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2012年08月13日

『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』著者 豊崎由美氏インタビュー

【豊崎由美氏インタビュー】1冊1冊と踊る書評のために──書評というジャンルの現在とこれから

ライター・書評家の豊崎 由美氏の新刊『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』(本の雑誌社)は、『本の雑誌』の連載を一冊にまとめたものだ。国内外の文学作品の数々に対して、それぞれに合わせたスタイルで評した本書は読み応え十分。一方で、豊崎氏は2011年に刊行した『ニッポンの書評』(光文社新書)において、現在の書評の枠組みや問題など多くの論点を提示している。書評というジャンルについて、ご著書の内容と絡めてお話を伺った。

ガタスタ屋の仕事

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『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』

──まずは新刊『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』の書名にある、「ガタスタ」についてうかがわせてください。

 豊崎 由美氏(以下、豊崎氏)■英国のモダニズム文学期の重要な作家ヴァージニア・ウルフが、あるエッセイのなかで、書評家の仕事を「ガター&スタンプ制度」と呼んでいまして、それを略したものです。「抜き取り屋」を意味するガターは書評におけるあらすじ紹介(要約)で、さらに「これはおすすめ、買いですよ!」という評価スタンプをぽんっと押して一丁上がり──書評家の仕事ってそんなものだよね、と腐しているわけです。

 でも、ガターには読解力と技術が必要ですし、スタンプにはセンスと勇気が必要です。仕事が書評中心になって10年以上になる私の実感として、書評を書くということは、一般的に考えられている以上に難しいものです。つまりこのタイトルは、「ガタスタ屋であることに誇りをもって仕事しています!」という宣言のようなものですね。

──選書に関して、「こういう本を選ぼう」みたいな基準などはありましたか?

 豊崎氏■私はライター出身なので、媒体に合わせた書き方を強く意識して仕事をしてきました。どこの媒体でも同じ書き方・同じ視点を用いていたら生き残れなかったんです。たとえば、「マガジンハウスの女性誌だったら、こういうタイプの読者を想定しているんだから、この本を」みたいなことをまず考えます。

 そういう点においては、『本の雑誌』は選書が楽でした。そもそも本を好きな人が読む雑誌ですからね。だから、よそではなかなか紹介できないようなシブい本などを意識的に選んでいました。また、放っておいても売れるようなものではなく、誰かが紹介しないと読者になかなか届かなそうな本をなるべく選ぼうとしていたと思います。

──それで外国文学(ガイブン)や純文学の割合が大きかったのですね。

 豊崎氏■言ってみれば、日本の書評界って、圧倒的にエンタメを取り上げる人が多い現状があるわけです。純文学とか、ジャンル小説じゃない外国文学とかを書評する人が少ない。だから私は自分のことをニッチ書評家だと思っています(笑)。ほとんど誰もやらないから自分でやってみたら、意外と需要があった、と。

 あと、ガイブンが多めなのは、自分がガイブン好きにも関わらず、英語がからっきし理解できないから、というのもあります。読むためには翻訳されるのを待つしかないわけです。でも、ここで読者数の問題が立ちはだかるのですね。どの版元のガイブン担当者も、口を揃えて「ガイブンのコアとなる読者は3,000人」って言うのですけど、それって本を出せるギリギリの数でしょう。高齢の方も少なくないはずですから、もしかしたら3,000人のうち100人くらいは毎年亡くなっているかもしれません。

──3,000人を割ってしまう!

 豊崎氏■なので、3,000人という最低限のサークルに新しい読者を補填していかないと、ガイブンがどんどん日本で刊行されなくなり、私自身が読めなくなってしまう。それじゃ、困るわけです。自分が読み続けるためにも、ガイブンの読者を増やす……その役割は意識しています。そうやって世の中は回っていくと信じているので。

──非英語圏の作家の作品も多数取り上げられています。このあたりは書評が出ることも少なそうですね。

 豊崎氏■そうなんです。英米の作家の作品はまだ恵まれているのに対して、アジアの作家の作品などは、まだまだ紹介されてない傑作がたくさんあります。どうも一般的に日本人は、日本以外のアジアの文学を下に見ている傾向すらあるのではないかと思いますよ。ノーベル文学賞の発表の時期になると、みな口を揃えて「村上春樹」「村上春樹」と言うけど、ちゃんちゃらおかしい。春樹の前に、中国の莫言や残雪でしょう。

 中国や韓国にも素晴らしい小説があり、翻訳を出したいと思っている版元もあるはずなのですが、やはり読者数の問題もあって出せない。英語ができる人は英訳版を読んだりもできるんでしょうけど……。そういう意味では、私は発見者ではありません。第一発見者は翻訳者や翻訳を頼んだ編集者で、私は彼らの声に耳を澄ませているんです。

 あとは「これは○○さんが翻訳しているから面白いに違いない」「これは●●さんが編集を担当しているのだから間違いない」みたいな、自分のなかのガイブン人脈図に従って、よい本に巡り合うわけですね。私の仕事は、司書や書店員と同様、作者/作品と読者との仲介役だと思っています。

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