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  • 2011/02/01 掲載

【近藤正高氏インタビュー】最適な組み合わせが問題を解決する?――新幹線に見るビジネスのヒント

『新幹線と日本の半世紀』著者 近藤正高氏インタビュー

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海外への売り込みからリニア中央新幹線の構想まで、今なお新幹線についての話題は事欠かない。その歴史とこれからについて、文化を通じて読み解いた『新幹線と日本の半世紀 1億人の新幹線‐文化の視点からその歴史を読む』(交通新聞社新書)が発売された。日本と新幹線の歩んだ半世紀をどのように捉えればいいのか――著者の近藤正高氏に伺った。

民間企業のエッセンスを取り入れてできた新幹線

――前著『私鉄探検』(ソフトバンク新書)の「あとがき」でもすでに新幹線について言及なさっていましたが、関心を持たれた理由をお教えいただけますか?

 近藤正高氏(以下、近藤氏)■新幹線への関心は、子供のときからありました。自分の住んでいるところから名鉄電車で名古屋市内に出かけるとき、ナゴヤ球場あたりから名古屋駅の少し手前ぐらいまで東海道新幹線と名鉄が並行して通ってるんですけど、そこで新幹線の列車を眺めるのが楽しみでしたね。

 新幹線の歴史に興味を持って資料を集め始めたのは、10年ちょっと前ぐらいでしょうか。それは小説を書こうと思ったのがきっかけでした。昭和が終わる前後の大学の鉄道研究会を舞台にするつもりだったんですが、その背景として、日本の近現代史における鉄道の役割みたいなものを盛り込みたいと思って、国鉄民営化をめぐる労使の対立や、新幹線のルーツとなったという戦前の弾丸列車計画とか、あれこれ資料を集め出したんです。

 そういえば、原武史さんの『「民都」大阪対「帝都」東京』(講談社選書メチエ、1998年)という本を見つけたのもちょうどその時期で、「おおっ、自分と似たようなことを考えている人がいる!」と思ったものです(笑)。

――さて、2010年12月に刊行された『新幹線と日本の半世紀』では、新幹線のルーツから21世紀における新幹線の展望までが論じられています。この歴史をたどってみて、気づいたことや発見したことがあればお教えください。

photo

『新幹線と日本の半世紀』

 近藤氏■いろいろとありますが、とくに印象に残ったのは、新幹線は国鉄が開発したものでありながら、そこには私鉄……要するに民間企業の開発した技術もかなり取り入れられているということです。この本では、国鉄が小田急の特急電車「SE車」の開発に協力し、それが新幹線にも大きな影響を与えたということや、東海道新幹線の開業前夜に、その線路を阪急京都線の電車が走ったという事例を紹介しましたけど、東海道新幹線にはほかにも名鉄が「パノラマカー」で開発した技術などが導入されています。当時の国鉄技師長である島秀雄をはじめ、東海道新幹線の開発にあたった技術者たちには、よい技術なら官民関係なく採用する柔軟さがあったんですね。

 戦後の国鉄は、運輸省(現・国土交通省)から鉄道部門が分離独立する形で誕生したわけですけど、官僚的な体質はぬぐえず、それ故に技術革新に否定的な人々も大勢いたようです。新幹線の開発者たちは、それを打破するために民間の力を活用したということもできるかもしれません。

――その点は、『私鉄探検』の内容ともリンクするものがありそうですね。

 近藤氏■『私鉄探検』では、技術革新に熱心な私鉄として京急をとりあげましたが、その創業者の1人である立川勇次郎という人は、明治の新幹線プロジェクトともいうべき、東京~大阪間に高速電車を走らせる計画を立てた日本電気鉄道の発起人にもなっています。

 新幹線のルーツというと、とかくこの本でも大きく扱った日中戦争下の「弾丸列車」計画がクローズアップされますけど、それ以前から、日本電気鉄道をはじめ民間による新幹線計画がいくつか存在しました。例えば、福沢諭吉の娘婿で実業家の福沢桃介も、自身の会社が木曽川に建設した水力発電所で作った電力の消化先として、「第2東海道線」ともいうべき新線を作る計画を立てています。この路線は結局名古屋郊外の有松から豊橋にかけての区間しか完成しませんでしたが、その後、名鉄名古屋本線の一部として使われています。地図で見ると分かるように、この区間はまっすぐに作られていて、同じ区間でも急カーブの多い東海道本線に対して名鉄は優位に立つことができました。まあ1987年に国鉄が民営化してからは、JR側の高性能の電車の導入と増発によって両者は拮抗するようになっていますけど。

――本書ではその国鉄の民営化にも多く言及があります。郵政民営化も今なお多くの議論を呼んでいますが、この国鉄からJRへの道のりについてどのようにお考えですか?

 近藤氏■硬直した企業体質や労使関係が大幅に改善されたという点では評価できるでしょう。そのおかげで、国鉄時代にはできなかった新幹線の新車両の開発も実現したわけですし。ただ、私鉄と対抗してのスピードアップは、乗客の利便性を向上させる一方で弊害もあったのではないでしょうか。JR西日本の福知山線の脱線事故(2005年)は、それが最悪の形であらわれたケースだと思います。

 JR東海の営業する東海道新幹線にしても、スピードアップなどの輸送の効率化以外の部分でまだまだ改善の余地が残されているような気がします。例えば、かつて東海道新幹線には2階建ての100系車両にグリーン個室が存在しましたが、すべての列車の座席数を統一するという方針から廃止されました。もちろんそこには、少しでも多くの人に座ってもらえるようにしようという配慮があるのでしょうが、もう少し、乗客が車内で充実した時間を過ごせるようなサービスがあってもいいかもしれませんね。

 この点について私は、現在、計画が進められているリニア中央新幹線にちょっと期待を持っています。東海道新幹線の補完路線として計画されているリニア中央新幹線が開業すれば、「のぞみ」中心となっている現在の東海道新幹線のダイヤにも余裕が生まれるはずです。そうすれば、大都市の中間にある駅に停まる列車数も増え、地方都市の活性化につながる可能性もあるでしょう。リニア計画に関してはスピードだけでなく、もっとそういうことも強調されていいと思うんですけど。

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