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2010年12月01日

『おすもうさん』著者 高橋秀実氏インタビュー

【高橋秀実氏インタビュー】ノンフィクション作家は、どのようにメモを活かしているか

最新巻『おすもうさん』(草思社)やこれまでの著書でも丹念な取材のうえで独特の視点を提示するノンフィクション作家の高橋秀実氏。その取材におけるメモの役割などを中心に書き手としてのスタンスなどについてお話を伺った。

メモの効果とそのテクニック

──『おすもうさん』を読んでいて、不思議なのは会話の再現なんですよ。その場にいるような感覚になる。取材の際にメモは取られるんですか。

 高橋秀実氏(以下、高橋氏)■メモは取ります。わたしの場合、いつもテーマが曖昧なんですよね。そうするとメモも、「今日は久しぶりに晴れてよかったですね」というような、他の人だと書き留めたりしない時候のあいさつ的なことをメモする。

──変わってますね。本当に?

 高橋氏■ええ。たとえば、野球賭博についての取材であれば、それについてどう考えているのかという部分についてメモしますよね。だけど、わたしはテーマが漠然としていますから。最初に会ったときに、相手が何と言うのか。本当に「ごっつあんです」と言うのかとか。そっちのほうが大事なんですよね。それで、人って、なんでメモするんだろうとは思わないんです。自分が話していることを記録されているというのは、決して不快なことだと思わない。

 もう1つは、目線の問題もあるんですよね。「あなたにとって相撲とは?」とじっと目を見ていられたら(と話しながら、高橋さんは目線を外そうとはしない)、そんな目で見ないでよという気持ちになるでしょう。でも、メモを取るというのは、相手にとって目線を外されている状態なんですよね。そのぶん楽になれる。

 あともう1つは、テープレコーダーというのが体質に合わないんです。気のせいですけど、魂を吸い取られるというか(笑)。それは冗談ですけどね。ちゃんと回っているんだろうか、電池大丈夫かなって不安になって、集中できないというのがあるんですよね。

──『はい、泳げません』(新潮文庫)という、カナヅチだった高橋さんが水泳教室に通うルポがありましたが、あのときは?

photo

高橋秀実氏

 高橋氏■さすがにプールにメモは持ち込めませんので、あのときは記憶ですね。プールは入ったら1時間、もうパニック状態で、思い出すのに必死でしたね。それでもしばらくしたら慣れてきて、ロッカーで、今日はコーチがああ言ったな、こう言ったなというのをメモしてました。そういう意味では『おすもうさん』のときは、ちゃんと目の前にノートを広げてやってましたね。記憶力は悪いほうですから。

 メモを取っているときの利点は、その場で書き言葉に変換することです。たとえば「分かんないっす」と書く。話しているときには自然なことが、書くと妙になることが多いんですけど。メモしていて起こる現象は、取材されている側の人は、わたしがメモしているのを見ているんですよ。わたしの字はデカイですしね。書いているそばから「そこのコレとコレは、そうではなくて」と乗り出してくる。だんだん共同作業のようになっていくんです(笑)。そうなると向き合って、この人から何かを引き出そうじゃなくて、一緒にゴールを目指そうという感じになっていく。「じゃ、これはナシね」って、×をつけたりして。

 録音の欠点は、今しゃべったことは証拠になるんだなというふうに敵対意識になりがちなことなんですよね。この人は、今はうなずいているけれど、書くときは違うことを書くんじゃないかとかね。だけど、メモの場合は「あっ、それは勘弁してください」と言われたら、×をする。その代わりに、その人が見てダメだと言わなかったことはOKというふうに判断しますというサインでもあるんですよ。たとえば「分かんないっす」と言ったのなら「分かんないっす」と書きますよという。メモを取る行為は、信頼関係というほど大げさなことではないんですが、ときには要約して、あなたのおっしゃったことをこういうふうに受け止めましたという表明というか、確認なんですよね。

 もう1つ、テープを使ってこなかったのは、記憶力に自信がなくて、後になってあの人、どういう語尾で話していたのか、一人称を「わたし」だったのか「ぼく」だったのかとなったときに思い出せないんですよね。だからメモは、話し方を重点に。内容は、そんなに重要じゃないというとヘンですけど。人の話って、しばしば言っていることが逆転したりするもので、それを忠実に求めようとすると、この人言っていることがむちゃくちゃでしたってなりかねない。

 記事にするときには、この人の言いたいことは総合すると、こうなんだとするわけですよね。そうすると、絶対に記憶にとどめておかなければいけないのは、話し方のほうなんですよ。内容に関しては、こちらの責任。そうは言ってなかったけど、こういうことを言いたかったんだなというふうに整理するのがこちらの仕事だと思うんです。それはたぶん、話し言葉と書き言葉の違いだと思うんですけど。だからテープがあると、逆に内容に集中できなくて。話していることはむちゃくちゃですからね。いちいち言葉尻を追われてはむこうも困るでしょうし。だからメモを取りながら、まとめているというのはあるんです。

──結構、気の抜けた会話を使われたりして、そこがいい味になっているんですが、なんであんなことを書いたんだと言われたりすることはなかったんでしょうか?

 高橋氏■ゲラを見せてくださいと言われたときには、見せたりもしますが、これ(『おすもうさん』)に関してはなかったですし、インターネットで連載していたときにも、直してほしいと言われたことはなかったですし。

──やはりメモの効果なんでしょうか。

 高橋氏■それもあるかもしれませんが、わたしは基本的に、その人が何も言わなくても、人の悪口、家族にかかわること、犯罪にかかわるようなことは承諾以前に書かないことにしているんですよ。その人が仮にいいと言っても、第三者が怒ったり傷ついたりする可能性があるので。その人が「分かんないっす」と言ったことで協会から注意をされたりするんだろうかというのは考えますけれど。書くというのは、お互い責任の取れる範囲なんですよね。クレームというのは、第三者にかかわるものが多いんだと思います。抗議するというのも、それは自分がどうのではなくて、第三者に示すためのものなんですよね。

 たとえば、「ジブン、昼寝、最高っす」と言ったのはいいけど、「アイツがそう言ってました」というのは書いてはいけない。だからわたしの場合、クレームはほとんどないですし、また感謝もされないですね。本を送っても、とくになんの反応もないですし。

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