• 2009/07/31 掲載

【都築響一氏インタビュー】本当におもしろい企画を生み出すために

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編集者、写真家として、多様な切り口から、多くの企画と書籍を生み出してきた都築響一氏。その都築氏は、アートとデザインについて、濃くておもしろい2冊『現代美術場外乱闘』、『デザイン豚よ木に登れ』(ともに洋泉社)を上梓されたばかり。常におもしろいものを求めて活動を続ける都築氏に、その企画やアイデアを生み出すためのヒントをうかがった。

一番メジャーなことをやっているのにマイナー扱い

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――アイデアや企画というのは、本や雑誌に限らず、さまざまな仕事の分野で求められます。都築さんの仕事は、広範な分野に及んでいますが、アイデアや企画というのはどのように生みだしているのか、その発想をお聞きできればと思います。

都築氏■
よく言われるのはね、どうしてそんなにすき間ばかり狙って本を作るんですかということなんですけど、僕はまったくすき間狙いじゃないんですよ。最初にやった『TOKYO STYLE』(※1)は、独り暮らしの人の部屋の写真集ですけど、東京に住んでいる人の多くがシングルルームに住んでいる。『珍日本紀行』(※2)にしたって、ありふれた日本の地方で見つけた光景を本にした。日本の地方の多くが京都や金沢のような観光地ではないでしょ。それを取り上げた方がおもしろいじゃない?

 いま、僕はスナックの取材をしているんですけど、スナックの数って日本に16万軒もある。お酒を飲むところとしてはバーよりも多い。でも、スナックのガイドブックって一冊もないんですよ。立ち飲み屋だ、下町の居酒屋だ、いろんな飲み屋のガイドがあるのに関わらず。最近、山田なおこさんによるスナックの写真集が一冊出ただけですから。

 これは、みんなが住んでいるはずのワンルームを撮った写真集がなかったのと同じです。いろんなジャンルでこういうことが起きているわけですよ。すき間狙いの反対で、一番ありふれているものを取り上げているだけなんですけど、それが一番マイナーだってことになってしまう。

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『現代美術場外乱闘』
――誰もが知っているものなのに、誰もが見過ごしてしまっているものが世の中にはたくさんあると。

都築氏■
なぜそうなるかというと、企画を考えるという行為と、個々の人間の日々のリアリティの間に、大きなギャップがあるからだと思うんですよ。会社が終わったらスナックに行って演歌を歌うような生活をしていても、それを見ないことにしてものを考えようとしているんだな。不思議なことだと思うんだよね。うまくいくはずがない。だって、30代の男の編集者に、20代のOL向けの企画を考えろって言っても、そこですでに企画は死んでるわけだもの。自分とは違うんだから。

 たとえば、本を作る場合に、企画会議とか編集会議っていうものをするわけじゃないですか。ひとりが提出した企画をみんなで、ああでもないこうでもないってブラッシュアップしていく。でも、その時点で企画の9割はダメになるんです。だって、自分で考えたことじゃないものになるんだから。それをやれって言われても困りますよ。


企画と会議は宿命的に合わない

――編集者という職業にもっとも求められるのって、売れる本や雑誌の企画書を考えて、それをうまくプレゼンする能力だと思っていましたが……。

都築氏■
僕は企画会議がまったくない環境で育てられたんです。『ポパイ』が創刊されたとき(1976年)にバイトのお茶くみから始めて、原稿を書くようになって、それから『ブルータス』(1980年創刊)の創刊を手伝うになって、かれこれ合計10年くらいマガジンハウスでフリーで仕事をしていたんですけど、その間、1回も企画会議をしたことがないの。

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都築響一氏
――マガジンハウスは、企画会議やらないんですか?

都築氏■
いまの『ポパイ』『ブルータス』はさすがにやってるんじゃないかな。でも、僕がいた頃はなかったんです。ただ、僕はフリーとして関わっているわけだから、書かないと収入がないわけですよ。だからネタを見つけてこなくちゃいけないんだけど、見つけてもプレゼンする場はないわけ(笑)。

 それで編集長やデスクのところに、「こういう企画をやりたいんだけど」って言いに行って、ページと予算をもらうんです。毎号そんな感じ。だから、隣の机の人が何をやっているかなんて、雑誌が出てみないとわからない。後で外の雑誌でも仕事をするようになってから、編集者が「企画会議を通します」とか言ってるのを聞いて「何それ?」ってなったの(笑)。

――ふつうの雑誌では、まず企画会議を通ってから取材に行って、それから記事になりますよね。

都築氏■
だけど、プレゼンっていうのは人を説得しないといけないわけじゃないですか。そのためには説得のための材料が必要になる。たとえば、いまニューヨークでこれが流行っていますよという記事がやりたいとするよ。でも、説得材料があるってことは、もう誰かが企画して雑誌などですでに形になっているということじゃない。それってもう二番煎じなんですよ。おもしろそうだけど、行ってみないとわからないから取材に行くわけでね。つまり、企画と会議なんて宿命的に合わないものなんですよ。だから、企画会議って根本的におかしい。


文句の数と給料の高さは比例している

――都築さんの場合は、紙媒体の仕事以外に、空間プロデュースの仕事もしていますよね。芝浦GOLD(※3)や恵比寿MILK(※4)などが有名ですけど。そういう仕事の場合って、どうしてもクライアントに向けて企画書をプレゼンしなければいけませんよね?

都築氏■
会議でプレゼンした経験なんて一度もないです。たとえば、「来夢来人」(※5)っていう丸の内ビルの中にある、丸の内地域で唯一のカラオケスナック、しかも女性限定というお店を作ったんですね。

 この場合、「来夢来人」の隣にまず「musmus」という和食のお店があって、その隣の小さなスペースが空いているという話が、僕と一緒にやっている佐藤さんというオペレーターの人のところに来たんです。じゃあ、最近、僕がスナックに凝っていて、こういう場所にベタベタのスナックがあるとおもしろいよねっていう話になった。ソファーはこういう感じで内装はこうっていうのを、実際にスナックに連れて行って説明したの。企画会議だったらそんなふうにはならないでしょ。そもそも、三菱地所の人なんて、もちろんスナックの内装なんかやったことないんだから、図と企画書で説明してもわかりませんよ(笑)。

――会議からは生きたアイデアは出てこないと。

都築氏■
結局、企画会議っていうのは、リスクの分散のためにやるんですよ。誰も責任を取らなくてもいいシステムなんです。僕が昔、企画を編集長のところに持っていったときに「売れるかどうかはわかりません」って言って、すごく怒られたことがあるんです。「金になるかどうかを考えるのは俺なんだ、お前は考えるな」って。

 逆にね、自分の企画で雑誌が売れたこともあったかもしれないですけど、それは編集長のお手柄なんです。本来、売れなかった責任も売れた手柄も編集長のものなんですよ。おもしろいものをつくり出す人間は、余計なことを考えるなという環境を与えられていた。

 僕はものを作り出すプロセスはこうあるべきだと思います。そうしないと、すでにあるものの二番煎じを作ろうという結論になって、おもしろいものは生まれなくなってしまいますよ。

――たしかに、企画会議で言われることって、同じジャンルのこの本はこれだけ売れているからOK、もしくは、このジャンルだと売れている本がないからダメ、といった話になりますよね。前例のない企画は通りにくくなっています。とはいえ、今そうなっているのは、景気が悪くなったからで、景気がよかった時代のようにはいきません。予算繰りが苦しい中で、新規性はなくとも確実に収益に結びつく本を作ることを要求されるようになっています。

都築氏■
とは言ってもね、この時代にも売れている雑誌はあるわけで、そこではそんなふうにものを作ってないんじゃないかなあ。僕の知り合いの実話系エロ雑誌で、40万部売っている雑誌があるんです。それを作っているカリスマ編集長の話を聞くと、編集者から上がってきた企画は、どんなものでも一度はやらせてみる。いま、雑誌の最前衛は一般誌の週刊誌なんかじゃなくて、そこですよ。悠長に企画会議なんてやってないの。企画の鮮度が落ちるから。

――なるほど、出版界は不況を言い訳にしすぎていると。

都築氏■
僕の周りでも、好きなことがやれなくなった、企画が通らないって文句を言っている編集者はいっぱいいますよ。でもね、文句の数と給料の高さは比例しているの(笑)。一方で、さっき言ったエロ出版社のやつらなんて、たいして給料をもらってるわけじゃないんだから。

 たしかに僕も、10年前に比べると大手の出版社の仕事する機会は減ってます。僕に付き合ってくれているのは、規模の小さい出版社の編集者の方が多いです。その方が、企画が通りやすいから。おもしろいことをやってその代わり給料は安いか、お金は一杯もらって、その代わりやりたくないことをやるか、どっちかなわけ。そう思えば、むしろ気は楽だよね。

(注)
※1:『TOKYO STYLE』 
東京の独り暮らしの部屋を撮影した写真集。1993年刊行。
※2:『珍日本紀行』 
「ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行」日本のロードサイドの珍妙な風景を収めた写真集。
※3:芝浦GOLD 
バブル時代、ウォーターフロントが流行した時代に、都築氏が空間コンセプトを担当したクラブ。1995年に閉店。
※4:恵比寿MILK 
2007年末で閉店した目黒区恵比寿のクラブ。都築氏が空間プロデュースを担当。キューブリックの映画『時計仕掛けのオレンジ』に登場するバーの内装を意識した空間デザインが話題になった。
※5:「来夢来人」 
丸の内ビルディングの中にある都築氏が空間プロデュースを行っているカラオケ常備のスナック。入店できるのは女性に限られる。ちなみに「来夢来人」は、日本のスナックで一番多い名称とのこと。

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