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  • 2012/12/06 掲載

高広 伯彦 氏インタビュー:コミュニケーションプラニングに求められるのはコンテクストの見極め

新しい広告、PRのあり方とは?

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モノが売れない時代といわれて久しい。最近ではTwitterやFacebookといった新たなコミュニケーションメディアも登場し、有効なアプローチ方法についてはまだまだ暗中模索の段階にあるようだ。こうした中、自社製品・サービスの開発において、より良い製品を作るプロダクトアウト型でも、顧客の声に耳を傾けて作るマーケットイン型でもうまくいかない、と悩む企画担当者は少なくないようだ。いま求められるのは、今までのコミュニケーション方法を一回リセットし、新たな発想で消費者と向き合うことではないか。電通・グーグルなどでマーケティングや広告セールスを手がけたスケダチの高広伯彦氏はそう指摘する。

「コミュニケーション」が求められる時代へ

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スケダチ
代表取締役/コミュニケーションプランナー
高広伯彦氏

同志社大学大学院文学研究科社会学専攻修士課程修了(社会学修士)。博報堂、電通で主に営業、メディア開発やインタラクティブ・マーケティングなどに従事したのち、グーグル日本法人へ移籍。広告商品のマーケティングやYouTubeの日本における広告セールス導入などを手掛ける。2009年に独立し、フリーのマーケティングプロデューサーとしてコミュニケーションプランニング、マーケティングコミュニケーションの企画、事業開発支援を行う。2012年2月に株式会社スケダチとして法人化し、現職。8月にはインバウンドマーケティングを専門に行う株式会社マーケティングエンジンを株式会社コムニコと共同で設立した。主な著書に『次世代コミュニケーションプランニング』(小社)、共著に『次世代広告テクノロジー』(小社)、『フェイスブックインパクト』(宣伝会議)ほか。
──3月に『次世代コミュニケーションプランニング』に上梓されました。まず本書を書こうと思われたきっかけや業界の変化などについてお聞かせください。

高広伯彦氏(以下:高広氏)■従来の広告とは、広告の“枠”を買ってそこに出稿することを指していました。その中で、いかに自社の商品やサービスをプレゼンテーションするか。いわば整地された住宅地の1区画を買って、その上に家を建てるようなものです。

 しかしさまざまな情報が氾濫している今の時代、それだけでは消費者に効果的にアプローチすることができません。企業と消費者との関係を一から設計する必要があるのです。言わば、整地される前の雑木林から始めなければならないのです。

 では、広告枠に広告を出す以外のマーケティング・コミュニケーションの企み、あるいは仕掛けを何と呼べばいいのか。それは結局、“企業と消費者とのコミュニケーションをプランニングする”ということに他なりません。

 だから広告の本を書こうという意識はなかったんですよ。広告よりも広い概念ということで“コミュニケーションプランニング”という言葉を使いました。広告という言葉を使った時点で、人々の頭の中が既成概念の制約を受けてしまうと感じていましたので。

──「コミュニケーションプランニング」という考え方は、日本ではどのように進んでいますか?

高広氏■この分野はやはり米国が先行していますが、最近では日本の広告代理店やPR会社の中にもコミュニケーションプランナーやコミュニケーションデザイナーという肩書きの職種の人が出てきました。しかしその実態は、まだまだ整地された土地、つまり広告枠を前提としたプランニングやデザインに留まっているような気がします。

──書名に「次世代」という言葉を使われていながら、過去、現在を基本から見直したうえで、未来を描き出そうとされている点も「狙っていらっしゃるな」と感じました。

高広氏■この本では、その時々の流行に左右されないことを意識しました。具体例を用いて説明するのは簡単ですが、事例集ではすぐに陳腐化してしまいます。敢えて難しい言葉、ただし学術的背景なども考慮した正しい言葉を使って、その意味を読み解いてもらうことで、読まれた方自身に考えてもらいたいという思いがありました。さらに、再度読み返してもらっても、新しい発見につながるような書き方にしたつもりです。なので、事例集のような本はなんとなく知識が増えて満足したとなるでしょうが、この本はそういうことはないかもしれません。一方で「考える」という読書体験をしてもらえることができるとよいなと。実際お会いした読者の方が、本がボロボロになるまで読まれていて、マーカーと付箋紙だらけの本を見せられたときには嬉しかったですね。

“C to C”のコミュニケーションの中にどう入っていくか

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次世代コミュニケーションプランニング
──著書の中で、「トライブ(種族)」というお話に言及されていました。最初は、マスマーケティングからOne to Oneマーケティングへの変遷の途中にある、ぼやっとした集団のことだと認識していました。しかし、特定の人々の間で流行っているようなこと、たとえばボーカロイド(ボカロ)や街コンなど、私の周りにはいない“人種”を説明するときに、非常にしっくり来る言葉だと感じ、改めて本書を読み返した記憶があります。

高広氏■One to Oneマーケティングは、企業が消費者と1対1の関係を築こうとするものですが、そこでの主役はあくまで企業です。B to BやB to Cという言葉もよく使われますが、それらもあくまで“企業ありき”の視点です。

 たとえばデモグラフィックなターゲットセグメント、「クラスター」と呼ばれるものは、一見、集団に見えますが、その集団を構成する人々に横の繋がりは存在しません。マーケッター側が勝手に“近しい属性を持つ人”を集めたものなわけです。

 しかし現在はソーシャルメディアなどネットワーク化された幾層もの世界があり、そこで繋がっている人たちがいます。その中の誰かにアプローチし、それが認められれば、情報は横に広がっていく。つまり今の時代には“C to C”のコミュニケーションを考えることが非常に重要で、そうした興味関心によって構成された“つながり”を「トライブ」と呼ぶのです。

 さらにいえば、C to Cとは“ユーザーコミュニティ”であり、人々が自ら構成している場所です。それらは広告枠化していないものがほとんどで、企業やメディアの力で人々を集めたものではありません。コンテンツを作っているのもユーザーです。従来のメディアとの違いはここが大きいのです。

 従来型メディアはコンテンツの制作機能と配信機能が一体化していました。しかしソーシャルメディアは、その運営者がコンテンツを自ら作ることは稀でプラットフォームを提供しているだけ。その上にのっかるコンテンツはユーザーが生み出しています。つまり従来とはまったく異なったメディア・プラットフォームが出現したということです。

 そうなると、このユーザーコミュニティにお邪魔をするような広告枠を設置して出稿するという行為が、そもそも正しいのかどうか。ユーザー主導型のメディアだからこそ、企業のメッセージの出し方も従来型メディアと同じわけにはいかない。だから従来メディアとはまったく別のコミュニケーションモデルを考える必要があるのです。

──一方でコーポレートサイトやキャンペーンサイトなど、企業側がコントローラブルな“オウンドメディア(例:自社のホームページやパンフレットなど、自社が主体で発信する媒体のこと)”をもっと活用していくべきという流れもあります。

高広氏■オウンドメディアを「企業側がコントロールできるもの」と説明している方が多数いらっしゃいますが、本当にそうでしょうか?たとえオウンドメディアであっても、企業側が発信したいものを発信しているだけでは、決して読者や消費者は付いてきません。オウンドメディアも、インターネットの中でユーザーと接合されなければまったく意味がないのです。

 つまり、コントロールはできてるかもしれないけど、人々がついてこなければまったくもってマーケティングとして意味がない。あえていうなら、「コントロールできる」よりも、読者・消費者に「コントロールされる」ような構造を持っていたほうが時代に合うのではないかとも思います。

 ユーザーが生み出すコミュニティとオウンドメディアの間にどうやって橋を架けるのか、さらにはその橋を渡ってもらうためにはどうすればいいのか。こうした観点からも、ユーザーコミュニティでの人々の繋がり方や仕組みを理解し、その中に自社はどのように入っていくのかを真剣に考えることが求められていると思います。オウンドメディアは作ったものの広大なネットという大海の中の孤島にあって、肝心のそこに渡る橋がない、ということもよく見かけるケースです。

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