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2012年06月05日

『プリキュア シンドローム!』著者 加藤レイズナ氏インタビュー

【加藤レイズナ氏インタビュー】大人気アニメを生み出したチームの強さを探る──会社員経験なしのライターから見たプロフェッショナルの仕事 (2/2)

大好きなものがあるという強み

──ところで、僕もライターとしてよくインタビュー原稿を書くのですが、この本を読んでいて羨ましいと思ったのが、無駄話ができていることです。まるでベタ起こしのままであるかのように編集されているじゃないですか。

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加藤レイズナ氏

 加藤氏■そこを指摘してくださると嬉しいです。無駄話ありのインタビューのほうが面白いって、僕もアライさんも思っていたので、それは最初から意図していました。やっぱり一問一答みたいなインタビューにしたくなかったし、何かハプニングが起きたら絶対使いたい。座談会の途中で誰か席を外したら、そこは活かしたいじゃないないですか。その人が不在のときにしか出てこない会話がありますからね。そういうことをしていたら、当初の予定であった256ページにはとても収まらずこんな分厚い本になってしまい、幻冬舎にも大変ご迷惑をおかけしましたが……。

──でも、そういう会話が、仕事現場のありようを示す具体例にもなるわけですよね。どういう人間関係の中で、みんながチームとして連携して、あるいは個々に自立して仕事をしているのか、よくわかります。

 加藤氏■そこを伝えられなきゃ、25人に話を聞く意味がないですからね。たとえば製作担当の坂井和男さんなんかは、劇場版「プリキュアオールスターズDX」シリーズを監督された大塚隆史さんのことを「ロリコンですよ」とか(笑)。そういう関係が見えてくると楽しいですよね。

──大塚さんの名前はことあるごとに登場しますね。「DX」の監督に抜擢されてトイレで吐いたとか。そういう他者からの証言によっても、その人のキャラクターが立ち上がってくるんですよね。

 加藤氏■大塚さんは現在放送中の『スマイルプリキュア!』のシリーズディレクターをなさっているんです。だから、この本で大塚さんのエピソードをたくさん入れたことで、結果的にすごくタイムリーなものになったかもしれません。「『スマイル』放送に合わせて緊急出版したの?」なんていう人もいたくらい。一方で、やっぱり無駄話がいらないとか、本筋と離れすぎとか、会話が整理されていないとか、そういった感想もたくさん。

──プロデューサーの少年時代の話とか、普通は聞かないですからね。たしかにそこは諸刃の剣というか、失礼ですが、読みにくい部分もあるんですよね。ノイズが多いので。そこを面白がれるかどうかでこの本の好き嫌いがわかれるというか。

 加藤氏■なるほど。あと、一人称を「俺」にしたことは、ネットでずっと叩かれてます。

──あ、今日のインタビューも「俺」にしときます?

 加藤氏■いや、「僕」で(笑)。

──了解です。ほかに叩かれたところは?

 加藤氏■なんでそこを重点的に聞くわけですか(笑)。そうですね、アニメ本のインタビューで「『絵コンテってどういう作業ですか?』みたいな初歩的なことを質問するなんてあり得ない」とか「監督や脚本の仕事を事細かに聞きすぎ」や「アニメについて知っている前提で書けばいいのに」……などなどです。

──だって、実際知らないわけですもんね。それが加藤レイズナという「著者」であって。

 加藤氏■あ、忘れていましたけど、その「著者」について一番いわれましたね。本のカバーに名前が出ているのですけど、「どうして加藤レイズナの名前が表紙にデカデカと書いてあるんだ」「しかもイラストの上に名前がかぶっている」とか。友達にすら「重版したら著者名は消すんでしょ?」って真顔でいわれました。

──著者が立っているのは、当然ですよね。この本は、プリキュアを求めてさまよう加藤さんの記録でもありますよね。

 加藤氏■編集のアライさんは、沢木耕太郎さんの『深夜特急』をイメージしたといっていました。平成の深夜特急で鷲尾さんと一緒に旅に出るみたいな(笑)。だからノンフィクション要素を濃くしようって話はしていましたね。

 本にも書いた通り、あるとき東映の版権事業部の方が「加藤さんは一冊の本の著者として大丈夫なの?」って、電話でアライさんにいったんです。そのときは震え上がりました。今思えば、電話の向こうには鷲尾さんもいて「プリキュアや関わった人々を軽く考えてもらっちゃ困る」って釘を刺されたのかも。ほんとに僕はこれでシャキッとしましたから。

──いちいちドラマをつくってきますね。そのあたりも含めて、加藤さんが鷲尾さんの手の平で転がされていた感がすごい。25人の人選を決めたのも鷲尾さんですし、インタビューの序盤で「プリキュア」とは何なのか「加藤さんなりの答えを導き出してください」とたきつけてもいますし。

 加藤氏■おかげさまで、鷲尾さんという強烈な個性に揉まれて、これだけ大勢の人に話を聞けて、こんなに分厚い本になって……どれ1つ取ってもなかなか経験できることではないですよね。

 ライターとしても駆け出しなので、取材をしながらライターの仕事を勉強させてもらっていた部分も大いにあったんです。企画書の書き方だってこれで覚えたわけですし。そしたら、すべてが終わってからアライさんに「加藤が成長しなかったらどうしようかと思った」っていわれて、ああ、恐いなと(笑)。

──アライさんとしては加藤さんを崖下に突き落とした気分だったんでしょうね。本をつくる前と後で、何か変わりました?

 加藤氏■ファンから卒業して、ようやくライターになれた……と、思いたいです。インタビューを重ねていくうちに、プリキュア以外のことを聞くのが楽しくなりましたから。おそらく鷲尾さんも「プリキュアの中だけにいないで、外に向かえ」と思っていたはずです。

 「プリキュアが好きなのはいい。ただし、それは映画や小説などほかに好きなものがあればの話で、プリキュアだけを好きな大人ってどうなの?」というメッセージを託されているような気がして。

──「最近のアニメがつまらないのは、ただのアニメ好きが制作側に回ってしまってるからだ」みたいな批判と同じですね。

 加藤氏■鷲尾さん自身も、「プリキュア5」における5人組のチームのモデルにしたのは吉田聡の青春漫画『湘南爆走族』ですし、それぞれのキャラクターの能力や関係性は昔の絵本『シナの五にんきょうだい』、悪役の登場シーンなど日常に潜む恐怖みたいなものはスティーヴン・キングのホラー小説『ニードフル・シングス』などをヒントにしています。つまり少女アニメから遠いところから発想しようとしてるんですよね。

──シリーズディレクターの小村敏明さんはスタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』を、脚本の村山功さんはクエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』をそれぞれ引き合いに出されていましたね。まさかプリキュアについて聞く場でそんな暴力映画の名前が出てくるとは思いませんでした。

 加藤氏■もっと女の子向けの作品が多いかと思ったら、そんなことはなかった。同じところから出発してもダメだろうっていう意識が、現場にあるんでしょうね。

──この本ができたのは、加藤さんがプリキュアという得意分野を持っていたのと、どういうわけか鷲尾さんの存在を嗅ぎ付けられたからだと思うんですよ。極端な話、これプリキュアじゃなくてもよかったわけじゃないですか。大相撲とかでも。

 加藤氏■そうそう。まず大好きなものがあって、その大好きなものに対して聞きたいことがある。よく「加藤はいろんな人に会えて羨ましい」とかいわれるんですよ。でも、僕はただ話を聞きたいから聞きにいった。

──「君たちも聞きにいけばいいじゃん」って?

 加藤氏■そうです。企画を面白がってくれる編集者に出会えたという幸運に恵まれましたけど、僕だってただのフリーターからスタートして、ライターになってから「好きだ、好きだ。話聞きたい!」としかいってなかったですから。特別なことはしてないんですよ。誰でもできる、かどうかはわからないですけど、本当に好きであればできることだと実感しました。

──その結果、ただ好きじゃいられなくなるわけですね。

 加藤氏■そういうことになりますね(笑)。


(取材・構成:須藤輝)

●加藤レイズナ(かとう・れいずな)
1987年9月11日生まれ、フリーライター。「プリキュア」シリーズ制作陣に話を聞きたいという動機でライターに(初取材は2009年の鷲尾天プロデューサーインタビュー)。以降「エキサイトレビュー」、日経ビズカレッジ「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」、Webマガジン幻冬舎「お前の目玉は節穴か」連載など、インタビューを中心に執筆活動中。『プリキュアぴあ』(ぴあ)に参加、NHK-BS2「MAG・ネット」「プリキュア」シリーズ特集に出演。

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