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  • 2012/08/09 掲載

佐藤可士和氏:イノベーションをもたらすグローバルブランド戦略、日本企業はなぜ自社製品をうまくアピールできないのか

“ローコンテクスト社会”で成功するには?

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数多ある製品の中からどうやって消費者に選ばれるか。「ブランド戦略」の重要性は言うまでもない。自社の製品/サービスの良さを分かりやすく伝えることは、事業拡大にも避けて通れないものだろう。ユニクロ、今治タオル、藤幼稚園のブランド戦略に携わったアートディレクターの佐藤可士和氏は、「ハイコンテクスト社会の日本は、ローコンテクスト社会で自社製品をうまくアピールできていない」と日本企業のグローバルブランド戦略の問題点を指摘する。日立イノベーションフォーラム 2012で語った。

日本企業はなぜ自社製品をうまくアピールできないのか

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アートディレクター
クリエイティブディレクター
佐藤可士和氏
 自分の良さは、言わなくても伝わるはず、これはコンテクスト(※言葉の発せられた背景)の共有度が高いコミュニティでのみ成り立つ話だ。民族の流動が比較的少なく、同一言語でかなりの意思疎通が可能な日本社会は代表的なハイコンテクスト社会だ。しかし、一歩外へ出れば、そこには多種多様な文化や思想を背景にしたコミュニティが無数に存在し、共有度は極めて低い。こうしたローコンテクスト社会は、言わなければ通じない。

 「ハイコンテクスト社会の日本は、ローコンテクスト社会で自社製品をうまくアピールできていない」──アートディレクター/クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏は日立イノベーションフォーラム2012に登壇し、良いものがあるのに海外でうまく伝えられていない日本企業の現状をそう訴えた。特にインターネットによってアピールの場がグローバル化した現在、より良いコミュニケーションを通じて自社製品の良さをアピールするブランド戦略は優先事項の1つだ。

“ユニバレ”からグローバルブランドへ:ユニクロ

 佐藤氏がこれまで取り組んできた事例で、最初に触れたのが、ユニクロ(ファーストリテイリング)だ。同社のヒット商品であるフリースは、1998年に目標の200万枚、1999年には850万枚を売り上げ、ユニクロの名前を広く知らしめた。あまりの勢いに、学校ではクラスの2/3が着ている状態で、ユニクロを着ているのをばれないようにする“ユニバレ”という不名誉な言葉までもが生まれた。

 飽和状態だったのも理由だが、その後は売上も落ち、2001年に英国進出してチェーン展開したものの振るわず、1年で店舗を閉めることとなった。佐藤氏に声がかかったのは、こうした低迷期からの脱出を図ろうとしていた頃だ

 ユニクロ 代表取締役会長兼社長の柳井正氏は、チェーン戦略からブランド戦略へ180度方向転換してやり直したいと、佐藤氏に打ち明けた。

 そこで佐藤氏が最初に着手したのが、ロゴのてこ入れだった。そのためにまず、日本のブランドであることを出すかどうかを決定した。たとえば、世界アパレル業界トップのH&MとZARAは、それぞれ自国スペインやスウェーデン発祥であることを前面に出している。柳井氏に「日本の良いところを押し出していかないと勝てないと思う」と言われた佐藤氏は、日本メーカーが作り上げたモノ作りのイメージと、漫画やアニメなどのポップカルチャーのイメージを融合したロゴを考えることにした。

 こうして登場したのが、現在のロゴだ(佐藤氏のページを参照)。2006年当時、ニューヨークでフラグシップ店(ソーホー ニューヨーク店)を出す予定だったこともあり、「読めないけど何となく日本語であることが理解されているカタカナを使うことにした」と言う。同時に、英語表記も用意して、現在はショッピングバッグの裏表に印刷するなどして利用されている。

 ここで佐藤氏がこだわったのは、ユニクロ公式のフォントの作成だ。フォントの統一によって、グローバル展開時に一貫したメッセージを発信できるようになる。欧州の上流社会では、家紋のような感覚でその家独自の書体を持っている。その流れで、大手企業はブランド戦略の一環で独自のフォントを作成している。「モリサワと組んでフォントを作成し、ユニクロの広告などを制作する世界中のクリエイターに配布している」(佐藤氏)。

 ロゴは、フラグシップ店の建設シートにも使われた。最初はロゴを見せて、次に東京からニューヨークへ何かが来るというメッセージを出し、カラフルなロゴ、カシミアセーターの写真、最後はユニクロを着た有名人の写真を使い、半年間のキャンペーンを実施した。

 また、タクシーの行灯にロゴを入れて町中をジャックし、ファッション業界のインフルエンサー限定ショーを開催するなど、さまざまなイベントを仕掛けた。「これで失敗したら世界戦略はないから、思い切りやってほしいと(柳井社長に)言われた」。そう話す佐藤氏は、レディー・ガガのファッションディレクターでもあるニコラ・フォルミケッティ氏を招くなど、ドリームチームを結成して挑んだ。

 最終的にキャンペーンは功を奏し、オープニング時は1000人近くのニューヨーカーが並んだ。その後、同様にロンドン、パリ、上海、モスクワと展開し、いずれも成功を収めた。「コミュニケーションの本質を考え、何を見せたいかを考えれば、ちゃんと伝わるんだということを実感した」と、佐藤氏は振り返る。

 その後は、大阪、銀座と日本に逆進出。ファッション感度の高いTシャツ制作、ペットボトル入りTシャツの制作、ジル・サンダースとのサブブランド「+J」などを手がけた。+Jのときは、発売日をパリコレ当日にあてて、パリコレ期間に配布されるファッション新聞のラッピング広告をユニクロ一色にした。「3年目にして、より広く世界中のファッション業界へブランドを知らしめる戦略だった」(佐藤氏)。

 山口県宇部市の用品店から始まったユニクロの快進撃は「イノベーション」にあると佐藤氏は言う。「ストッキングが女性の地位向上や社会進出を促進したように、服にはイノベーションする力がある。ユニクロもそうなれるよう、イノベーションは重要と柳井氏はいつも語っている」。

(参考リンク:ユニクロの柳井社長が語る、3.11以降のグローバル化

【次ページ】1万円の白いタオルが売れる、今治タオルのブランド戦略

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