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  • 2008/04/03 掲載

【芹沢一也氏+荻上チキ氏インタビュー】新たな知の回路をつくりだす/シノドスの試み

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シノドスという試みをご存じだろうか。ギリシア語で「集会」を意味するこの言葉を掲げて、2007年以来、新たな知の公共空間を切り拓きつつあるのは、思想史の俊英・芹沢一也氏。彼は、高原基彰、雨宮処凛、本田由紀、萱野稔人、阿部真大、高桑和巳、廣瀬純、中島岳志、鈴木謙介、橋本努といった論客をゲストに迎え、参加者とともにとことん議論を交わす超高密度セミナー「シノドス」を運営して注目を集めている。『ウェブ炎上』の著者であり、「トラカレ!」「荻上式ブログ」など多くの人気ブログを運営してきた注目の批評家・荻上チキ氏の参加を得て、さらなる展開を見せるというシノドスについて、主宰者のお2人にうかがった。

知の回路をつくりだす

――なぜシノドスという場を始めてみようと思われたのですか?

芹沢氏■
きわめて単純な驚きからです。『狂気と犯罪』(講談社、2005)や『ホラーハウス社会』(講談社、2006)といった一般向けの本を執筆することで、いろいろな媒体に寄稿する機会を与えていただけるようになりました。幸い読者に恵まれ、仕事の依頼も増え、言ってみればもの書きの業界に名前が登録されたわけです。ところが蓋を開けてみると、もの書き、つまりはものを考えて蓄積をしながらアウトプットしていくという作業が生業にならないことがわかった。ある業界でトップに近い場所まで行ってみたのに食えない。これは単純に考えてもおかしいと思いました。たしかに、大学という組織に属するか、あるいは資産家でなければもの書きとしてやっていけないといわれています。だけど、それで納得したらつまらない。だからまずは食える形をつくってみようというのが最初の動機なんですよ。

【コラム】【芹沢一也氏+荻上チキ氏インタビュー】新たな知の回路をつくりだす/シノドスの試み
『犯罪不安社会
―誰もが「不審者」?―』
――切実な問題ですね。それにしても、そこから仕組みづくりに向かってゆける機動力に驚きます。

芹沢氏■
僕は80年代に思想を形成した人間ということもあって、多様性や自由が何よりも重要だと考えています。これは決して譲れません。でも、論文なんかで「多様性が大事だ」と書いても意味はないでしょう。それより単純な話、たとえば大学以外の場所でものを書いてやっていける場や回路があること、それこそが多様性を担保すると思うんです。多様性を唱えるならば、それで糧を得られる、あるいは生きていける手段を増殖させる方法を考えなくてはならない。シノドスがやろうしているのはそうしたことです。

――2007年に開始したセミナーもすでに13回。こういう取り組みでむずかしいのは、続けることだと思います。途中から荻上さんが運営に参画されていますが、どのような経緯だったのですか。

芹沢氏■
始めてはみたものの、なにしろ一人です。スリッパが足りないとなればスリッパを買いにいかなくてはならない(笑)。それはともかく、シノドスという場をつくって、人と人を結びながらネットワークを広げていくという方向性はみえました。次はネットでの展開を考えたのですが、そのためにはフットワークが軽くて、分野横断的な関心をもっている人が必要でした。そんななかで荻上さんを見つけたんです。彼の活動ももちろんですが、『ウェブ炎上』を読んでとても好感をもちました。

――たしかに、「トラカレ!」やその他の活動を拝見しても、荻上さんは編集や人をつなぐことに長けていらっしゃいますね。シノドスのお話があったとき、荻上さんはどうに思われましたか。

荻上氏■
最初に芹沢さんからお声かけいただいたとき、市民講座のようなものをやりたいのかなと思ったんです。そうだとしたら、あちこちでやっていることと代わり映えもしないしつまらないなぁと思っていました。でも芹沢さん会って話をきいてみたら「ちがうんだよ。もっと面白いことをやりたい」とおっしゃる。半ば冗談で「じゃあ起業して潰れゆく出版業界にM&Aをかけて買収することなんかOKですか?」と訊いたら、「それ、面白いね」とのってきてくれた(笑)。この冗談が通じるということは、まず思想や主義主張だけが前面にあって、方法論は二の次みたいなよくある大失敗のパターンとは別のことを考えているんだなと判りました。もちろん思想状況などに対する熱い思いはあるけれど、そのための適切な手段を考えることから出発している。

芹沢氏■単純な話、お金が集まらないところには人材も集まりません。しばしば言論が駄目だという話を耳にしますが、人材が集まらなければレベルが下がるのは当然です。お金が集まってまわっていく場とシステムを作れば、人材も集まるしそこから優秀な人も出てくる。もっと言えばリベラルな言説を復活させてゆくことにもつながりうる。「公共圏を作ろう」という話をするなら、そこから考えてやっていく必要があります。

荻上氏■僕はライターや批評家や学者をわりとフラットに見ているんです。要するにこの人たちは時間をかけて人の代わりに本を読んだり頭を使う人たちです。そしてそういう蓄積を社会に還元しつつ、お金を稼ぐ人たちでもある。最近なら、ここにブロガーを加えてもいいでしょう。日本ではこういうところでお金の話を持ち出すと、なにか汚いイメージがつきまといがちですが、当然ながらなにかを続けていきたいならお金が要るし、お金が還流する仕組みをつくることが、後続の人たちに対する責任を果たすことでもある。芹沢さんは論壇でも、そういうことを意識しながら発言の回路を開いていく作業に注意を向けていた。その点に共鳴するところがあったので、では一緒にやってみましょうと。

――言説や知を活用する既存の商業モデルに対して、別の回路を示す試みでもあるわけですね。シノドスの活動は、「トラカレ!」などの活動とはどのようにリンクしていますか?

荻上氏■
ブログも本の編集もそうですが、僕はもともと人とコンテンツをつないでいくのがとても好きなんですね。ブログや評論活動をやっているのはそういう動機からですし。もちろんシノドスもそういう場で、しかもそこで行われている面白いセミナーの模様をどんどんコンテンツにして発信しようというのですから、僕としてはこんなに嬉しいことはありません。ウェブ業界のコンテンツ使用のフローと比べると、たとえば出版業界では原稿を本や雑誌に載せたらだいたいそこでおしまいですよね。ほとんどのイベントもその場限りで、コンテンツ化されない。でもそれってとてももったいない。講演会とかで知識人からもらったレジュメが宝物だった自分にとって、目の前に転がっているツールやウェブのビジネスモデルを使っていけば、もっと多様なコンテンツの活かし方ができるはずだし、言説の場をラディカルに変えることだってできるはずだと思っていた。シノドスでは、自分がこれまで培ってきたノウハウを使いながら、そういうことをすごく身軽にやっていけると思いました。


セミナーの内容

【コラム】【芹沢一也氏+荻上チキ氏インタビュー】新たな知の回路をつくりだす/シノドスの試み
『ウェブ炎上
―ネット群集の暴走と可能性―』
――ところでセミナーは、どのように行われているのでしょうか。

芹沢氏■
シノドスのゲストには、いまもっともアクチュアルな議論を展開している方をお招きします。当日は、僕と荻上さんを含む参加者がその方を囲むようにテーブルについて、設定されたテーマをめぐって話し合います。いまは定員を10名に設定しているので、まさに「カフェの距離」です。はじめにゲストの講師に1時間半ほどお話をしていただいて、あとはもう談論風発です。

荻上氏■シノドスでは、目の前にいる講師にすぐにでも本質的な質問を投げて応答を得られるのが魅力です。なにしろゲストの著作を読んで一番気になっていた質問を、その当人に直接目の前で顔を見ながらぶつけられるのですから、これはなかなか贅沢な体験だと思いますよ。

――そこで伺いたいのですが、シノドスに興味はあるけれど、かえってその距離の近さに二の足を踏む人がいるかもしれません。そういうシャイな人はどうしたらよいですか?(笑)

芹沢氏■
そこが目下の悩みでもあります。でも、僕にしても荻上さんにしても、参加者をそれこそ友人のように歓待しますし、議論自体もごくごくざっくばらんに進みます。ですから、身がまえたり気負う必要はまったくありません。講師も参加者も対等な目線で、お茶を飲みながらカジュアルに話す、そんな場をイメージしてもらえたらよいと思います。もちろん静かに聴いているだけでもかまいませんよ。

荻上氏■でも、ディスカッションが進むうちに、最初は静かだった人が気づくと鋭い質問を飛ばしていたりすることもしょっちゅうですよね(笑)。なにしろいろいろな出自の参加者が集いますから、テーマに応じてお互いの立場やディシプリンから見えるものを意見交換するだけでも相当面白いケミストリーが生じます。相互にリスペクトしあうなかで、議論をどう高めたり深めたりしていけるかというセッションを楽しんでもらえればなによりですね。僕も学生時代からたくさんの講演やシンポジウムや勉強会に顔を出してきましたが、これだけ近い距離感で話せるのはシノドスならではの楽しみじゃないかと思います。

芹沢氏■しかもセッションだけで3時間近く、その後はそのままその場所で飲み会になります。はじめて顔をあわせる参加者のみなさんもそのころにはすっかり打ち解けて、ディスカッションの延長上で話をしたり、飲んだ勢いであれこれ言ったりしています(笑)。その頃には、ゲストの方もほかでは聞けない裏話をお話になっていますし。

――まさに『饗宴』ですね。ゲストの反応はいかがですか?

芹沢氏■
面白いなと思ったのは、参加者だけでなくて、来てくださるゲストの方がとてもよろこんでくださっていることです。やはり一般7,000円、学生3,000円といった額のお金を払っていただいて全員の顔が見える場で話すプレッシャーもありますし、参加する側にも「その分聴いて帰るぞ」という熱気があります。そういう場で話すのは一方的にアウトプットをするだけにも終わらず、話し手にとっても得るものが少なくありません。手前味噌になりますが、僕自身の講師経験から言っても、講師と参加者のお互いにとって幸福な空間になっていると思います。


さらなる展開に向けて

――先ほど「次の展開」とおっしゃったのですが、具体的にはどのようなことを構想していますか?

芹沢氏■
まずはメールマガジンの刊行を予定しています。4月に発行する予定の創刊号では、中島岳志さんのセミナーの記録を全文配信。参加者の発言を含む2時間を超えるセッションの様子を知っていただけたらと思います。これだけでも3万字以上のボリュームです。今後はほかにもさまざまな論者による原稿を掲載する予定です。

荻上氏■セミナーのテキスト起こしのほか、連載やコラム、インタビューなど、目白押しの内容にしていきますよ。このメルマガのコンセプトはその無料配信の創刊号をお読みいただければと思いますが、有名無名を問わず面白いことを考えたり書いたりしている人たちの文章を積極的に掲載して、その人材をまたシノドスとつながっているあちこちの編集者たちに適材適所でどんどん送っていく回路を作りたいと考えています。シノドスのメルマガに書けば次のステップにもつながるという体制づくりを進めていきますので、メルマガにもぜひ注目してください。

芹沢氏■セミナーでお呼びしているゲストの顔ぶれから、先端の議論に特化するように見られがちですが、メルマガではむしろ僕のスタンスでもある歴史的な視点を入れていきます。やはり、どの分野について議論をするにしても、歴史と断絶しすぎていては話になりません。さまざまな分野における現代の議論と過去の歴史とを往来しながらいろいろな問題を位置づける役に立つようなメルマガを狙っています。

荻上氏■それこそ、歴史や哲学思想や文化からネットや各種サブカルチャーまで、教養を身につけたいけれどどこから手をつければいいかよくわからないというような読者に、「まずはこれを読んでおけばOKだよ」というコンテンツをどんどんお届けしたいと思っています。読むと確実に脳力がアップする役立つメルマガです(笑)。メルマガ以外にもいくつもの企画を進めているので、それらにも注目してほしいとおもいます。人文系の学問や文化・政治に関する議論が好きな人なら、「おぉ、これはありがたい」と思えるような企画を用意していますから。

芹沢氏■それから、いまのセミナーは場所が東京に限られていますが、将来的には僕と荻上さんでいろいろな場所に出向いてセミナーを開催できたらなんて考えてもいます。

荻上氏■気付けば「とにかく期待しろ」としか言っていないような気もしますが(笑)、しかしちょっといじくれば面白いことにつながるようなことってたくさんありますし、そういう些細なことで何かが変わることもありますからね。というわけで、とにかく期待してください(笑)。

――メールマガジンとシノドスの新展開、たのしみにお待ちしています。本日はお忙しいところをどうもありがとうございました。

(執筆・構成=山本貴光


●芹沢一也(せりざわ かずや)
1968年生まれ。日本近現代史における狂気と犯罪の位置づけを軸に、歴史と現代を重層的に読み説く新進気鋭の思想家。著書に『“法”から解放される権力』(新曜社)、『狂気と犯罪』(講談社)、『ホラーハウス社会』(講談社)ほか多数がある。2007年より「日本社会を多角的に検討する知の交流スペース」シノドス主宰。


●荻上チキ(おぎうえ ちき)
1981年生まれ。幅広い文化現象やコンテンツをシャープに分析する批評家、アルファブロガー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、共著に『バックラッシュ!』(双風舎)がある。人文社会科学系を中心にネットで話題のニュースやトピックを紹介する人気サイト「トラカレ!」も主宰している。シノドスにも参画。

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