• 2007/12/12 掲載

【荻上チキ氏インタビュー】ネットにおける「炎上」や「デマ」の構造を考える―『ウェブ炎上』の著者の視点(2/3)

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「炎上」現象とは何か

――次に刊行されたばかりの『ウェブ炎上』についてうかがいたいのですが、これからこの本を読む人のためにどういう本かを簡単に説明して下さいますか。

荻上氏■
まず、「炎上」について簡単に説明します。ご存知の方も多いと思うのですが「炎上」とは、ネット上で特定のサイト・特定の対象に対して否定的な言説が一定量を越えるという状況を指します。ちなみに僕は「批判をする人」が増えた状況が「炎上」というような定義はしていません。批判のコメントというのは一人でいくつも書けるので、二、三人いれば炎上なんて簡単におこせてしまうわけですよね。そのために、表面的には「炎上」という風に思われてしまって、その言説が否定的な印象を招いたり、間違った対応を招いたりしてしまうことがある。書籍ではそのような事例を元に、ウェブ以後のコミュニケーションについて分析するための理論をまとめています。

 たとえば、インターネット上で自らの必要な情報を各々が収集していくとある種のリアリティの構築に多くの成員が傾いて雪だるま式に突入していってしまうサイバーカスケード。そのようにリアリティが一人歩きしていってしまった状態で、たとえば特定の企業についてのネガティブな意見を交換しようというアジェンダ(議題)が設定されてしまうと、それを解きほぐしがたいという状況が生まれてしまいますね。

 では、どうすれば良いのか、とよく聞かれます。実はこの本のなかでは「炎上」対策としてどうすれば良いかということは一切書いていません。読んでくださったブロガーの一人が、「この著者は炎上をなくすことをあきらめている」と書いているのを見かけましたが、ちゃんと読んでるなぁと思いました(笑)。そう、「炎上現象」は、絶対になくならない。

――無理ですか(笑)。

【コラム】【荻上チキ氏インタビュー】ネットにおける「炎上」や「デマ」の構造を考える―『ウェブ炎上』の著者の視点
荻上チキ氏
荻上氏■
無理です。ただ、個別の「炎上」対策そのものはそんなに難しくありません。「流言飛語」研究とか、あるいはビジネス系の人がしてきたバズ・マーケティングとかバイラル・マーケティング系の議論がありますね。あれと同じです。

 「流言飛語」の場合、「あいまいさ」と「物事の重要さ」の積によって流言は広まっていくという理論があります。それと同様、バイラル・マーケティングをする時に「流言飛語」的にひろめたいのであれば、あえて全部言わず、ティザー的に小出しにしていって、しかもその面白い部分だけをさまざまにちがうクローズアップで出していくというテクニックがありますね。そのように曖昧さを与えつつ、情報の重要さを価値付けできるインフルエンサー(ブロガーなどですね)に撒いていけば、バイラル・マーケティングとして一丁あがりと。これ、すごく単純化してますけど(笑)。

 広めたいのであればこのようにする。では、広めたくない場合はその逆をする必要があります。まず、インフルエンサーやステークホルダーに納得してもらうために、しっかりした情報を与えるサイトをまず自分が作ってしまって、物事の重要さや曖昧さをそこに与えない。同時に火種を消すことで議論のアジェンダを自分が握り返す。消すといっても、炎上元エントリーを削除するということではないですよ。それでは火に油です(笑)。

 特に企業の不祥事があったりした場合は、悪いことをしたことは間違いないわけです。だからまず、ポイントを抑えたうえで謝罪をする。そして、今後の方針など、別の議題につなげていく。多くの人にとって、炎上はとても面白い。彼らが一番つまらないのは、さっさと謝ってしまう対応、炎上が終わってしまうことが面白くないわけです。だから、2ちゃんねるのネットウォッチ板でも「ヲチ(ウォッチ)先は、さわらず荒らさず、まったりと」と書いてある(笑)。つまり、いつまでもいじりつづけたいわけですから、いじらせない状況を作ってやることが重要です。

 炎上の場合は、過剰な言説、つまりデマなども発生しやすいですね。なかには叩くことを正当化するために、そしていつまでもいじりたいがゆえに、相手を誇張して貶める人、燃料を自ら作ろうとする人などが出てきます。いくら企業側に非があっても、「これだから~は」というふうに、ほかにあったことをどんどんつなげていったりとか、ありもしないことを書かれてしまったりすることは避けなくてはならない。

 そういうことを知るためにはインターネット上のコミュニケーション文化というのがどういうふうに成り立っていて、そもそもインターネットとは何だったのかということをある程度把握しておく必要があるわけです。そして、そのような議論というのは実は蓄積がいっぱいあるわけです。バイラル・マーケティング系の議論だけでなく、新しい人文系、社会情報学の議論などもあります。数々の古典的なメディア研究も、まだまだ有効です。

 ただ、それぞれ蓄積があるにも関わらず、それをつなぐ本がなかった。ですから、僕はこの本をいわゆる「まとめサイト」的な本だと思って書きました。そのため、独自の概念は提案したけれど、「作者の意見」はほとんど禁欲しています。この本自体がハブになった上で、読者の方にはそれぞれ、バイラル・マーケティングとか「炎上」対策とか、あるいはこれからの法規制の問題とか、青少年の教育の問題であるとか、さまざまな方向に議論を進めていっていただきたいなと思います。

――「炎上」に関して、こういうことだけはやっちゃいけないような、まずいことってありますか?

荻上氏■
インターネットというのは「つながる」ものなのだということを忘れてはいけないということでしょうか。ネットで他人とつながる社会ということは、炎上やカスケードなどの現象が存在する社会だということです。違うコミュニケーションに接続されることがあるのだから、手紙の宛先に注意をしすぎるということはない。

 よく、プロフサイト*の問題というふうに言った時に、中学生とかが大人の目の届かないところでそういったプロフを通じてコミュニケーションしていることが問題と言いますよね。でも、問題は逆です。むしろ、大人たちに、子どもたちのそういうこっそりとした秘密のコミュニケーションがバレてしまうことが問題です。

 中学生くらいの子たちはケータイというのを非常にパーソナルなコミュニケーションツールだと思っていて、そのプロフのURLを友人に送りさえしなければ、そのURLは第三者に知られないだろうと思っちゃっている子がかなりいるんですね。でも、そんなことはないわけです。パソコンから検索したって、無防備なプロフがガンガン見つかりますから。そして大人たちが接近してきたり、あわてたりする。

 学校裏サイトも、子供たちが大人の知らない世界に閉じて陰湿になることが問題ではなくて、今まで以上に外部とつながってしまうことが問題なんです。パスワードをかけて秘密のコミュニケーションをしているというのであれば、それは今まで子どもたちが親や周囲に内緒で行っていたコミュニケーションとあまり変わりもないわけじゃないですか。でも、たとえば学校裏サイトって、ちょっとした工夫をすればガンガン検索で出てきてしまうんですよ。

 悪口が “ネット”で、書かれているのを知って、ショックで不登校になった子どもが出たりすると、とても新しい現象だと騒ぎになる。でも昔だって、自分に関する悪口を口コミで聞いてしまい、ショックで休む子なんていたし、僕の小学校の頃だって誹謗中傷が書いたノートを匿名で寄せ書きみたいにして回されるなんてこともありました。そういうことはこれまでもいっぱいあったわけですよ。どうして、ついこの間のことを忘れるのかと思います。「裏サイト」や「ネットいじめ」がたいした問題ではないと言いたいわけでは絶対にありません。そうではなくて、何が「ウェブ以後」の現象なのか、しっかり議論する必要があるということ。今後はネットいじめや裏サイトの場合は、むしろ「かつてに比べてつながりすぎること」が主題化されるんじゃないでしょうか。

*プロフサイト いくつかの質問に答えると自動的にプロフィールが作れるようなタイプのサイト。自己を主張する際の定番として用いられる。プロフといった場合はその人が前略プロフなどで作成したページをさす事が多い。

――そういう意味では年長世代のふるまいも、若い2ちゃんねらーのふるまいもあまり変わらないかもしれませんね。

荻上氏■
まったく同じです。自分の属する集団や共同体が脅かされたと感じると燃えてしまう。火事とケンカは江戸の花じゃないですけれども、炎上とフレーミングはネットの花ですよ。自分の文化の作法が他のところに誤配されたり、他の文化によって侵食されることに対して、どの人も過敏なんですね。

 たとえばテレビでインターネット文化を紹介された時に、少し間違った解説や解釈がなされたりすると、2ちゃんねるなどでものすごくヒートアップをする。小学生がAA(アスキーアート)とかを使っているのを見て、馬鹿にした物言いをしたりする。

 今までも、やはり、基本的に何かの文化に所属している人たちはその文化のなかにエコーチェンバーのようなものを作ってある程度閉じこもっていたわけです。それがインターネットの登場によって他の文化というものが、どういうコミュニケーションをやっているかが、どんどん見えてしまったということがあって、それで戸惑っているという面はあるでしょう。

――局所的な「道徳の過剰」については、この本でも書かれていましたね。そういう意味では、この本は著者である荻上さんがとても若くて、議論の対象がネットであるということもあり、誤解されやすいかもしれませんが、本書は若者論でもネットについての本でもなくて「炎上」や「ネット」も存在する社会で、どうふるまっていくかについて書かれたものだという気がします。

荻上氏■
僕は、この本の「はじめに」で、こう書きました。「炎上現象はなぜ、どのようにして起こるのでしょう。本書はそのような疑問を抱く人に向けて書かれています。」ここにあえて傍点を振っているように、「ウェブ炎上とかネット群集の暴走と可能性」、「今日も誰かが標的に!」っていうことを気にしている人たちに読ませたかったんですね。

 ですから炎上はどうやったら解消するかとか、そういうことは書いていません。炎上をテーマにすることで、私たちの議論のプラットフォームについて確認をすることが目的でした。ウェブのある社会で、異なる意見が可視化され、衝突が繰り返されるなか、寛容な社会を構築するためにはどうすればいいのだろうか。それが隠れたテーマだったりもします。

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