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  • 2013/09/03 掲載

【IT×ブランド戦略<特別寄稿>】電王戦タッグ・マッチが生んだ、将棋界のニューヒーロー(2/2)

「どうして売れるルイ・ヴィトン」の著者が解説

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新たなヒーローの誕生」

 しかしさすがはA級、盤石な指し回しで優位を築き上げ、解説の森内名人からも「これはもう(佐藤四段の)負けですね」という言葉さえ漏れた。(おそらくこの手の対局イベントにおいては例外的だと思うのだが)解説の声は対局者にも聞こえているので、これはかなりキツいひとこまだったのではないだろうか。

 なにしろ、当代の名人に、公衆の面前で「これは負けですね」と言われたのだ。

 しかしそこから佐藤四段、奇跡の粘りを見せ、マイナスながらも食い付き、いつのまにか優位に転じ、勝利を飾ったのだった。しかもコンピュータの指し手に全面的に頼ったわけではなく、要所要所では自身の読み筋を信じた一手を繰り出しての勝利だった。

 ニコニコ動画における、視聴者のコメントが画面上に流れる独特の画面のなか「新たなヒーローの誕生」がそこにはあった。

 本連載の第13回でも触れたとおり、「人間ドラマこそが、人間にとっての最大のコンテンツ」である。これはブランドを生み、育てるときにも変わらない。このような歴史的な一瞬を世間が共有したときに、人々の意識の中で共通のイメージが生まれ、ブランドは強固になる。

 佐藤四段は、意地悪い見方をすれば「人生の敗者」を決定づけられかねなかった環境にあった。その佐藤氏が、汚名を着せられたソフトとタッグを組んで、A級棋士に打ち克った。

 これがドラマでなくて、なんだろうか。

「持ち時間が刻一刻と減っていく中、たった一人自分の力だけを信じて、敗勢濃厚な局面に挑み、これぞという一手を繰り出す。時にそれが、誰しもが気づかないような奇跡的な一着となり、感動の逆転劇を生む。  愛棋家はいつも、その奇跡の瞬間が訪れることを信じて最後の一手まで固唾を飲んで観戦をするものだ。」

 第12回で筆者はこのように書いたわけだが、今回のイベントは、コンピュータを活用しても、そのようなゲームがあり得ることを示すことができたのではないだろうか。

 いやむしろ、コンピュータを活用するからこそ、このようなゲーム展開が生まれたのではないだろうか。

 感想戦によると、「ある読み筋はコンピュータに任せ、そうでない部分は自分が読む」という、まさにコンピュータを使いこなすということができていたことを思わせるコメントもあった。

 一方、阿部四段や三浦九段はある部分で任せてしまったり、迷ったり、どう向き合えばよいのか、どうもやりづらさを抱えての対局だったように見える。

 本連載はもちろん将棋ではなく、「ブランド」がテーマである。将棋とブランドに、なんの関係があるのかと思われるむきもあるかもしれないが、これは第15回の内容に引き継がせていただくが、非常に大切なヒントを与えてくれるのだと、最後に一言申し添えておきたい。

 いま将棋界は、大きな環境変化の波のなかにいる。しかしそのなかでそのブランド世界の「核」が普遍的であれば、乗り越えることができるということを、LOUIS VUITTONをはじめとするあまたのブランドが証明している。(興味を持っていただけた方は、詳しくは、第15回の公開を待たれたい)

 プロ棋士というブランド価値を一言で表現すると「奇跡の瞬間」ではないだろうか。

 インターネットメディアの台頭によって、新聞を中心とする活躍の場が意味を問い直され、ソフトウェアの台頭によって、その才能の意味が問い直されている。

 棋士というブランドは、ある意味ではゼロからの再構築を迫られているのである。

 佐藤四段は、その未来を切り拓くにあたって、新時代の旗手となる属性を備えている。

 きっとニコニコ動画という「新時代の演出の場」がなければうまくその価値を表現するのは難しいと思われるが、ここは腹をくくって、勇気を出して一歩を踏み出していただきたい。

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