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  • 2012/11/30 掲載

【大森望氏×豊崎由美氏インタビュー】「メッタ斬り!」シリーズの著者に聞く文学賞の仕組みとお金

『文学賞メッタ斬り』著者 大森望氏、豊崎由美氏対談

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芥川賞と直木賞など代表的な文学賞の存在は誰もが知っている。しかし、その文学賞がどのようなシステムで動いているのかはなかなか見えてこない。そこで、「文学賞メッタ斬り!」シリーズの著者である大森望氏と豊崎由美氏に、文学賞の基礎中の基礎のところから解説していただいた。そこから見えてくる面白くも不思議な世界とは?

まずは五大文芸誌のどれかに載せてもらう

──小説を書いたことのない、たとえば僕が芥川賞か直木賞をとろうと思ったら、まずどうすればいいのかなと。

 豊崎由美氏(以下、豊崎氏)■芥川賞と直木賞は年2回選考があって、期間中に発表された作品が対象。まず芥川賞は、『文學界』『新潮』『群像』『文藝』『すばる』の五大文芸誌といわれているもののどれかでデビューすることが大事なんですよ。

 大森望氏(以下、大森氏)■100枚くらいの原稿を書いて、五大文芸誌のどれかに載せてもらう。載りさえすれば、芥川賞候補になる資格は充分。それだけで、候補選出確率10パーセントくらい(笑)。

──芥川賞は候補だけなら意外となれるものなんですね。

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大森望氏と豊崎由美氏
 豊崎氏■デビューするまでが大変ですけどね。で、直木賞のほうがさらに大変。

 大森氏■うん。芥川賞のゆうに10倍は難しい。直木賞候補作は、期間内に刊行された全単行本の中から選ばれるから。

──文芸誌5誌の掲載数よりも、単行本のほうがずうーっと数が多いから。

 大森氏■そうそう。分母の数がぜんぜん違う。おまけに、新人のデビュー作が候補になる確率は、芥川賞よりはるかに低い。

 豊崎氏■直木賞の対象作品って、ミステリーあり、SFあり、リアリズム小説ありと、幅がすごく広い。そのなかから候補5、6作品の中に入らなきゃいけないわけですからね。

──なんか芥川賞のほうが難しいイメージがありました。芥川賞、直木賞、それぞれどっちを目指す人が多いんですか?

 豊崎氏■芥川賞のほうが目指す気になれるかもしれない、分母的に言うと。

──直木賞は目指しようがない?

 豊崎氏■「直木賞とるぞー!」って思っても、なんか茫漠として、とりあえずポワーンとしちゃいますよね。まずは江戸川乱歩賞をとっておこうかなと思ったって、それだって何百点とある応募作のなかから勝ち上がらないといけない。で、たとえ、乱歩賞が受賞できて直木賞の土俵に立てたとしても、恩田陸さんみたいな実力派がまだとっていない。そんな人と勝負しなきゃいけないわけですからねえ。

──道は険しいなあ。

 大森氏■まず、文春の編集者に認知してもらって候補になり、候補になることで選考委員に作品を読んでもらって名前を覚えてもらうことからスタートする。先は長いよ。

 豊崎氏■一度直木賞候補になれば、そのあとも繰り返し候補にしてもらえることは多いですからね。

文学賞は受賞者クラブへの入会審査

──芥川賞と直木賞両方受賞することは可能なんですか? 同時受賞とか、直木賞とった10年後に芥川賞も、とか。

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『文学賞メッタ斬り!』

 大森氏■それは不可能。どちらもとったことがない人というのが候補の条件だから、片方しかとれない。

 豊崎氏■つまんないルールだよねー。両方とらせたっていいと思うんだけど。

 大森氏■微妙なケースもあるね。2012年の下半期でいうと、芥川賞作家の円城塔さんと、亡くなった伊藤計劃さんとの合作、『屍者の帝国』。はたしてこれは、レギュレーション的に直木賞候補になりうるのか。

 豊崎氏■わたしはなりうる派ですね。

 大森氏■なりうる?

 豊崎氏■うん。

 大森氏■まあ、規約上認められたとしても、候補に選ばれるかどうかはまた別ですけどね。

──明確に決まっているわけじゃないんですか。

 豊崎氏■そうなんですよ。これだけ話題になる文学賞なんだから、「文藝春秋」や「日本文学振興会」のサイトに、内規を公表すべきです。

 大森氏■内規があっても、さすがに合作の場合までは想定してないだろうけど。

──同じ賞を2回受賞することは可能なんですか?

 大森氏■本屋大賞や星雲賞、本格ミステリ大賞みたいな、会員等の投票で決まる賞は重複受賞を認めていることが多い。でも、それ以外の、選考委員制で決まる賞のほとんどは重複受賞を認めていない。だから、芥川賞・直木賞に限らず、日本推理作家協会賞も三島賞も山本賞も1回しかとれない。

 豊崎氏■雇用機会均等法みたいな感覚が漠然とあるんじゃないですか。

──富が集中してはまずい。

 豊崎氏■実際問題、何回も直木賞とっていいとなると大変なことが起きますよ。なかなか新しい人が受賞できなくなる。宮部みゆきさん、あんた何回とるんだみたいな(笑)。

 大森氏■文学賞メッタ斬り!』の序文に書いた話だけど、宮部みゆきさんが直木賞をとったとき、お姉さんが近所の魚屋さんにそのことを言ったら、「おめでとうございます。次は乱歩賞ですね」と言われたっていう。しかもそのとき、宮部さんは江戸川乱歩賞の選考委員だった(笑)。

 豊崎氏■直木賞をとったあとに、「次は芥川賞ね!」と言われた作家もいるらしいですしね。

──いやー、でも普通わかんないですよ、文学賞の仕組みって。こうやって聞く機会でもないと。

 豊崎氏■そんなあなたに『文学賞メッタ斬り!』シリーズ全5冊、最終巻『文学賞メッタ斬り! ファイナル』がパルコ出版より絶賛発売中です(笑)。

 大森氏■日本推理作家協会賞は、別部門での重複受賞も認めていないので、短編で受賞すると、長編ではとれない。同じ年に、ある作家の「A」という作品が短編部門、「B」という作品が長編部門にノミネートされた場合は、その場で本人に電話して確認するんですよ。

──どっちがいいですか? って。

 大森氏■そう。両方いっぺんに受賞したら困るから、候補者本人に選んでもらう。たいてい長編を選ぶんですけどね。要するに、文学賞って、受賞者クラブへの入会審査みたいな感じなんです。

──どういうことですか? 受賞が会員証になる?

 大森氏■会員証をもらったら、もう審査の必要はないでしょ?

──あー、だから1回だけなんだ。

 大森氏■会社と思ってもらってもわかりやすいかな。日本推理作家協会賞の場合だと、日本推理作家協会という、日本ミステリー株式会社みたいなところに入社したことになる。

──会社に入るとどうなるんですか?

 大森氏■「今後はぜひ日本のミステリーの発展のために働いてほしい」と先輩作家に言われて、さまざまな下働きをさせられる(笑)。

──ミステリー雑巾がけを。新入社員たちは、今後一生ミステリーを書いていかないといけないんですか?

 豊崎氏■日本推理作家協会賞をとったあとに直木賞をとって、「わたしはミステリーを書いているつもりはございません」とか言って、離れていく人もいますよ、高村薫先生みたいに(笑)。

──下働きが嫌だったとかでは。

 豊崎氏■どうなんでしょう。尊敬できる上司がいなかったんじゃないですか。ミステリー株式会社の中には。

 大森氏■まあ、今の話はほとんど冗談なんであんまり真に受けてもらっても困るんだけど、推協賞に限らず、文学賞には、ある種の作家グループへの入会審査的な側面があることは事実。そういうところに入りたくないと思っている人が受賞した場合、ちょっとした軋轢が生じることもあるわけです。

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