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  • 2012/08/03 掲載

【加藤貞顕氏インタビュー】「もしドラ」の編集者が手掛ける、新しいデジタルコンテンツの舞台

定額課金型コンテンツ配信プラットフォーム「cakes」 加藤貞顕氏インタビュー

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「電子書籍元年」と呼ばれた2010年から早2年。スマートフォンやタブレット端末の普及を背景に、課金が難しいとされたデジタルコンテンツの市場を切り開くものとして注目されたが、現段階では十分に浸透しているとは言えない状況だ。そんななか、岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』や『スタバではグランデを買え!』、『コンピュータのきもち』、『英語耳』シリーズなど多くのヒット作を手掛けた編集者・加藤貞顕氏が、定額課金型コンテンツ配信プラットフォーム「cakes(ケイクス)」を立ち上げ、新たな市場開拓に挑戦する。本の情報をそのまま移行するだけの「電子書籍」という発想を脱却した、紙と競合せずに共存する今までにないデジタルコンテンツの形とはいかなるものなのか? 2012年夏のローンチを前に、多忙を極める加藤氏に話を伺った。

デジタルは売り場が狭い? 電子書籍で学んだ紙とデジタルの本質的な違い

──270万部を売り上げた「もしドラ」以外にも、『スタバではグランデを買え!』(吉本佳生/ダイヤモンド社)を編集するなど、紙の書籍でヒットメーカーだった加藤さんがデジタルコンテンツの市場に打って出ると聞き、驚かれた方も多いと思います。実際に私もその1人だったわけですが、まずは加藤さんがデジタルコンテンツと出会った経緯を教えてください。

 加藤貞顕氏(以下、加藤氏)■独立する前に所属していたダイヤモンド社で、電子書籍のプロジェクトの担当になったことがきっかけです。もともと、アスキーにいたこともあり、ITに土地勘を持っていたことが選ばれた理由でした。まさに、「電子書籍元年」と呼ばれた2010年のことです。そこで、「もしドラ」を含む約50タイトルを紙からデジタルに置き換える仕事をしていたのですが、やっていくうちに紙とデジタルの違いが分かってきて、面白くなってきたんですよね。

photo

「cakes(ケイクス)」のティザーサイト


──どのような違いですか?

 加藤氏■まずは、紙の本と電子書籍では売れるコンテンツが違うということです。紙ではあまり売れ行きが芳しくなかった本が電子で売れたこともありましたし、その逆もありました。当時のダイヤモンド社の電子書籍は、アップル社の「App Store」で販売していたので、『ファイナルファンタジー』などのゲームアプリとも競わなければなりません。そんな中、ユーザーから求められるのは、「面白くて、役に立つコンテンツ」と「面白いけど、役に立たないコンテンツ」です。

 ダイヤモンド社で手掛けたものでいうと、前者が「もしドラ」で、後者が『適当日記』(高田純次)でしょう。両方とも17万ダウンロードという、快挙とも言える売り上げを達成しました。一方で、「面白くないけど、役に立つコンテンツ」はApp Storeには向かずに、紙でしか売れません。例えば、哲学書や高度な技術のマニュアルのような難しい本は、やっぱり紙で読みたい。

──なるほど。私自身も「App Store」で電子書籍を購入したことがありますが、長いコンテンツは読みにくいですよね。電子書籍で人物評伝を購入したら、iPhoneの画面で読むと1000ページ以上に及んでいたために途中で挫折して、紙の本を買い直した経験もあります。

 加藤氏■そうですね。長さの問題もあります。「もしドラ」は比較的長い方ですが、文章が読みやすいこと、『適当日記』は1つ1つの話が短いことが功を奏したのだと思います。私の感覚で言うと、紙の1章分くらいの分量が、電子書籍には最適なのではいかと感じました。

 また、もう1つの違いは、デジタルはリアル店舗より売り場が狭いということです。こういう言い方をすると「デジタルの方が物理的な制約がない分、リアルの店舗より広いのでは」と不思議に思うかもしれませんが、実際には「App Store」では売り上げの上位に食い込まなければ、ほとんど商品がユーザーの目に触れることがありません。つまり、それ以外の商品は埋もれてしまい、ユーザーに届く可能性がリアル店舗より低くなってしまうんです。

──「App Store」の「トップ25」を見てみても、ゲームやエンターテイメントのアプリが多いようです。

 加藤氏■はい。そして、そのほとんどが100円以下の安価なアプリです。電子書籍がそこに入るのは非常に難しい。さらに、「デジタルの売り場が狭い」のは、普通の検索エンジンでも言えることですよね。普通は1ページ目、多くても2、3ページ目までしか見ない人が大半ではないでしょうか。

──それらの経験から得た課題点は、新サービス「cakes」で克服されているのでしょうか?

 加藤氏■もちろん、そのつもりです。それを知っていただくために、ぜひ、この場を借りてサービスの説明をさせていただききたいのですが、その前に1つだけ触れておきたいことがあります。それは、「cakes」は既存の紙の市場と競合するものではないということです。

 電子書籍を作っていて感じていたことは、「このままでは音楽業界と同じことになる」ということだったんです。具体的に言うと、2002年に4,318億円だったCDの生産額も、2011年には2,085億円に縮小しました。一方、同年の有料音楽配信額は719億で、CDとデジタルの両方の売り上げを足しても、以前の売り上げには届きません。

 恐れなければいけないのは、同じようなシュリンクが出版市場にも起こることです。同じ経済圏に参入していくだけでは、「1兆8,000億円あった出版市場が1兆円に縮小し、電子書籍市場が2,000億円程度になって6,000億円が消失」なんてことにもなりかねない。それを防ぐためには既存市場を食い減らすのではなく、新たな市場を創出するしかありません。

 先ほども指摘したとおり、紙の本とデジタルコンテンツは、まるで別の性質を持っています。もっと言えば、「電子書籍」という呼び方自体が過渡的なもので、紙というパッケージのイメージに引きずられた形態です。紙の本のアーカイブとしての電子書籍は残ると思いますが、新しい市場を創るデジタルコンテンツは新しい発想のもと作られなければいけないと思っています。

 そういった理念にも共感してくださって、先日はサイバーエージェント・ベンチャーズが出資をしてくださいました。共鳴していただいて、将来があると見ていただけるのはとてもありがたいですし、やる気も出ますね。

参考:日本のレコード産業2012年度版(PDF)
http://www.riaj.or.jp/issue/industry/pdf/RIAJ2012.pdf

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