどのような場面があるのでしょうか。
嶋口●
業績の健全性チェック、コンプライアンス、大型の投資案件の決定など、企業価値向上についての多様な問題に関わります。多くの場合、会議は月に1 回開催されます。一部に誤解がありますが、会議には関係する執行役の長に出席してもらって、活発にディスカッションを行っています。取締役会のメンバーはその場で資料を見るのではなく、事前に配布してもらい、前もってじっくりと読み込んで臨みます。説明を聞いて、案件は健全か、矛盾がないか、不正はないかなどを吟味するわけです。

─ 3 つの委員会がありますよね。
嶋口●
そうですね。指名委員会、報酬委員会、監査委員会です。指名委員会は取締役を選任します。また、執行役の代表である社長から提案された執行役人事を検討し、推薦します。報酬委員会は報酬の案を検討します。執行役の人事案や報酬案に関しては、業績が良好であり、大きな問題がない場合は、委員会が拒否することはありません。内部のことは、内部の人間のほうが詳しいからです。ただ、監査もそうですが、業績が長期に渡り非常に落ち込んでいる、不正や不祥事が発覚したというような場合には強権を発動しなければならない。社長交替も含めて対応するわけです。

─経営がうまくいっている間は必要以上に口を出さない。そういう意味では、何かがあった場合の安全弁なわけですね。

〈※注〉2003年4月に施行された株式会社の制度で、従来商法で定められていた監査役を撤廃し、監査委員会・指名委員会・報酬委員会・執行役を会社経営の機関として設置する会社のことをいう。

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