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2012年06月05日

『プリキュア シンドローム!』著者 加藤レイズナ氏インタビュー

【加藤レイズナ氏インタビュー】大人気アニメを生み出したチームの強さを探る──会社員経験なしのライターから見たプロフェッショナルの仕事

2004年より放送が開始された女児向けアニメーション「プリキュア」シリーズ。そのプリキュアにどっぷりハマった1987年生まれのライター・加藤レイズナ氏による初の単著『プリキュア シンドローム!』は、シリーズの「転換点」となった『Yes!プリキュア5』の関係者25人に話を聞いて聞いて聞きまくる、590ページにも及ぶ大ボリュームのインタビュー集である。会社員経験なしの駆け出しライターが、国民的女児アニメの制作現場で目の当たりにしたものづくりの精神、そして強いチームのあり方とは?

初めて書いた企画書は、即ダメ出しされた

──『プリキュア シンドローム!』(幻冬舎)は、現在までに9作品ある「プリキュア」シリーズの中で、4作目にあたる『Yes!プリキュア5』(以下、「プリキュア5」)とその続編『Yes!プリキュア5GoGo!』(以下、「プリキュア5GoGo!」)の関係者25人にインタビューを試みています。こうしたシリーズものを扱う場合、一般的には初代か最新作を取り上げるケースが多いと思うのですが、なぜこの2作品を?

 加藤レイズナ(以下:加藤氏)■もともと僕は初代の『ふたりはプリキュア』からずっとシリーズを追っていたんですけど、「プリキュア5」が始まったときに、「あれ、今までと何かが違う?」と感じたんですよ。あと、単純に大好きだからということでもあります(笑)。

 それから、初代から「5GoGo」まで、5年間プリキュアのプロデューサーを務められた東映アニメーションの鷲尾天(たかし)さんという方が、「『プリキュア5』はシリーズの転換点かもしれない」とおっしゃったことも大きいです。つまり僕が夢中になっていた「プリキュア5」を、プリキュアの生みの親である鷲尾さんが「転換点」と位置づけていた──これは何としても話を聞かなければと。

photo

『プリキュア シンドローム!』

──鷲尾プロデューサーはこの本における、ある種の黒幕的な存在ですよね。そもそもなぜ鷲尾さんに興味を持ったんですか?

 加藤氏■実をいうと、自分でもよくわからないんですよ。「プリキュア5」と「5GoGo」が放送された2007〜08年当時は、鷲尾さんのインタビューの類も一般にはほとんど出ていなかったので、僕の周り、というかネット上の多くのプリキュアファンでも、鷲尾さんを話題にしている人はあまりいなかったような気がします。でも、どういうわけか、僕には「プリキュアを面白くしているのは鷲尾さんだ!」っていう直感めいたものがあったんですよね。

 で、ほぼ同じ時期に、「ニコニコ動画」でゲーム実況をしていた僕を、フリー編集者のアライユキコさんが「ライターに興味はないか?」と誘ってくれました。そのとき、ライターという立場なら鷲尾さんに話を聞けるかもしれないと思ったんです。それを実現できたのが、2009年6月、Webマガジン幻冬舎の「実況野郎B-TEAM」の中の企画でした。ちなみに、これが僕にとって初めてのインタビューでもありました。

──そのインタビューが、この本をつくるキッカケになったわけですね。

 加藤氏■そうですね。もっとも、取材が終わったあとに「B-TEAM」と本書の企画編集担当にもなったアライさんと二人で「面白かったねー、なんか本つくれたらいいね」って漠然と話した程度のことですけど。その後、もういくつかプリキュア関連のインタビューをさせてもらって、2010年の初夏に、この本の最初の企画書を、版元の幻冬舎に提出しました。

 でも、そのときの仮の書名は『プリキュアをつくった12人』。つまり12人のインタビュー集で、全256ページの予定でした。しかも当時放送中だった、シリーズ7作目にあたる『ハートキャッチプリキュア!』をメインに据えて、シリーズ全体を総ざらいするような感じの内容で。

──版元を説得するために?

 加藤氏■はい、いろいろな要素を詰め込みましたね。そもそも企画書を書くのも初めてだったので、アライさんに手伝ってもらいながらやりました。映画の興行収入や玩具の展開を引っぱってきたり、プリキュア好きの著名人を挙げたり、プリキュアにおけるコミュニティや人間関係について僕の考えを書き連ねたり。つまりは、プリキュアがいかにすごい作品なのかを説明しようとしていたのですが、そうしたら長大な企画書が出来上がってしまい、これを書き終えた時点でもうやり切った感がありましたね(苦笑)。

──で、その企画書を提出したときの反応は?

 加藤氏■「全然ダメ」っていわれました(笑)。「プリキュアが人気なのはわかったけど、結局、何がしたいの?」って。幻冬舎の担当編集である木原いづみさんは、「実況野郎B-TEAM」のときから僕のことを知ってるんですよ。つまり僕が駆け出しライターであることもわかっていたわけですね。でも、それが何を思ったか「もっと加藤くんの色を出してみたら?」と。それで「じゃあ好きなことやります!」と、企画書を練り直しました。この本は木原さんとアライさんという、僕がライター始めたときからお世話になっている2人の編集者に、企画の段階からも相当助けられているんですね。

 それから東映サイドにも別の企画書を用意して、それをもとに鷲尾さんと打ち合わせをしたのが、2011年の4月。2年がかりでようやくたどり着いたかたちですね。そのとき、鷲尾さんも「加藤さんの思うように動かれたらどうでしょう」と、木原さんと同じことをおっしゃってくださいました。だったら、やはり「プリキュア5」でいくしかないと。それから人選はどうしようっていう話をしましたね。

──そして、鷲尾さんに人選について意見を求めた結果、取材する対象が25人に膨れ上がった、と。加藤さんは高校卒業後、フリーターからライターになっていますよね。そんな社会人経験のない加藤さんが、関連玩具を年間100億円売り上げる巨大プロジェクトで仕事をしている人たちを見た感想は?

 加藤氏■とにかく鷲尾さんが強烈だったなと。みなさん「あんなプロデューサーはいない」っておっしゃっていましたから。鷲尾さんは自分を介してすべてのスタッフを繋げて、情報を共有して仕事をされるんですよ。現場で画を描く人から、監督や脚本家、声優、作詞家に作曲家まで。

 その上で、鷲尾さんは各スタッフと徹底的に議論して、自分が納得しなければ絶対にOKを出さない。象徴的なのは玩具会社とのやり取りで、僕はスポンサーのバンダイさんが「こういう玩具を売りたいから作品の中で使ってくれ」みたいに制作サイドに要求して、それがストーリーにも影響すると思ってたんです。

──ああ、僕も正直にいうと「プリキュアって、所詮は玩具の販促アニメだろ?」ってなめていたフシがあります。

 加藤氏■それが違うんですよね。玩具会社の人と何度も話し合って、鷲尾さんのほうから「世界観に合わない」「キャラクターの方向性と違う」ってはっきりダメ出しするんです。スポンサーに負けていない。

 あと、「5GoGo」では、僕の好きなキャラクター、キュアルージュが玩具のラインナップから外されることが割とあったんです。僕は玩具会社が、売れないと判断して商品化を渋ったと思っていたんですけど、当時のバンダイの担当者さんにお会いしたら、今でもルージュのグッズを出せなかったことを悔やんでいらして。そのことも本に書いたら、その担当者さんから「あのときの想いが浄化されたような気がして、涙なしには読めませんでした」というメールをいただきました。

──その涙が出るっていう、各スタッフの本気度が尋常じゃないですよね。

 加藤氏■アニメの制作現場では、初代プリキュア監督の西尾大介さんの「いやな映像にしない」という哲学が受け継がれていましたね。戦闘ではプリキュアの顔やお腹を殴らない、殴るにしてもガードさせるとか。あるいは、スカートのなかを見せるなどセクシャルな描写はNG。逆にポジティブな表現でいえば、大人と話すときは絶対に敬語を使うとか、食べ物を粗末にしないとか。

──本の中で、その西尾監督が、鷲尾さんに対し「子どもは無条件で受け入れてしまうから怖いんだよ」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。そういう考え方に至れるのだなと。

 加藤氏■プリキュアは未就学児から小学校低学年(3〜8歳)を対象にしているから、「敵」「戦う」「勝つ」「負ける」など、あと「男だから、女だから」といった差別的な刷り込みになりかねない言葉は禁止。子供は見たものを簡単に信じてしまうから、大人が慎重に物語をつくらなきゃいけないって、教育者の発想ですよね。一方で、子供は面白いと思ったら見続けるけど、つまらないと思ったらすぐにそっぽを向いてしまうという一面もあります。そういう反応を肌で感じながら仕事をしているのもわかりました。

──それって、アニメに限らずものづくり一般にいえることですよね。消費者、ユーザーのことをどれだけ考えてつくるかっていう。

 加藤氏■1つの作品をつくり上げるには、ここでインタビューした25人どころではない、多くの人が関わっていて、全員が大変な思いをして、でも愛情を持って頑張っている。そこまでしないとつくれないんだなって。もう、みなさんどうかしているくらいに熱いですし。情熱がありすぎて、おかしな人ばっかり。

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