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  • 2013/11/06 掲載

日本が誇るフェロー・CTOに学ぶノウハウ定義書 「入り口を構築し、強い自我をもって進む」積水化学工業

積水化学工業 取締役常務執行役員 上ノ山智史氏

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フェロー、CTOの高い業績の背景には、独自の考え方、思考・行動の原則=ノウハウがある。これらのノウハウには、企業の創造力、イノベーション力を高めるパワーがある。そして、日本を元気にするヒントがある。本連載では、フェロー、CTO自身に、自らのノウハウを語っていただく。第9回は、積水化学工業取締役常務執行役員R&Dセンター所長の上ノ山智史氏に聞いた。上ノ山氏は、研究者時代には現在の事業部門を支える製品を開発され、現在は積水化学工業の研究開発全体をリードしている。

アクト・コンサルティング 取締役 野間彰(R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議)

アクト・コンサルティング 取締役 野間彰(R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議)


野間 彰
アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

1958年生まれ。大手コンサルティング会社を経て現職。
製造業、情報サービス産業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新、研究開発戦略に関わるコンサルティングを行っている。主な著書に、『ダイレクトコミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる研究開発革新』(日刊工業新聞社)、『システム提案で勝つための19のポイント』(翔泳社)、『調達革新』(日刊工業新聞社)、『落とし所に落とすプロの力』(リックテレコム)、『団塊世代のノウハウを会社に残す31のステップ』(日刊工業新聞社)、『ATACサイクルで業績を150%伸ばすチーム革命』(ソフトバンク クリエイティブ)などがある。


R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議

Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp/rd_dc.html

「R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議」は、対面型コミュニケーション、ITを用いた遠隔地間の双方向コミュニケーションを活発化させ、研究開発部門の知的生産性を高める活動を推進しています。ダイレクトコミュニケーションは、研究所の、風土改革、オフィース改革、研究所の新設・改造を通じて達成します。

<推進会議メンバー>
株式会社コクヨ、日揮株式会社、株式会社アクト・コンサルティング

これまでの連載


自分に対する強い思いで進む


――住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックスと、幅広い事業領域を支える研究開発をリードしてこられました。研究者の時代には、現在の事業部門を支える製品を開発されてこられました。このようなことを実現するために、日ごろ常に意識して実践してこられたことはあるのでしょうか。

photo
積水化学工業
取締役常務執行役員
上ノ山智史氏
【上ノ山智史氏(以下、上ノ山氏)】
自分に対する強い思い、強い自我を持つことが重要だと思っています。私は、若いとき、まだ研究組織の一員であるときから、この研究所は自分が支えるんだ、という気持ちを持って仕事をしていました。自分に対する強い思いがあって、指示待ちなどありえない。むしろ人から指示されるのは嫌で、問題意識を持ってやりたいことをはっきり決め、それをやらせてもらえるように回りを説得して、研究を進めていました。

――人からの指示は嫌いですか。

【上ノ山氏】
というより嫌々やらされることへの恐怖だと思います。嫌々やっていては良い成果は得られない。競争にまず勝てません。好きこそ物の上手なれという言葉がありますが、正にこの言葉の通り。好きでないと力が出ません。それと負けん気も強かった。大きな成果を上げて、認めてもらおうと思っていました。今もそうです。

 もちろん問題意識がないと自分のやりたいことが提案できないのですが、その問題意識は意外と強い自意識、自我を持って、自分がやるんだと強い気持ちがあればふつふつと沸いてくるものです。

――周りは、やりたいことを認めてくれたんですか。

【上ノ山氏】
やりたいことをやるためには、努力が必要です。例えば人にどう言うか、言い回しや言葉尻まで気をつけました。生意気と思われて反感をかわれては、人を説得できません。自分の意図を通すためにどのように伝えるか、しっかり考えました。姑息な言い方で騙してでもやろうと思っていました。やれればこちらの勝ちです。でも一番大事なことは「信頼感」でしょう。日頃から、あいつが言うんなら任せるか、と言ってもらえるように、粘り強く努力し、真剣に業務に邁進し、自己アピールしていました。そして、絶えずやりたいことをはっきりと言うために、問題意識を持って何を行うべきか、考えていました。

――がむしゃらさが伝わってきますね。そこまで努力してでも、好きなことをやる。そしてやりはじめたらやりぬく。自己意識、自我の強さがエンジンになっているんですね。

【上ノ山氏】
しかし、失敗もありました。また、上の仕事をするようになって、テーマを決めたり評価する立場になった。そこで、強い自我とは別に、入り口の重要性、入り口でちゃんと考え、キチンと作戦を立てることの大事さに気が付くようになりました。

――入り口の重要性とは、どういうことですか。

【上ノ山氏】
失敗をして、その原因分析する。するとその失敗の原因はよ~く考えれば入り口の段階で気づくことができ、初期段階で回避できたり、テーマそのものをやらなかったりできたはずだと分析できるケースが圧倒的に多いと感じるいうことです。それは、技術的な話だけではなく、もっとマクロな視点、意義とか正しさ、スジの良し悪しといったものもあります。たとえば、高機能材料を開発する場合を考えましょう。当社は、競争相手に比較して、ポリマーサイエンスの強さや、それに関わるドクターの数で大手競争相手に勝てない。また、高分子の開発では、昔のように次々と新しい素材が生み出せた時代は終わった。液晶ポリマーを最後に、新しい素材は出ていない。一方で研究者は、新しい素材を何とか生み出せないものかと思いがちです。しかしこれは、研究者のいわば成功に対する阻害要因です。「夢をもう一度」はありえない。じゃあ、どうするか。目的は高機能を実現することです。だったら、新しい素材を作る以外に、現行材料のもっている素晴らしい特徴をコンビネーションしたらどうか。ナノレベルまで分散できる技術を用いて、新しい機能を生み出せないかといった考え方をしてみる。実際この考え方で、フィブロックという耐火材料を作りました。これは、ねずみ花火から発想したもので、火災が発生すると瞬時に数十倍に膨張して断熱層を形成するものです。今では、ある事業部門の主力製品の1つになっています。

――研究者の成功に対する阻害要因とは、何でしょうか。

【上ノ山氏】
研究者は、今やっていることを続ける、やりたいことをやると機嫌がいい。惰性で続けることもある。惰性の場合、理詰めで考えると、必ず論理破綻しています。一旦研究が始まったら止めるのは大変です。入り口、つまりスタート時点では、可能性は360度ある。なのに、理詰めで大局観をもって考えず、思いつきで1つの角度で始めるのは危険です。だから入り口で、原理原則に基づいて理詰めで考える。先ほどの自我との関係で言えば、自我を通す正しいやり方、自分の物語を突き詰めると言ってもいいでしょう。もちろん、技術の全ては分かりませんから、専門家に聞くことも必要です。自分の専門外について相談できる相手を持つことも重要です。

――なるほど。自分の物語とは、自我を通すために周りが文句が言えない、大局観に立った論理的に突き詰められた筋道とも言える訳ですね。ところで、入り口を築く場合、特に重要なことは何でしょうか。

【上ノ山氏】
それは、競争環境です。競争上当社は強いのか。他社は既にやっているのか。それはいわゆるブルーオーシャンなのか。こうやって入り口で考えると、ダメなものは分かる。それは直ぐ止めて、他の方法を考える。筋の悪いものを続けるのは、会社としても、担当する研究者にとっても大きなロスです。しかし、なかなか自分では止められない。だから、これを止めさせるのは、上長の重要な役割でもあります。

――ブルーオーシャンを目指すことは、先ほどの自我と関係がありそうですね。

【上ノ山氏】
そうですね。レッドオーシャンを回避するというより、自我の強さがあって、そもそも他人と同じことをしたくないという気持ちで考えています。

【次ページ】失敗の経験と感受性が必要

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