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2013年05月15日

難民の食糧支援にも活かされるモバイル・バウチャー:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(54)

グローバル社会がITを課題解決と経済発展のかなめに位置づけるようになったのは、新技術とは縁遠かった人々を巻き込んだ爆発的な普及とそれに伴う社会の変貌が起きていたからだ。途上国では農民や漁師がITを有効に利活用して所得を増加させ、SMSを応用したモバイル・マネーは、銀行口座を持てなかった所得層にも送金サービスを可能にした。これを応用したモバイル・バウチャーは、国際機関による難民の食糧支援にも活かされている。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

人々による価格の発見

 前回みたように、ITに関する国際論調は過去10年で大旋回し、途上国の経済発展に向けた起爆剤になるという認識が一気に広がった。しかもそれは、成長、雇用、教育、医療など広範な領域に適応されて貧困からの脱出に貢献し得るという、まさに多目的技術(GPT:General Purpose Technology)としての課題解決力を見据えたものだ。

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アフリカ大陸南東部に位置するモザンビーク。

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 その背景には、新技術とは縁遠かった途上国の農民や漁師(farmers and fishermen)さえも巻き込んだ急速な携帯電話の普及とそれに伴う生活の変貌があった。今や、途上国ではプリペイド式のSIMカードが日用品を露店で売買するような感覚で取引されるほど行き渡っている。

 モザンビークでは、かつて70キロ離れていた農家に通っていた農業技術指導員が、SMS(ショート・メッセージ・サービス)を通じて、栽培時期に関する情報や天候・気象情報を伝えることで指導できるエリアが広がった。携帯電話で市場の取引価格(場合によっては先進国の先物価格)を入手できるようになった農家は、仲買人の言い値ではなく適正な価格で売却が可能になり、漁師は漁獲した魚がもっとも高く取引される港を船上で確認してから寄港先を決めることが可能になった。その結果、所得を大幅に増加させることができるようになったと伝えられている(注1)。

 こうした事例は、連載の第4回で解説したスティグラーの「価格情報が不完全」な場合の市場の問題とその解決をよく表している。ITによって価格情報のやり取りが容易になり、市場メカニズムが機能しやすくなっているのだ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのダニー教授は、これらの事例を踏まえて、「ITが途上国にもたらした最大の恩恵は『人々による価格の発見』だ」と論評している。

【次ページ】放牧民も利用するモバイル・マネー「M-PESA」

注釈
注1 日本経済新聞(2008,2009)、Quah (2008) 、芝陽一郎(2011)、NHKスペシャル取材班(2011)ほか参照。国連のミレニアム開発目標でアナン事務総長の特別顧問を務めたコロンビア大学のサックス教授は、携帯電話が貧困削減に向けた「最も有効な機器」と評しつつ、2005年の中間報告段階でさえその「可能性に十分気付いていなかった」と懐述しており、2000年代中盤の急速な変化が窺える(読売新聞[2008])。

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