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2010年05月24日

九州大学大学院教授 篠ア彰彦氏

歴史的視点でとらえた情報革命:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(18)

IT導入の経済効果については、1990年代の米国を対象としたミクロ分析やマクロ分析に加えて、19世紀末から20世紀にかけてみられた蒸気機関から電力への技術変化など、産業革命後の技術革新が経済社会に及ぼした影響を探る歴史分析も盛んになった。それは、米国経済の再生を背景に、時間が経過すれば間違いなく効果が現れるはずだという解釈と結びつき、後にバブルへとつながる過剰な自信をも醸し出していった。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

電力革命と情報革命

 1987年にソローが提起した「生産性パラドックス」については、現代の米国を対象としたミクロ分析、マクロ分析に加えて、歴史的な観点からの考察も進められていた。

 David(1989)は、19世紀末から20世紀にかけての第二次産業革命期にみられた電力技術の導入を分析対象に取り上げ、新技術の導入開始から生産性向上の実現までにはかなりのタイム・ラグがあったことを丹念に跡付けている。彼によると、1881年のニューヨーク中央発電所建設から約20年後の1899年時点で、電気の普及率は製造業で5%、一般家庭で3%に過ぎず、普及率が5割を超えたのは、さらに約20年後のことであった。電化がもたらす経済社会全体へのプラスの効果は、それから後にようやく現れはじめたが(注1)、その間は蒸気機関という旧技術と電力という新技術の並存による非効率が避けられない。

表1 電力革命と情報革命のアナロジー
電力革命情報革命
開始時期19世紀後半20世紀後半
移行期19世紀末20世紀末
経済効果20世紀初頭21世紀初頭?

 たとえば、工場についてみると、動力源が蒸気機関か電力かによって、工場内の設備装置の配置と作業内容はまったく異なるであろう。電力の導入が工場内のスペース利用、照明度、施設の維持管理、安全性の面ではるかに優れているとしても、既存の稼動可能な設備装置をすべて廃棄して一気に電力対応型へと更新したのでは、過去の投資が膨大な埋没費用となって経営を圧迫してしまう。そのため、現場レベルでは、電力という新技術の部分的な導入による旧技術との並存期間がある程度続かざるを得ないのだ。

 大掛かりなシステム転換には時間を要するという現実は、人材訓練や組織管理上のノウハウ蓄積面で非効率の温床となり、経済全体でみると、技術の二重構造による生産性の停滞をもたらすことになる。だが、別の見方をすると、旧技術から新技術への転換が完了したあかつきには、非効率がなくなり、新技術導入による生産性上昇の効果が全面的に現れることも意味する。この点は、経済発展の軌跡を長期の時間軸で観察すると、単調な右上がりではなく、助走期、勃興期、成熟期と推移するS字型の曲線が描かれるという歴史的経験からも読み取れることだ。

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図1 S字型の経済発展



【次ページ】社会の適応には半世紀必要

注1 David(1989)によると、米国製造業の全要素生産性は1920年代以降に急上昇している。

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