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  • 2008/03/13 掲載

【日本型コーポレートガバナンスを求めて】企業理念、あるいはCREDOと呼ばれる羅針盤/ 法政大 嶋口充輝教授

企業の寄って立つ哲学、進むべき方向性をガイドするもの

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企業には必ずと言っていいほどある企業理念。経営理念ともいい、英語ではCREDO(クレドー:信条)と呼ばれる。これは企業経営の根幹であり、企業活動の根本的な方向性を指し示す羅針盤のようなものである。企業理念は、それほどに重要なものであるが、多くの企業ではお題目と化し、日々の活動でこの理念が省みられることは少ない。しかし、コーポレート・ガバナンス(企業統治)のあり方を考えるうえでも、企業理念は当然に重要だ。嶋口教授は、企業理念を自社のアイデンティティとしてしっかりと見直し、必要であればつくり直し、社の内外に広く知らしめること、そして、会社の憲法たる定款に前文として盛り込むことを提唱する。

株主価値を高めるためにも顧客を重視する
それがコーポレートガバナンスの原点

法政大学大学院<br>イノベーション・マネジメント研究科教授 嶋口充輝氏
法政大学大学院
イノベーション・マネジメント研究科
教授 嶋口充輝氏
─改めてお聞きしますが、先生はコーポレート・ガバナンスをどのように定義されますか?
嶋口●
企業の経営陣にしてみれば、自分たちが汗水流して成長させてきた会社ですから、自分たちの好きにしてよいものと考えてしまいがちです。日本企業の経営者たちはこれまで、少なからず、そのような錯覚の虜になってきたのではないでしょうか。もちろん、 オーナーが経営者を兼任している場合は、そうした考え方はあながち間違いであるとはいえません。しかし、そうであっても、会社の成長は自分たちの力だけではなく、多くのステークホルダーに支えられて実現できているわけです。そのため、株主に対するだけでなく、従業員に対しても、地域社会に対しても、また顧客に対しても責任を有する経営陣が、自分たちのために好き勝手に企業を経営することは許されないわけです。そこで、株主や顧客、従業員などの視点も考慮したうえで企業を経営するという考え方がコーポレート・ガバナンスということになるわけです。

そのために社外取締役が重要だというお話を前回しましたが、最近、ある企業の株主総会に出席して、その気持ちを強くしました。というのも、昔の株主総会と違って、一般の株主の方が大変いい質問をされる。皆、その企業によりよくなってもらうための質問であり、意見なのです。当然会社側は想定問答を行ってから総会に臨むわけですが、なかには予想外の質問も少なからずあるのですね。それがまた良い質問なのです。そこで私は思いました。月1 回開催される取締役会における社外取締役の役目も、このように会社側にとって予想外の良い質問をすることなのだろうと。業務に精通して日々仕事をしている内部の執行役とは、異なった視点を入れるということなのです。株主も変わってきています。株主総会も進化している。そうしたなかで、経営陣だけが変わらなくていいという道理はないはずです。

─そこで難しいのが、ステークホルダーの利益はそれぞれ違うという点だと思います。二律背反というか、「こちらを立てれば、あちらが立たず」という関係にあるように思うのですが、まずはどのステークホルダーの利益を重視するのか。その点はいかがでしょうか。
嶋口●
一般的には、すべてのステークホルダーに対して平等であるべきといわれていると思いますが、昨今の経営のあり方を考えると、組織は市場、顧客によって生かされる時代であるということが言えます。実際、さまざまな企業のケースを見てみると、株主であっても、やはり顧客基点で考える組織になってもらうことを望む傾向が強いようです。

たとえばCREDO(我が信条)で有名なジョンソン・エンド・ジョンソンでは、その理念で4つの責任について言及していますが、第一の責任は、「我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」と記されています。ちなみに第二の責任は全社員に対するもの、第三の責任は地域社会および全世界の共同社会に対するものであり、第四の責任ではじめて会社の株主が登場します。

エーザイも同じです。その企業理念は、「患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を考え、そのベネフィット向上を第一義とし、世界のヘルスケアの多様なニーズを充足する」というものです。

─長期的な視野に立てば、顧客中心の経営が株主に対する利益をも最大化するととらえればよいのでしょうか。
嶋口●
そうですね。もちろん、株主のなかには短期的な利益を追求する人たちも少なからずいます。そうした株主は自分たちに対する利益の還元を要求するでしょう。経営者としては、彼らを無視していいということにはなりませんから、もちろんバランスは必要です。しかし、企業は顧客によって生かされ、お客様を幸せにすることができて初めて、その健全な成長が担保されることは間違いないと思います。

─ 21世紀は、20世紀から見れば逆転の発想が必要な時代であると言えそうな気がします。
嶋口●
その点は重要な指摘だと思います。たとえば1 9 7 0年代は公害の時代でした。技術や経済の成長が最優先され、環境や生活権などはないがしろにされた時代です。そこで環境問題などがクローズアップされ、企業も社会の批判に抗しきれずにさまざまな対策を考えるようになりました。いわば、自らが生み出した社会にとってのマイナス要因を、いかに少なくするか、ゼロに近づけるかが課題であったわけです。

 しかし、今はこの発想ではダメです。いかに社会の豊かさをプラスにするか、しかもそのプラスとは、もはや経済的な尺度で測ってはいけない時代です。ですから企業は、より良い社会を作り出すために自分たちはいかに活動すべきかを考えなければいけないわけです。それがCSR の意味です。確かに発想の大転換といえます。そうした意味から、コンプライアンスやCSR ではなく、私はビューティフル・カンパニーという言葉を好んで使っているわけです。

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