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2008年12月01日

武蔵大学経済学部 准教授 黒岩健一郎氏

【市場志向型経営の構図 第3回】マーケティング・リテラシーの効果

前回は、マーケティング・リテラシーについて説明した。これは、情報生成力、情報普及力、情報反応力という3つの力を統合したものであった。では、マーケティング・リテラシーを高めれば、企業は儲かるのだろうか。 今回は、マーケティング・リテラシーがもたらすさまざまな効果について解説する。

執筆:黒岩健一郎

イノベーション

 マーケティング・リテラシーの第一の効果は、イノベーションである。市場情報を把握し、この情報が製品開発関連部門へ流れ、各部門が的確に対応すれば、良い製品が生まれるということは、予想に難くない。マーケティング・リテラシーは、製品やサービスの革新性を高めるのである。イノベーションは技術開発の成果と考えがちだが、技術開発にだけ注力していても売れる製品はできない。やはり、市場情報が加わって初めて売上につながるのである。

 しかし、他方で「顧客の声を聞きすぎると革新的な製品はできない」という意見もある。ハーバード・ビジネススクールのクリステンセンは、常に顧客の声を聞いていたのに、いや聞いていたからこそ次世代の規格への転換期に遅れた事例を取り上げ、いわゆる「イノベーションのジレンマ」と呼ばれる現象について示した。

 では、どちらが正しいのだろうか。この点には、次のような説明がされている。まず、製品の創造性には2つの側面があるという。それらは、「競合製品との差異」と「顧客にとっての意味」である。過去の研究では、顧客の話を聞くと、競合製品との差異は小さくなってしまうが、顧客にとっての意味は大きくなるという結果が出ている。すなわち、イノベーションのジレンマは、競合製品との差異が小さくなってしまう点を強調していると考えられ、マーケティング・リテラシーの研究は、顧客にとっての意味を押し上げる点に注目していると考えられる。

 ただ、新製品の売れ行きへの影響力は、競合製品との差異よりも顧客にとっての意味の方が強い。したがって、マーケティング・リテラシーはイノベーションにとって重要という結論となるわけである。


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図1:マーケティング・リテラシーの効果


顧客

 マーケティング・リテラシーは、製品やサービスの知覚品質にも影響を与える。市場志向型経営の企業は、そうでない企業よりも顧客のニーズに合った製品やサービスを提供しているので、顧客が評価する品質が高くなるのも納得がいくであろう。

 また、マーケティング・リテラシーは、顧客満足も高める傾向がある。さらに、満足した顧客は継続的に購買をする可能性が高いので、顧客ロイヤルティも促進されることになる。

従業員

 マーケティング・リテラシーの効果で興味深いのは、従業員の職務満足も高まることである。従業員のことではなく市場のことをよく考えている企業の方が、内部の従業員の満足度が高いわけである。少し意外な結果のように思えるが、顧客が喜んでいるのを見ることは従業員にとってうれしいことであるし、自分の仕事へのやりがいを見いだすことにもなるだろう。

 また、マーケティング・リテラシーは、組織へのコミットメントにも影響を与えている。単に企業の業績を上げることよりも、市場のニーズに応えるということに意義を感じる従業員は多いだろう。昨今、企業の社会的責任を意識する従業員も増えているため、この傾向は強まっているかもしれない。

 
業績

 さて、肝心の業績はどうだろうか。
これまでに述べた内容から、マーケティング・リテラシーが業績へも良い影響を与えることは、簡単に想像がつくだろう。革新的な製品を生み出すことができている企業は、業績も良いということは、あまり説明を要しない。また、従業員満足は顧客満足を生み、顧客満足は顧客ロイヤルティを押し上げ、顧客ロイヤルティは業績を向上させるという鎖状の関係は、サービス・プロフィット・チェーンと呼ばれている。

 論理的な説明だけでなく、実際にも、マーケティング・リテラシーは、収益にも良い影響を与えている。これまでの研究は、マーケティング・リテラシーとROAなどの客観的な財務指標との間に相関関係があることを示している。また、事業担当者の主観的な認識としても、マーケティング・リテラシーと収益性は関係があると感じているようである。

 マーケティング・リテラシーと業績の関係は、さまざまな業種で調査されている。サウジアラビアにおける銀行のケースやタイにおける通貨危機直後のケースなどでは、この関係は見出されなかった。しかし、多くの研究で相関関係が見られている。すなわち、特殊な環境でない限り、マーケティング・リテラシーを高めれば、業績は向上すると言ってもよいだろう。

 
日本企業のマーケティング・リテラシー

 これまで述べてきた内容は、欧米の企業をサンプルとして行われた調査の結果である。したがって、日本企業にもあてはまるかという疑問が残る。実は、社団法人日本マーケティング協会が、2004年に日本企業を対象にして大規模な調査を実施している。日本企業の東証1部上場、2部上場企業における事業部門のトップに対して質問票を郵送し、343事業部から回答を得ている。マーケティング・リテラシーの測定は、前回示した質問例が使われている。

 この調査から、第一に、マーケティング・リテラシーと営業利益の伸びとに相関関係が見られた。第二に、新製品の成功割合とも正の相関があった。第三に、ここ3年に市場に出した新製品の売上が全体の売上に占める割合とも関係がみられた。すなわち、マーケティング・リテラシーと業績の関係、そしてイノベーションとの関係において、既存の研究結果がそのまま当てはまることがわかった。

 また、サービス業よりも製造業の方が、マーケティング・リテラシーが各成果に与える影響力が強いという結果が見られたが、これも欧米企業の調査結果と合致している。したがって、日本企業においても、これまでのマーケティング・リテラシーに関する知見は利用できると考えられる。

 
むすび

 このように、マーケティング・リテラシーを高めることができれば、さまざまな成果が得られる。特に、企業業績を押し上げることは、市場志向型経営を推進する際に心強いデータである。さて、マーケティング・リテラシーを高めれば業績も良くなることがわかったのであれば、次の課題は、いかにしてマーケティング・リテラシーを向上するかになる。次回は、マーケティング・リテラシーを促進する要因について説明していこう。
黒岩健一郎

武蔵大学経済学部 准教授

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