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  • 2014/01/31 掲載

日本の「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」の動きとその課題

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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政府が3月に立ち上げた「ナショナル・レジリエンス懇談会」以来、国土の「強靱化(レジリエンス(防災・減災))」に対する取り組みが本格化している。11月に政府は「インフラ長寿命化基本計画」を決定。2020年の東京オリンピックをにらみ、12月に発表された「首都直下地震の被害想定」に基づく、東京の湾岸地域の高潮対策や耐震強化といった議論も聞かれるようになってきた。本連載では、ここ数回にわたって、「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス(防災・減災))」をとりあげて解説してきたが、今回は日本政府・官公庁の具体的な動きをまとめ、改めて検証した。

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ代表取締役。各種先端・先進技術、次世代産業、IT活用経営、産学官連携に関するリサーチ&コンサルティング活動に取り組む。クラウド、仮想化プラットフォーム、エンタープライズ・リスクマネジメント/BCP、モバイル・プラットフォーム、情報化投資の各分野において研究およびエヴァンジェリズム活動を展開し、実績を積む。
URL:http://www.x-sophia.com/

首都直下・東京湾岸の防災対策は広域BCPを占う試金石となる

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D氏:前回は、ナショナル・レジリエンスは次世代ICTの多様で多彩な価値を引き出すには格好の出番となること、ICTベンダー、インフラベンダー、ITや建設土木のインテグレータにとって大きなビジネスチャンスとなりうるという切り口でお話しました。日本はもともとICTインフラの厚みと次世代ICTの推進力という点で強みを持っていますので、このアプローチを推し進めれば、必ずや強靭なナショナル・レジリエンスが実現されることになるでしょう。

 しかし、これで安心できるわけではありません。不安な要素はたくさんあります。今後数年もしくは数十年以内には、首都圏直下型や南海トラフなどの地震の発生リスクと対峙することとなります。

 中央防災会議の専門委員を務める河田恵昭関西大教授は、30年以内に70%の確率で発生すると言われていわれている首都直下地震(東京湾北部地震)について、最大震度を7、死者数については4.8万人程度と試算しています(内閣府防災情報ページが2013年12月に発表した発表資料参照)。

注記:中央防災会議
中央防災会議は2005年の段階で、首都直下型地震について、発生場所別にマグニチュード7級の18モデルを提示していたが、2013年12月、最新の知見を盛り込み、首都機能への影響が最も大きい都心南部地震など19モデルへ分類を改めている。

同会議が2013年12月19日発表した首都直下地震の被害想定で、今後30年間、M7級は70%の発生確率、としたのは本文中で触れたとおり。内閣府では、官邸の建物自体を含むインフラやハード面での心配よりも、災害を想定した「業務継続計画」は各府省庁が個別に定めていることに懸念を示し、「中枢機能に障害が発生すれば国全体に支障が生じる」として、政府の統一的な計画策定などソフト面の充実を報告書に提示している。また、同会議は報告書で、企業の中枢・生産拠点が集中し、人口過密にある首都直下での大地震による経済への打撃について、以下の項目を挙げてその深刻さを指摘している。

  1. 工場被災や交通・物流網停滞で生産が落ち込む。
  2. 株式・為替市場が動揺する。
  3. 現金自動受払機(ATM)一時停止や日用品不足で混乱が広がる。
  4. 経済被害額(試算)は日本の年間予算並みの95兆3000億円に。
  5. 中期的には災害リスクを嫌気した国内企業の海外移転や外資の撤退が起きる恐れがある。

 首都直下と東京湾岸の防災と機能の維持は、我が国全体の防災と同時に、産業界全体のBCPに対する取り組みを占う試金石となりますが、現状では予断を許さない厳しい状況にあるといわざるをえません。

 それに輪をかけて、程なく、国内の主要インフラの半分以上が築後50年以上の老朽施設となってしまいます。しかも、インフラの仕組みが多様化し、その維持・保守点検コストも否応なしに増加していますので、適切で十分な修繕を賄うためには膨大な予算を確保しなければなりません。

 しかし、ただでさえ莫大な国債・負債を抱えて財政が逼迫している現下において、より効果的な地域防災・広域BCPを推進するために、果たしてどのような方策がありうるのか、国民的論議を喚起すべき事態にあることを、もっとしっかり認識すべきと思います。

 加えて、もう一つ重大なリスク要因を指摘しなければなりません。

 これまで、防災基本計画は内閣府、建設・運輸などの国土形成領域は国土交通省、エネルギーは資源エネルギー庁、食糧危機管理は農林水産省、地域グリーンニューディールは環境省という縦割の構図で主管が区分されてきました。そして、それぞれが独立的に扱われてきました。

 こうしたことから、政府でも最近、危機認識に立ち、ようやく重い腰をあげはじめているようで、2013年の11月に、道路や橋など公共インフラの維持・管理の基本指針となる「インフラ長寿命化基本計画」が決定しました。

 この計画は、ロボットやセンサー技術など先進ITを活用することで点検の精度を高めたり、メンテナンス産業の市場の創出・拡大を意図しているようですが、同時に補修の対象を絞ることでコストを低く抑え、中長期的コストの見通しを示す行動計画を整えることが主な目的といわれています。

 安倍政権になって、省を横断して長期的、広域的な観点から論議・計画を進める動きが見られますが、これらを全体を仕切ることは容易なことではありません。しかし、縦割りの構造を横断し、俯瞰した視点でナショナル・レジリエンスを検討することは、地域防災・広域BCPを検討するうえで、きわめて重要な課題となるでしょう。

聴講者A:首都直下と東京湾岸の防災と機能の維持に関連して質問です。首都圏と周辺には工場も集積していますし、生産ラインやサプライチェーンの停止による直接・間接の影響についてはどのようにお考えですか?また、現状ではどのような対策がなされているのでしょうか。

D氏:現状では、地域防災・広域BCP、産業界、企業グループ別それぞれが別個に対策を検討されています。相互の連携なり、リスクが顕在化したときの緊急処置について早急に検討すべきと考えています。

 企業では、東日本大震災の経験を踏まえ、大手メーカーなどは海外工場で同じ部品を生産できるよう、体制の再構築を急いでいるようです。たとえば半導体大手のルネサスエレクトロニクスなどは調達ルートの複線化を精力的に進めているようです。また、日産自動車は、神奈川県横須賀市にある追浜工場が被災想定地域に指定されていますが、地震後2週間での生産再開を目標に事業継続計画を立てています。

 ただ、サプライチェーンはどこか一カ所でも途切れると生産ラインに大きく影響します。自動車製造の場合、1台作るのに2万点以上の部品が必要とされていますので、調達ルートの複線化が想定したとおりに機能するかは注意してみていく必要があるでしょう。

 それとともに私が懸念しているのは、東京湾には石油コンビナートが集積している点です。この地域が被災した場合、工業品原料に使われる石油化学製品の生産が止まる事態は想定しておかなければなりません。これは、産業界全体に甚大な影響を及ぼすでしょう。この点は、関東の首長も認識しており、2013年5月に埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市の9都県市が、「石油コンビナート等民間企業の減災対策」に係る国への提案を実施していることからも、その危機感がみてとれるでしょう。

【次ページ】ナショナル・レジリエンス懇談会とは?

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