• 会員限定
  • 2013/03/15 掲載

IT化のグローバル化は「繁栄のオアシス」か「デジタルディバイド」か:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(52)

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
成長戦略にITが欠かせないことは、今や先進国のみならず途上国を含めてグローバル社会の常識だが、こうした国際論調が形成されたのはつい最近のことだ。わずか10年前までは、米国など一部の先進国はITで「繁栄のオアシス」になるものの、途上国は「デジタルディバイド」で取り残されるとの懸念が強かった。国際論調は「IT化のグローバル化」という実態変化とともに変遷してきたのだ。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

情報化のグローバル化という大奔流

これまでの連載一覧
 昨年末来「アベノミクス」による日本経済の復活に関心が高まっている。これが金融市場や為替市場などのマーケットを中心とした「期待感」から実体経済の力強い回復へとつながるのか、今後の展開が注目される。

 金融政策や財政政策と並ぶ成長戦略では、規制改革が1丁目1番地といわれているが、その一翼を担うのがITであることは間違いない。General Purpose TechnologyとしてのITは、農業から医療、教育まであらゆる分野で既存の「仕組みの見直し」を求めるからだ(ITと制度改革の関係については連載の第38~42回参照)。

 実体経済の再活性化を考える際には、業界再編であれ制度の見直しであれ、狭い国内問題にとらわれ過ぎず、国境を越えた企業行動を視野に入れたグローバルな観点が欠かせない。連載の第42回の図表1~4で示したように、2000年代に入ってからは携帯電話の爆発的な普及により、先進国だけでなく途上国を巻き込んだ「情報化のグローバル化」という大奔流が生まれている。

 経済の成長や社会の発展にITが大きく貢献することは、今や先進国のみならず途上国を含めてグローバル社会の共通認識だが、こうした国際論調が形成されたのはつい最近のことで、10年前とは様変わりしている。今回は「情報化のグローバル化」という大奔流の中で、国際論調がどのように変遷してきたかを跡付けよう。

ITで輝く繁栄のオアシス

 ITの進歩と急速な普及が経済に及ぼす影響について、現実的なテーマとして1990年代に国際的な関心が高まったのは、IT投資をテコに米国経済が再活性化したことが大きい。当時は、ITを導入しても経済成長が加速しないという1987年にソローが指摘した「生産性パラドックス」とそれが解消して新たな成長過程に入ったとする「ニュー・エコノミー論」の論争が繰り広げられた(第15回~第21回参照)。

画像
図表1 国際的な論調の変遷

 ここで重要なのは、ニュー・エコノミー論の是非ではなく、1990年代の米国経済がITへの投資増勢を続ける中で、1994年のメキシコ通貨危機、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア通貨危機、日本やEU経済の停滞に揺らぐことなく、1970年代からの長期停滞を脱し、再活性化したと当時の国際社会の中で強く認識されたという事実だ。

 それを象徴するのが「繁栄のオアシス(oasis of prosperity)」という表現だ。1998年9月、グリーンスパンFRB議長(当時)は、カリフォルニア大学バークレー校の講演で「ニュー・エコノミーは存在するか?」という質問に「繁栄のオアシス」という表現を用いながら応じた。内容的には不確実な将来への過度な楽観を避けるものであったが、行間から浮かび上がる文脈としては、当時の米国経済が「繁栄のオアシス」であることを示唆するものであったといえる(注1)。

 この発言がなされた当時をふり返ると、世界経済が不透明感を増す中にあって、米国経済の先行きには安心感が広がっていた。1999年5月に開催されたOECD閣僚理事会では、欧州や日本は米国の情報技術革命を見習うべきという趣旨の発言が、米国からではなく、ドイツやフランス側から発せられたとさえ報じられている(注2)。当時の米国は、国内のみならず国際社会でも、ITで輝く「繁栄のオアシス」とみられていたのだ。

【次ページ】デジタルディバイドの懸念

注釈
注1 当時の良好な米国経済を示す際に「繁栄のオアシス」という表現が用いられる。Mann(2002), Kliesen(1999)参照。
注2 日本経済新聞(1999)参照。

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます