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  • 2010/01/12 掲載

AR(拡張現実)とは何か?スマートフォン普及とともに注目集める新体験【2分間Q&A(63)】

2014年にはスマートフォンの割合が37%に急成長

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米Pyramid Research社が2009年12月に発表した報告書によれば、2014年には世界の携帯電話市場におけるスマートフォンの割合が37%に急成長するという。このスマートフォン市場急拡大の影で、今後の大きな市場として注目されているのが「拡張現実(AR)」だ。ARは、携帯電話やスマートフォンなどのカメラで映し出す現実のオブジェクトに、オンライン上の多様な情報を重ね合わせることで、位置情報に基づいたコンテンツを閲覧したり、他のユーザーと共有できる技術として注目され始めた。新たなSNSやショップ販売、プロモーションなど、可能性を秘めたAR技術の具体的な内容とビジネスの展望、そして将来性について見ていくことにしよう。

池田冬彦

池田冬彦

AeroVision
富士総合研究所(現みずほ情報総研)のSEを経て、出版業界に転身。1993年からフリーランスライターとして独立しAeroVisionを設立。以来、IT系雑誌、単行本、Web系ニュースサイトの取材・執筆やテクニカル記事、IT技術解説記事の執筆、および、情報提供などを業務とする。主な著書に『これならできるVPNの本』(技術評論社、2007年7月)、『新米&シロウト管理者のためのネットワークQ&A』(ラトルズ、2006年5月)など多数。

スマートフォンの普及が拡張現実を牽引する


図1 パススルー方式によるARの仕組み


図2 画像認識によるARの仕組み

 カメラを通してディスプレイに映し出される「現実」のビジュアルを、ディスプレイ上でタッチ(またはクリック)するだけで、そのビジュアルにテキストや画像、3Dオブジェクトなど、さまざまな情報を重ね合わせて表示したり、逆に、ユーザーがその場所の情報を登録し、他のユーザーと共有したり、メッセージを交換できる「拡張現実(AR:Augmented Reality)」に今、ようやく普及の兆しが見え始めた。

 拡張現実とは端的に言うと、カメラを使って映し出される映像上にさまざまな電子情報を重ね合わせて、現実の映像を「拡張」する技術のことだ。たとえば、ある店舗がAR上でしか見えない商品用の「ボタン」を設置したとしよう。その場所にAR機器を持ったユーザーが訪れて、カメラで店舗を映すと、ディスプレイ上でのみ商品のボタンが表示される。さらにそのボタンを押すと、AR機器でしか扱わないキャンペーン情報、または実際の商品の詳細な解説が表示される、といった形で用いられる。

 これは店舗に限らず、動物園や博物館、名所や旧跡などのバーチャルツアーガイドとしての応用例も考えられる。動物がいる場所や展示物などの前でカメラを向けると、ガイダンスのためのボタンやアイコンが表示され、それを選ぶと音声やテキスト、写真などを用いた解説が始まる、といった具合だ。

 ではこのARは技術的にどのように実現しているのだろうか。まず、ARでは、「カメラの映像」と「重ね合わせる現実のオブジェクト」を一致させるため、「場所」を示す何らかの情報が必要になる。これを実現する方法は2つある。1つはGPSの測位情報や電子コンパスによる方位情報を利用するパススルー方式(図1)、もう1つは「ARマーカー」と呼ばれる特定のパターンをカメラで写して画像認識(あるいは、カメラの映像の特異点を検出してマーカーを使わずに画像認識する方法)を用いる方法だ(図2)。

 ARは古くから研究され、さまざまなARアプリケーションが生み出されてきた。しかし、ARはアプリケーションだけでは動作しない。Webカメラやディスプレイ、GPS装置や電子コンパス(地磁気センサ)など、デバイスとワイヤレスネットワークなどの実際の機器が必要になる。また、拡張現実に存在する情報にアクセスしたり、操作するための入力デバイスも必要だ。

 ARが注目され始めた当初は、メガネにカメラが付いたヘッドマウント型ディスプレイなどの利用も想定されていたが、あまりにも仰々しく、カジュアルに使えるとは言い難かった。ノートPCとWebカメラによるARシステムもあるが、Webカメラをセットしてアプリケーションを起動する、といった手間がかかり、屋外などで手軽に使えるわけではない。

 このような状況は、スマートフォンの普及で一変した。スマートフォンは、高速な3G通信機能やGPS、電子コンパス、タッチパネル型ディスプレイなど、ARを実用的に使うための機能がすべて揃っている。特に、スマートフォンブームの牽引役となったiPhoneやAndroidは、多くの開発者から有力なARプラットフォームとして認められ、さまざまなスマートフォン向けのARアプリケーションが続々と開発されている。

既に実用化段階に入ったARの現状


図3a セカイカメラのメイン画面。あらかじめ用意されたオーサライズドタグやランドマークタグがエアタグとして表示される


図3b/c セカイカメラはユーザが任意の場所で、思いのままにエアタグを投稿できる。投稿されたエアタグは、他のセカイカメラのユーザから見え、コメントを付けることもできる

 最近のARブームの火付け役となったのは「頓智・(トンチドット)」が開発した「セカイカメラ」だ(図3)。セカイカメラは、スマートフォンのカメラが映し出す現実の映像上に、「エアタグ」というデジタル情報タグを生成し、その「場所」におけるテキスト/画像/音声による情報を提供するパススルー型のサービスだ。アプリケーションは無料で配布され、利用料金は一切かからない。

 セカイカメラが世界中から大きな注目を集めたのは、その実用性もさることながら、ARを使ったソーシャル機能という、斬新なアイデアが盛り込まれていることだ。エアタグには、店舗や公共機関などの「オーサライズドタグ」や「ランドマークタグ」がセットされているが、それ以外に、ユーザーが思いのままに好きな場所にタグを付けることが可能だ。

 入力するタグの内容は何でもかまわない。壁の落書きのようにテキストを入力したり、美味しいラーメン店の前に「ここは美味しい」というタグを付けてもいい。このようなタグは他のユーザーからもブラウズできる。このように、見知らぬ者同士がエアタグを通じて情報を共有できるのだ。

 2009年12月には、ユーザーが投稿したタグにコメントを入れたり、そのユーザーをフォローしてTwitterのようにタイムラインに表示する、といった、コミュニケーション機能「セカイライフ」が装備され、ソーシャルサービスの大幅な強化が図られている。このようにAR-SNSというまったく新しいジャンルを開拓し、ユーザーの支持を集めている。

 もちろん、スマートフォン向けのARはセカイカメラだけではない。オランダのSPRXMobile社が手がける「Layer」も、有力なパススルー型のARシステムだ(図4)。Layerはセカイカメラのような単独のサービスとして提供されるのではなく、APIの公開による世界的なARプラットフォームとして提供されている。

 日本語版のコンテンツ提供はシステム・ケイが手がけており、ホテルや駅、銀行などの検索や、リクルートが提供するホットペッパー上の飲食店、美容室、チラシ情報などの各種データに基づく検索や、Googleのローカル検索に対応したキーワード検索、「みんなのLayer」という、他のユーザーが登録したタグの閲覧や投稿ができるサービスを備えている。

 そのほか、Googleマップと連動して、グルメ、コンビニ、ATMなどの地域情報の場所をタグで表示する「ご近所ナビ」や(図5)、東京の地下鉄駅の方向や周辺のコンビニやファストフード店などの情報を表示する「東京の地下鉄」など、さまざまなアプリケーションが公開されている。もはや、一部のiPhone、AndroidユーザーにとってARは目新しい技術ではなく、実用的なツールとなっている。

 一方、携帯電話の世界でもARが現実のものとなりつつある。KDDIが提供する「実空間透視ケータイ」は、携帯電話のカメラの映像とGPS、地磁気センサーの情報を元にさまざまなコンテンツを提供するプラットフォームだ。

 現在はベータ版による期間限定(2009年12月まで)の試行サービスの段階であったが、自分が撮った写真をマッピングできる「地球アルバム」や観光地情報や宿泊施設の情報などをブラウズできる「トラベルビュアー」などが検証された。


図4 Layerではサービス一覧を表示させ、目的のサービスを選ぶ。近隣の施設やショップなどの情報がカメラの映像に重ね合わせて表示される


図5 ご近所ナビを使って周囲のグルメ情報を検索したところ。「一覧マップ」を選ぶと画面下にGoogleマップ(青丸が現在地)、上にカメラの映像とタグが表示される

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