• 2011/06/17 掲載

【石原壮一郎氏インタビュー】ビジネスマンはどのように怒るべきか――コミュニケーション不足の日本人を考える(2/3)

『石原壮一郎のオトナの怒り方』『大人力検定』著者 石原壮一郎氏インタビュー

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怒るときの「気遣い」

――本の前半部にあたる「ビジネス編」についてお伺いしたいと思います。ここは、「上司に対して」「同僚に対して」「部下に対して」「取引先(外部)に対して」と4つのパートに分かれています。これは言うなれば「自分より強い相手」「自分と同等の相手」「自分より弱い相手」「強い/弱いだけでは図れない微妙な相手」というような分け方と言っていいかと思います。4つの対象に対する「怒り方」のコツについて、それぞれお伺いしたいのですが。

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石原壮一郎氏

 石原氏■どんな相手に対しても、要は「怒るべきときは怒りましょう」と言いたいわけですけど、実際にはそう簡単に怒ることのできない「ややこしさ」が現実社会にはあります。このように4つに分けたのは、相手によって怒り方を変えたり、注意すべき点が変わってきたりするからですね。そして怒るとき、人は100パーセント自分が正しいと思っているわけですけど、本当はそうとも言えない。相手には相手の言い分があり、また立場やプライドもある。では、正しい/正しくないだけでは割り切れない部分をどう斟酌すればいいか?

 そんなときに目指したいのが「後腐れのない怒り方」です。まず上司に対しては、相手の顔を潰さずに怒るというのが重要なポイントでしょうか。この本は、そのための細かな、ある意味姑息とも言えるような「気遣い」について書かれていると言えるでしょう(笑)。

――その細かなディティールが面白いんですよね(笑)。

 石原氏■こう言っては何ですが、細かい気遣いを抜きにした感情に任せた怒りというのは、大人としては一種の手抜きというか、甘ったれた怒りだと思うんですね。

――「まえがき」でも、怒ること自体が目的ではなくて、あくまで状況を好転させることが目的だと書かれています。そこから逆算して、上司にだったらこう言う、部下にだったらこう言う、そういうふうに組み立てられている本ですよね。

 石原氏■怒って爆発して「俺はこんなこと言ってやったぜ」って自己陶酔を覚えることが目的ではないわけです。状況を好転させる有効な方法としての「怒り」というのを上手に使っていきましょう、そのための「怒り方」を考えましょう、ということですね。上司に啖呵を切るのはそれは格好よくて気持ちいいかもしれませんけど、それで状況が悪化したら何もならないですからね。

――もちろん上司/部下のように、相手によって顔の立て方は違ってくるかと思いますが、基本的には、相手に致命的なダメージを与えたり、立ち直れなくさせるような怒り方はしない、ということですね。

 石原氏■「窮鼠猫を噛む」と言いますが、怒る相手を窮鼠にしちゃいけないんです。それは怒り方としてあまり得策ではない。

――相手に「逃げ場を用意する」っていうふうに書かれていましたね。

 石原氏■「逃げ場」っていうのは、「いや、実はそんなつもりはなかったんだよ」というような嘘丸見えの言い訳もそうだし、「あいつに酷いこと言っちゃったけど、あのときはしょうがなかったんだよね……」みたいな自分への言い訳をさせてあげるのもそうです。

 で、上司ってことで言うと、上司は上司で困っているというか、それなりの事情がある。たしかに上下関係はありますが、それは「役割」が違うだけで、上司が凶暴な猛獣で自分がか弱い子羊というわけではない。どちらも同じ人間です。

 相手を必要以上に恐れるのではなく、上司も仕事だからこんなことを言うんだ、上司っていうのもたいへんだなあと相手の立場を斟酌して、同情してしまう。そうすることで自分の中で上下関係を逆転させて、勝手に優位に立ってしまう手もあると思います。

――では逆に、部下に対しての怒り方のポイントはいかがでしょうか?

 石原氏■部下に対しては、上司に対するときとは逆のことが起こります。自分の方が経験も豊富だし、歳も立場も上です。そのことに甘えてしまい、自分の言うことは聞いて当然だ、と思いがちです。自分にも未熟な部分が必ずあるはずなのに、それは棚に上げて、典型的なのだと「今どきの若いモンは……」みたいな言い方をしてしまう。もともとあるアドバンテージを根拠にして相手を攻撃する、いわばちょっと卑怯なやり方をしてしまうわけです。自分の味方やバックグラウンドを笠に着て怒るというような、そうした自分の中にある罠に陥りがち。そうではなく、怒ることによって成長させてあげるのが先輩だったり上司だったりの役目です。その役目の部分だけちゃんとやればいい。

――下を怒るときって、仕事においてであればとくに、教育や育成が目的ですものね。

 石原氏■そうじゃないと、逆らえない相手をとことん攻撃するという構図になりかねません。それはもう弱いものイジメの一種ですからね。楽チンだけどみっともない。

――では、同僚に対してはいかがでしょう?

 石原氏■会社の同僚って、学校の友達なんかと違って、もともとそんなに仲良いわけではないじゃないですか(笑)。

――似たところで「同期」というのもありますが、言ってしまえば「同じタイミングで入社した」ってだけですものね。

 石原氏■世の中にはまったく価値観の違う人間がいる。でも、そんな当たり前のことに気付かなかったりします。同僚には同僚の価値観なり考えなり目指すところがある。当然、ぶつかるところや、目障りなところも出てきます。そんなときに、相手が同僚であるが故に、徹底的に叩き潰したくなってしまう。

――やはりライバル的な意識が働くのでしょうか?

 石原氏■そうですね、勝った/負けたという考えが生じがちですし、自分が正しいことを証明したくなる。でもそうしたことは不可能だし、不毛なことです。怒るとき、相手の存在を全部否定するような怒り方をした方が迫力は出るし、自分も怒った気になれるかもしれません。でも腹八分目というか、迷惑な部分だけ変えてもらえればいい。ここから先は踏み込まない、踏み込む資格も権利もないという「謙虚さ」というか、控えめなところが必要になってくると思います。

――そして、4つ目の取引先(外部)に対してはいかがでしょう?

 石原氏■取引先にも2種類あると思います。仕事切られちゃったら困るみたいな、力関係で向こうが強い場合。そしてもう1つは、出入りの業者さんに対してのように、逆にこちらが強い場合。両極端というか、対照的な関係ですね。でも、逆のようでいて共通するところがあると思うんです。相手が強いから卑屈になって、弱いから強く出るということではなくて、あくまで「仕事の関係」でつながっている相手にどう要求を伝えるか、ということです。つまり同僚に対してのときよりも、もっとドライなスタンスが必要になってくる。

――相手が「仕事の関係」を超えた要求をしてきたりとか、「仕事の関係」という範疇をオーバーするような干渉をしてくるが故に怒りが生じるわけですね。

 石原氏■そう、この本に出てくるシチュエーションで言うと、無茶なリベートの要求をしてきたりとかね。上司や部下に対してと同様に、怒るときは怒っていいですが、セコイ了見丸出しの恥ずかしい怒り方や周囲を巻き込む迷惑な怒り方にならないように注意が必要ですね。

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