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2011年08月22日

SNSが急拡大する理由を経済学で斬る

なぜ多様なスタートアップ企業群が大企業に勝るのか(前編):篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(33)

ITが単なる情報処理マシンから有効なコミュニケーション・ツールへと変貌する中で、ネットワーク効果と連携の経済性という2つのメリットを持つ「ネットワークの経済性」が生まれている。ヒト、モノ、カネを囲い込む「大企業だけが有利」というかつての常識が通用しなくなり、多様なスタートアップ企業群が大企業に勝る収益力をつけているのはそのためだ。規模の経済性などの伝統的な概念と対比して、新しい経済性への理解を深めれば、この大変化を読み解くヒントが見えてくるはずだ。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

スケール・メリットvs.リソース・メリット

 ITは企業の境界や型を変えるだけでなく、企業と企業の相互関係にも大きな変化を突きつけている。なぜなら、オープンなネットワーク環境によって、企業の生産活動で発揮される経済性が従来とは異なってきているからだ。この大変化を乗り切るには、「規模の経済性(Economies of Scale)」「ネットワーク効果(Network Effects)」「範囲の経済性(Economies of Scope)」「連携の経済性(Economies of Alliance)」という4つの基本概念の特徴を相互に対比して、産業組織に与える影響を正確に理解することが不可欠だ。

 IT時代に威力を発揮する「ネットワークの経済性(Economies of Networks)」は、スケール・メリットの一種であるネットワーク効果とリソース・メリットの一種である連携の経済性の2つの特徴から成り立っている。両者のメリットを伝統的な経済性である規模の経済性や範囲の経済性と比較して概念整理すると、ネットワーク効果が規模の経済性と、また、連携の経済性が範囲の経済性と対をなしている(図表1)。今回は、まず、ネットワーク効果と規模の経済性についてその共通点と相違点を考えてみよう。

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図表1 経済性の体系とネットワークの経済性


絆の広がりで幸せになる効果

 Kats and Shapiro (1985)の論文で有名なネットワーク効果とは、「ある財・サービスの消費者にとって、自分以外の購入者の数が増えれば増えるほど、自らの効用がより一層高まる効果」のことで、ネットワーク外部性(Network Externality)とも呼ばれる。

 通常の財・サービスであれば、たとえば風呂上りのビールを考えると、他人がどうであれ、自分がジョッキを飲み干すことで乾きを満たされるのであって、より多くの他人が飲めば飲むほど自分の満足度(=効用)が高まっていくわけではない。

 ところが、電話やメールやSNSを考えると、いくら立派な端末を購入しても、利用者が自分ひとりしかいなければ、誰ともつながらずメッセージを伝えることすらできないわけで、何の効用も生まれない(もちろん、内蔵されているゲームを独りで楽しむことはできるが、この場合はビールと同じだ)。電話やメールやSNSでは、同じサービスに自分以外の他人がより多く加わるほど自分にとっての利便性が増していくのだ。ネットワーク効果とは、いわば、消費者の絆が広がるほど幸せになる効果といえるだろう(図表2)。

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図表2 ネットワーク効果とは


 ネットワーク効果の分析を遡ると、通信産業の経済分析を行ったRohlfs(1974)にたどり着く(注1)。そこでは、他の加入者が増えることによって自分の効用が高まるという通信サービスの特徴を「消費における外部経済性」の典型だと指摘されている。

 もっとも、当時はネットワーク効果への関心は薄く、この概念が注目され始めたのは、Katz and Shapiro(1985)などの論文が相次いだ1980年代中盤以降のことだ。連載の第10〜14回で解説したように、ちょうどこの時期に素材などの重厚長大産業からエレクトロニクスや通信サービスといった新しいタイプの情報産業が主役となる構造変化が起きていた。

【次ページ】SNSの会員増は「規模の経済」ではない

注1 Shapiro and Varian(1999), p.322参照。

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