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2008年09月24日

立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室

【連載】戦略フレームワークを理解する「イノベーションのジレンマU」 (2/3)

それでは、デルは?アマゾンは?デジタルテレビのビジオは?
日本のDRAMメーカーは?タタ自動車は?アップルのiPodは?レーザー・レーサーは?

 まず、デル、アマゾン、そしてビジオの事例を検討してみよう。
 デルが直販システムによってPC市場に登場した際、コンパック(現HP)やIBMは、その重要さに一早く気付いたにも関わらず、同社の電話での直販システムに対応できず、デルに既存市場を奪われていった。この場合は、デルによって投入された製品はすでに、コモディティ化した製品であり、当初から既存顧客の主な要求水準を満たしており、その上で、PCによるオンライン化に切り替えて顧客が欲しい仕様を選択し、発注処理も完結するサービスを提供している。

 このように、ビジネスモデル上のイノベーションによって新たに既存市場に参入してきたデルやアマゾンの戦略も、既存企業にとっては、「破壊的イノベーション」ということになるのだろうか。その際、「破壊的イノベーション」といえるかどうかの分岐点は、クリステンセンの上記図表に依拠すれば、その製品・サービスの性能や機能が、当初から、既存市場の主要顧客の主な要求水準を満たすものであるかどうかということになる。

 仮に、それら製品が当初から、既存顧客の要求水準を満たしている場合や、さらには、要求水準以上の性能や機能を持つ場合には、「既存市場の主要顧客対応型の技術範疇である」ために基本的には「持続的イノベーション」の範疇に入る。そして既存顧客の基本的要求水準を満たしながら、さらに別の新たな機能を低価格で提供している製品・サービスの場合には、「破壊的イノベーション」といえるのだろうか。

 デルとアマゾンの場合は、製品には新たな技術的特質が見出されないが、オンライン化による新たなサービスを低価格で提供しており、しかもPCによる作業に抵抗感のない顧客層の新たなニーズに応えているという視点から、クリステンセンの「新市場型破壊」の「破壊的イノベーション」の論理にあてはまる。しかしながら、新たなビジネスモデルを考案、組織化し、主要顧客の技術的要請にもある程度応えながら低価格化を可能にしているという観点からみれば、「ローエンド型破壊」のイノベーションにも分類されうる。(2003、74,77頁ではローエンドに入れている)。

 それでは、デレタルテレビのビジオの場合はどうだろうか。
 韓国のサムソン・エレクトロニクス(三星電子)、ソニー、シャープが上位を占めてきた米国デジタルテレビ市場に、2007年暮れ、まったく無名であったビジオが突如トップシェアを占めた。 

 同社の場合は、設計を単純化し、製造を台湾のEMSに委託して低価格化を実現、既存市場からシェアを奪うことに成功している。こうした企業群は、明らかにビジネスモデルのイノベーションによって、低価格を実現しながら、性能的には、若干劣っているにせよ、主要顧客の基本的要求水準の範囲内であり、既存市場からシェアを奪うことに成功している。

 したがって、ビジオの場合は、製品にもサービスにも新たな技術的特質や用途は含まれていないため、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の論理にあてはまらないことになる。しかし、この点は『イノベーションへの解』では、より広義に解釈され、新たな技術的特質や用途のみならず、新たなビジネスモデルによって低価格を実現し、既存ローエンド市場への参入に成功している場合にも、「破壊的イノベーション」の範疇に含められている。ビジオの事例は、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)では、「破壊的イノベーション」の中の「ローエンド型破壊」のイノベーションのタイプに分類されうる。

 このように、新たなビジネスモデルを考案、組織化し、主要顧客の技術的要請にもある程度応えながら低価格化を可能にしている場合は、「ローエンド型破壊的イノベーション」に分類されうる。

 次に、かつては世界を制覇した日本のDRAMメーカーの事例を検討してみよう。
 1980年代に日本のDRAMメーカーが圧倒的なシェアを獲得していた時代には、メインフレーム用のメーカーや電話交換機用の電電公社向けの「25年保障の信頼性」を可能にする高品質のDRAMを主要顧客から要求され、それに応えてきた。しかし、1990年代に入っても、日本のDRAMメーカーは主要顧客からの要求に応え続け、高品質・高価格の製品開発を優先させ、他方、PC市場向けにより低い性能、かつ低価格のDRAMの量産を可能にする新しい技術的特質の開発に成功した韓国、台湾および米国(Micron社)にシェアを奪われてしまった。この場合は、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の論理が当てはまる(湯の上、2006)。この日本DRAMメーカーの事例は、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)では、「新市場型破壊」のイノベーションのタイプに分類されうる。

 続いて、インドのタタ自動車が投入予定の軽乗用車、モデル名「ナノ」の事例ではどうなるだろうか。
 2008年内に、インドの自動車市場に10万ルピー(25万円)台の超低価格小型車(モデル名「ナノ」)を投入するタタ自動車の事例は、性能、機能とも既存の主要顧客の要求水準を大きく下回っており、そして極めて低価格である。この場合は、インド自動車市場の主要顧客の要求水準を大きく下回っているために、主に、新たな顧客層を創り出すか、あるいは二輪車(バイク)市場の顧客を奪うことによって自らの足場を築き、数年内に性能、機能を大きく改善させて、4輪自動車の既存顧客からシェアを奪うことが想定される。

 したがって、タタ自動車の場合には、この超低価格車に新たな技術的特質が盛り込まれていれば、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の構図に当てはまる。この事例は、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)では、「新市場型破壊のイノベーション」のタイプに分類されている。

 クリステンセンは、かつてトヨタやホンダが小型自動車を北米市場に投入した事例をこの「破壊的イノベーション」のケースとして用いている。この場合には、こうした小型自動車に小型化や少燃費化等の新たな技術的特質や用途、便益が盛り込まれていることが条件となるが、この事例は、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)では、「ローエンド型破壊のイノベーション」のタイプに分類されている。

 またタタ自動車は、MDI社(フランス)の圧縮空気技術を用いた、空気カーを2009年に、安全性、その他の諸機能では単純、低性能ではあるが、超低価格でインド市場に投入することを表明した。この場合は、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の論理に当てはまる。そしてこの事例は、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)では、「新市場型破壊のイノベーション」のタイプに分類されている。

 それでは、アップル社による iPod(携帯型デジタル音楽プレーヤー)の場合はどうだろうか。
 同社は、2001年(Macintosh 用)、2002年(Windows用)の投入時点において、基本的性能を満たしながら、同時に新たな技術的特質の追加によって、「既存顧客からのシェアの獲得」と「新たな顧客の創造」の両方を可能にしている。

 PCを媒介にネット上からの曲のダウンロードと5GBのハードディスク内臓により約1000曲を搭載可能にしており、新たなビジネスモデルと斬新なアイデアに富んだ技術的特質が盛り込まれている。この製品の登場によって、携帯型音楽プレーヤーの日本のメーカーは一挙に、主要顧客からローエンド市場に至るまで既存市場をアップルに奪われることになった。この場合は、「iPod」は投入当初から、既存顧客の要求性能を満たしたうえで新たな技術的特質を盛り込んでおり、厳密には、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の論理には当てはまらない。この 「iPod」の事例は、高い性能を要求する主要顧客まで奪われているために、『イノベーションへの解』(C.K.クリステンセン・M.レイナー、2003)の分類によっても、「新市場型破壊のイノベーション」のタイプに属さない。むしろ、ラディカルな技術開発に基づいた高性能化・高機能化を実現して、既存顧客を奪う「持続的イノベーション(Sustaining Innovations)」の部類に入れざるをえない。

 同じように、スピード社の競泳用水着「レーザーレーサー」の場合も、水泳選手が身に着けにくく、動きにくいという意味で低機能ではあるが、水の抵抗を抑える新たな技術的特質によって、高記録を可能にし、それによって主要顧客なり、戦略的に重要な顧客を奪うことに成功している。この場合も、ラディカルな技術の開発に基づいた「持続的イノベーション(Sustaining Innovations)」の部類に入ることになる。

 こうした諸事例から判断すると、クリステンセンが論じてきた「破壊的イノベーション」の論理に厳密に従うと、アップルのiPodやスピード社のレザー・レーサーのように、既存市場の主要ユーザーを一挙に奪うような「ブルー・オーシャン型イノベーション」をどのように規定するかは、グレーゾーンの領域はあるにせよ、むしろ、ラディカルな技術に基づく「持続的イノベーション(Sustaining Innovations)」の部類に入れるほうがより論理的である。

 こうしたクリステンセンのあいまい性を補うためには、三つ目の新たなイノベーションの分類基準を設けないとすれば、「破壊的イノベーション」の場合と同様、「持続的イノベーション」も「新市場型持続的イノベーション(New Market Sustaining Innovation)」と「ハイエンド型持続的イノベーション(Hi-End Sustaining Innovation)」の二つに分類したほうがより説得的となる。

 両者とも、ラディカル(Radical)な技術革新の場合もあるし、また、漸進的(Incremental)な技術革新の場合も想定される。たとえば、USBフラッシュメモリーがフロッピーディスクに替わって登場し、やがて64MB、128MB、256MB、512MB、そして 1Gから2G、そして4Gから8Gへと高機能化し、2008年8月現在、8Gが4000円台で手に入る状況となっている。

 また、ブラウン管テレビに替わって登場してきた液晶テレビはどうだろうか。つい最近まで1インチ1万円以上した液晶テレビが、より高性能・高機能化した上に、15インチでは2〜3万円台、40インチサイズでも20万円前後で入手可能になっている。米国市場では10万円以下で出回っている。両製品とも、新たに市場に投入された時点においては、フロッピーディスクやブラウン管テレビの主要顧客は、自らの基本的ニーズをよりハイレベルで満たしてくれるこれら新製品の顧客へとシフトしてきた。

 したがって、これらUSBフラッシュメモリーやデジタルテレビが市場に登場した際には、「新市場型持続的イノベーション(New Market Sustaining Innovation)」の部類に入る。そして、やがてこれらUSBフラッシュメモリーやデジタルテレビのメーカーが主要顧客の要求するより高い性能・機能の技術を開発して、よりバージョンアップされた製品をこれら主要顧客に向けて投入していくようになると、これらより高性能・高機能化したUSBフラッシュメモリーやデジタルテレビの新製品は、「ハイエンド型持続的イノベーション(Hi-End Sustaining Innovation)」の部類に位置づけられることになる。

 このような観点からすれば、アップルの「iPod」やスピード社の「レーザー・レーサー」の場合も、新製品として市場に登場した際には、既存市場の主要顧客や戦略的に重要な顧客層から、彼らの基本的(潜在的)ニーズに応える新たな技術的特質を有する新製品として受け入れられている。この意味において、アップル社の「iPod」やスピード社の「レーザー・レーサー」の場合も、新製品として市場に登場した際には、「新市場型持続的イノベーション(New Market Sustaining Innovation)」の範疇に位置づけられる。アップルの「iPod」は、登場以降、主要顧客層のより高性能・高機能化への要望に応える形で、よりバージョンアップされた製品が投入されている。したがって、これらよりバージョンアップされた「iPod」製品シリーズは、「ハイエンド型持続的イノベーション(Hi-End Sustaining Innovation)」の範疇に位置づけられる。おなじように、今後、スピード社が「レーザー・レーサー」の改良版を投入してきた場合には、それら新製品のシリーズも「ハイエンド型持続的イノベーション(Hi-End Sustaining Innovation)」の範疇に位置づけられることになる。

 クリステンセンが主張してきた一連の著作から総合的に判断すると、たとえ、新製品・サービスに「新たな技術的特質」がない場合でも、自社内外の経営資源を再構成・再編成することによって新たな用途や便益(サービス)を低価格で提供し、新たな市場を創出した場合には「破壊的イノベーション」に含めるほうが彼の含意に沿っていることになる。

 たとえば、現地企業にせよ、多国籍企業にせよ、従来の製品を容器の工夫だけによって、より小型化、軽量化し、低機能で低価格な製品を、インドや中国の農村市場用に投入して、新たな市場を創出した場合でも、「破壊的イノベーション」の範疇に含めるほうが彼の主張の戦略的重要性は伝わってくる。しかしながら、多くの多国籍企業は、先進国市場のみならず、発展途上国の貧困層の用途向けの適合製品を開発することによって、ハイエンドからローエンドにいたる市場をグローバルな規模で取り込んできている。

 こうした場合には、同じ製品であっても、他社が開発して投入してきた場合には「破壊的イノベーション」ではあっても、自社がまったく同一の政策をとった場合でも、「破壊的イノベーション」とはいえない。彼が用いている「破壊的」という概念は、競合企業との対抗関係において定義される概念となっている。しかしながら、日本エレクトロニクス産業が東アジア系企業からの「破壊的イノベーション」の脅威を受けているとも言える。この場合は、日系エレクトロニクス産業対東アジア系エレクトロニクス産業との対抗関係においても成立する概念である。

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