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  • 2012/12/13 掲載

イノベーションのジレンマ抱えるアップル、突破口に待ち受ける日本企業のさらなる苦難

【連載】米国ハイテク企業ウォッチ

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米国Apple Inc.社(以下、アップル)の株価が最近冴えません。9月19日に最高値702.1ドルを付けた後、株価は下落、12月7日の終値は533.2ドルと3カ月の間に株価は24%も下落しました。一方、ハイテク株の指標であるNASDAQ総合指数は、同期間で-6.4%(9月19日 3,182.6→12月7日2,978)の下落にとどまっており、投資家はアップルの将来性に対して懐疑的な見方をしていると言えます。次のiPhone 5Sの噂も注目される中、一体、アップルに何があったのでしょうか?

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

2005年東京大学大学院情報理工学研究科修了。博士(情報理工学)。英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所訪問研究員を経て、2006年日興シティグループ証券にてITサービス・ソフトウェア担当の証券アナリストとして従事したのち、2009年3月にフューチャーブリッジパートナーズ(株)を設立。経営コンサルタントとして、経営の視点から、企業分析、情報システム評価、IR支援等に携わる。アプリックスIPホールディングス(株) 取締役 チーフエコノミスト。共著に『使って学ぶIPv6』(アスキー02年4月初版)、著書に『これならわかるネットワーク』(講談社ブルーバックス、08年5月)、『ネット企業の新技術と戦略がよーくわかる本』(秀和システム、11年9月)。『ビックデータ戦略』(秀和システム、12年3月)、『図解:スマートフォンビジネスモデル』(秀和システム、12年11月)。
ホームページ: http://www.futurebridge.jp

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アップルの業績は絶好調

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アップルの株価。9月19日に最高値を付けた後、24%も下落している
(出典:Yahoo! Finance)

 低迷する株価と裏腹にアップルの業績は絶好調です。10月25日に発表された同社の2012年度第4四半期決算において、売上高は前年同期を27%上回る3,596億ドル(1ドル80円換算で2.87兆円)、営業利益は109億ドル(同8,720億円)といずれも第4四半期では過去最高水準となりました。

 その業績のけん引役となったのは、いうまでもなくiPhoneです。同社のiPhoneの出荷台数は2690万台で、前年同期1710万台を大幅に上回る水準となりました。

 iPhoneは端末だけが売れるわけではありません。電源アダプタ、リモコンなどのアクセサリの売上も171億ドルとなり、前年同期比で+56%の水準に達しました(以上の出荷台数、決算数字の出所は2012年第4四半期電話会議におけるピーター・オッペンハイマーCFOのコメントより)。

 これまでの堅調な売上に加えて、今後の同社のクリスマスシーズンの目玉となる製品、iPhoneの最新版であるiPhone 5、高精度ディスプレイRetinaディスプレイを採用したiPad Retinaディスプレイモデル(以下、第4世代iPad)、小型タブレットのiPad miniです。スマートフォン、タブレット、ミニタブレット(7インチタブレット)、3つの製品を武器にクリスマス商戦でも他社を圧倒することになるでしょう。

アップルが孕む2つの脆さ

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第4世代iPad
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iPad mini
 このように盤石にも見えるアップルの戦略ですが、実は脆さも孕んでいます。結論から言えば、その脆さが株価下落の要因です。そして、その脆さは2つあります。

 まず、1つ目は、第4世代iPadとiPad miniとのカニバリゼーション(共食い)です。11月28日発表したシティグループ証券のグレン・ヤン氏のレポートによれば、米国の小売店50店舗に調査した結果、96%の店舗がiPad miniについて、顧客の希望するストレージオプション、カラーのモデルが不足している一方で、第4世代iPadについては100%の店舗で十分な在庫があると回答していました。

 すなわち、iPad miniを購入したいと思う顧客が多い一方で、第4世代iPadは十分な在庫、品不足が起きるほど売れていないのではないかと同レポートでは仮定しています。この仮定は、実際の販売をもとにしたデータではありませんが、感覚的には十分納得できる水準です。iPad miniと第4代iPadを同時に購入する人はよほどのアップルファン以外はいないでしょう。iPhoneとiPadは共存することができますが、iPad miniと第4世代iPadは、共食いにならざるを得ません。

 さらに、7インチタブレットでの競争は熾烈を極めています。大型のiPadと違って、7インチタブレット市場は、グーグルのGoogle Nexus 7は1万9,800円(16GBモデル)、Amazon.comのKindle Fireに至っては1万2,800円と、いずれも低価格モデルが主流です。

 特に、Kindle Fireについて言えば、アマゾンのタブレット狙いはあくまでデジタルコンテンツ(書籍、音楽、ビデオなど)の売上を伸ばすための窓口であり、コンテンツによるエコシステムを構築しながらも、あくまでハードウェアを販売することで利益を稼ぐアップルとはビジネスモデルが異なります。

 結果、7インチタブレット市場では採算性度外視での消耗戦が続き、これによってアップルの利益率を押し下げる要因になりえています。

米国スマートフォン市場の成熟化

 2つ目の脆さが、米国でのスマートフォン市場の陰りです。

 米国のオンラインメディア、ビジネス・インサイダーは、スマートフォンは、すでに終盤戦(Late Innings)に突入しつつあるという見方をしています

 具体的には、米国の人口は3.1億人、そのうち、14歳以上の人口は2.5億人であり、米調査会社のComScoreの調査によれば、2.35億人の米国国民が携帯電話を利用しています。そして、同調査によれば、1.14億人がスマートフォンを利用しており、携帯ユーザーの約半分が既にスマートフォンを利用しています。

 ある製品の普及率が人口の50%を越えると、新規ユーザーが徐々に減っていくのは、1960年代にエヴェリット・ロジャースによって提唱された「イノベーションの普及理論」以来、よく知られた現象です。

 そして、フィーチャーフォンがそうであったように、スマートフォンも普及率が50%を越えると、新規ユーザーが減少することが予想され、それはアップルにとっても、米国でのiPhoneの出荷台数が減少することにつながります。

 以上、(1)iPad miniによる第4代iPadの浸食、ならびに、(2)スマートフォンの成熟化、こうした将来の不確定要素から、アップルの株価が下落しているものと考えられます。

【次ページ】イノベーションのジレンマを抱えるアップル

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