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  • 2011/11/17 掲載

OpenStackとは何か?オープンソースで構成されるクラウド・インフラストラクチャー

にわかに浮上するクラウドのロック・イン問題への切り札

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2010年7月に開始された「OpenStack」は、IaaS(Infrastructure as a Service:クラウド基盤)、つまり、クラウド基盤をオープンソースで実現するプロジェクトだ。特定のベンダーのプロダクツや技術に依存せず、オープンな環境でクラウドを実現するための切り札として注目を集めている。OpenStackが可能にするクラウドの正体と、その将来性について見ていくことにしよう。

池田冬彦

池田冬彦

AeroVision
富士総合研究所(現みずほ情報総研)のSEを経て、出版業界に転身。1993年からフリーランスライターとして独立しAeroVisionを設立。以来、IT系雑誌、単行本、Web系ニュースサイトの取材・執筆やテクニカル記事、IT技術解説記事の執筆、および、情報提供などを業務とする。主な著書に『これならできるVPNの本』(技術評論社、2007年7月)、『新米&シロウト管理者のためのネットワークQ&A』(ラトルズ、2006年5月)など多数。

にわかに浮上するクラウドのロック・イン問題

 近年のクラウド市場は大きな伸びを見せているが、その反面、さまざまな問題も露呈しつつある。たとえば、クラウドのブラックボックス化は大きな問題の1つだ。企業にとってクラウドサービスへのアプローチはオンプレミスからの脱却を図るための戦略であり、利用しようとしているサービスがブラックボックスでも、特に問題はないかのように思える。

 しかし、クラウドサービスを提供する事業者にとっては、他事業者との差別化を図り優位に立つという戦略が主流だ。その上で、独自の(プロプライエタリな)技術や手法を用いて構築されたクラウドを推進する動きが目立つ。このようなアプローチは、クラウド技術の高度化をもたらす可能性があるが、利用者にとっては、システムの改変やベンダーの移行が容易にできない、あるいは、利用コストがかかりすぎる、あるいは、将来的なコストが見えない、といった問題を引き起こす可能性がある。

 これをクラウドのベンダーロック・イン問題という。この問題が注目されるようになったのは、Google App Engineが年内に正式サービスに移行し、それに伴って2011年9月に、実質的な大幅値上げとなることが判明したことがきっかけだ。その値上げ幅は大きく、利用者の反発を招いたが、同時に、すぐさま他のクラウドサービスへ乗り換えられないことが露呈し、Google Groupsなどのネットワークコミュニティにおいて、さまざまな議論が巻き起こった。

 たとえば、Google App EngineのPaaS(Platform as a Service:ソフトウェアの構築、動作のためのプラットフォーム)では(図1)、その環境でのみ動作するコードが必要であり、他のクラウドに乗り換えるには、膨大なコードを書き変える手間とコストがかかってしまう。もちろん、このリスクはプログラムに限った話ではなく、ハードウェアの互換性など、さまざまな側面で発生する。

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図1 Google App Engineのデベロッパーガイド。デベロッパーにとって、Google App Engineで動作するアプリの開発に欠かせないものだ

 まだまだ、クラウドの歴史は始まったばかりであり、その標準化もオープン化も果たされていない。かつて80年代に見られたオープン化推進に至る前の、ベンダーの顧客囲い込みの再来という専門家も多い。

OpenStackの登場とその経緯

 このような状況の中で注目されているのが、オープンソースクラウド基盤「OpenStack」だ。OpenStackは、2005年に設立されたクラウドベンダーであるRackspace Hosting(以下Rackspace)のクラウドサービスである「Rackspace Cloud Servers」と、米NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発を進めていた「Nebula」の2つがその源流だ。

 両者は当初、個別に開発を行っていた。Rackspaceでは、仮想マシン(VPS)を実行するクラウドコンピューティング環境「Swift」を提供し、APIのオープン化を進めていた。同社はCloud Serverを書き換え、2010年3月にオープンソース化した。一方、NASAでは、Amazon EC2互換の「Eucalyptus」というクラウド基盤ソフトウェアの開発を進めていたが、これを断念して「Nova」という形で2010年5月にオープンソース化した。

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図2 OpenStackへの参加企業一覧は、OpenStackのページで参照できる
 この「Swift」と「Nova」を組み合わせ、新たなクラウドコンピューティングの開発を行うという話が持ち上がり、2010年7月にはプロジェクトが動き出した。話は急速に展開し、OpenStackの最初のリリースはIaaSソフトウェアとして登場し、コードネームは最初の会合が行われた街の名から「Ausin」と命名された。これがOpenStackである。

 OpenStackは、有望なオープンソースクラウドのプロジェクトとして注目を集め、最初の会合はおよそ30社ほどの企業の賛同を得て、順調なスタートを切った。OpenStackでは、開発プロセスをオープンに保つことが重要であり、安定した品質でソフトウェアを開発していくことが必要だ。

 このため、OpenStackの機能項目の決定については、リリース前に開発者を一同に集めた「デザインサミット」が開催され、開発者はその場で提案を行い、オープンに議論を進める。この第1回目のサミットが「オースティン・サミット」であった。また、技術面における全体的な意志決定のために、Rackspace、Anso Labs、Citrix Systemsなどの賛同企業からなるアーキテクチャ・ボードが設置され、Xen CommunityやUbuntuプロジェクトから運営スタッフを招き、充実した体制を目指した。

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図3 日本OpenStackユーザ会が提供するWiki FrontPageでは、OpenStackに関する技術情報やイベント情報などが掲載されている
 また、OpenStackに賛同する企業も、2011年11月の時点では133社になった(図2)。CitrixやDell、NTTデータ、NTT、インテル、AMD、シスコシステムズ、NEC、Akamaiといった大手企業が名を連ねている。

 また、日本では2010年10月に、NTTデータ、NTTデータ先端技術、仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ、一般社団法人クラウド利用促進機構、クリエーションライン、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所、ミドクラ、モーフ・ラボによって「日本OpenStackユーザ会」が発足し、OpenStack」で配信されたニュースやマニュアルなどの最新コミュニティ情報を日本語で提供するほか、日本独自の解説文書の公開、セミナー・勉強会の開催などを通しての情報共有、国内でのOpenStackの普及活動を行っている(図3)。

【次ページ】OpenStackの仕組み

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