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  • 2014/02/12 掲載

日本が誇るフェロー・CTOに学ぶノウハウ定義書 「世界No.1の達成と価値共創」日本電気

日本電気 執行役員中央研究所担当 江村克己氏

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フェロー、CTOの高い業績の背景には、独自の考え方、思考・行動の原則=ノウハウがある。これらのノウハウには、企業の創造力、イノベーション力を高めるパワーがある。そして、日本を元気にするヒントがある。本連載では、フェロー、CTO自身に、自らのノウハウを語っていただく。第10回は、日本電気 執行役員中央研究所担当 江村克己氏に聞いた。江村氏は、若い時期から世界No.1の技術開発を成功させ、その後巨大企業の研究開発を率いてきた。現在は、「価値共創研究所」を掲げて、研究開発部門の更なる強化を進めている。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『正しい質問』アマゾン、『イノベーションのリアル』ビジネス+IT、『ダイレクト・コミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる 研究開発革新』日刊工業新聞、等

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

これまでの連載


世界No.1にこだわる


――研究者時代から高い業績を上げてこられました。そして研究開発のトップとして、研究所の改革のリーダーシップを発揮しておられます。このような高いパフォーマンスを達成する背景には、どのようなノウハウ、こだわりがあるのでしょうか。

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日本電気
執行役員中央研究所担当
江村克己氏
【江村克己氏(以下、江村氏)】
若いときから、世界でNo.1になることにはこだわってきました。私が学生時代からやっていた研究はコヒーレント光通信という、当時は新しい分野でした。この技術で伝送距離を伸ばすことができるのですが、入社2年目で、無中継で300kmを達成しました。国際学会で最新データを競う学会ハイライトの場で、発表順位が1番になりました。これはNo.1に認められたという意味です。やっていた技術が新しかった。当時の上長のターゲットの与え方や動機付けが良かったなどの背景があったからですが、世界No.1になれたことは単純にうれしかった。

 そして、No.1になると、いろいろなメリットがあることもわかりました。学会の後でベル研究所を訪れたのですが、そこではその領域で著名なシニアな研究者ともギブアンドテイクの議論ができました。良いデータが出せたからですが、相手も若かった自分を一人前として扱ってくれました。これは大変良い刺激になりました。以降、国際学会でのNo.1を目指し、何度か達成することができました。

――世界No.1になることで得られるものは、大きそうですね。

【江村氏】
そうです。昔、企業が垂直統合している成長期には、競争相手が新しいものを出したら当社も出すということで、技術のデパートでした。しかし今はオープンな時代です。強いものを持っていないと、社内でも使ってくれない。他社とのコラボレーションを進める中で、リーダーシップが取れない。No.1の技術が無ければ、他社から声がかからない。一方で、世界No.1を持っていれば、人も来る。強い連携もできる。課題もわかる。昔、学会で世界No.1の発表の後、発表を聞いた大学の先生が当社にしばらく滞在したいと言われ、しばらく共同で研究をしました。そこで、当社で実践できていた技術の理論立てをその先生が作り、共同で発表したことがありました。色々な意味で、世界No.1があればセンターオブエクセレンスが実現できます。私は研究所の中では、「ピカピカになるしかない」と言っています。

――しかし、世界No.1になることは大変なことですよね。いったいどうすれば達成できるのでしょうか。

【江村氏】
まず、本人の意志の問題があります。本人が、何が何でも実現したいこと。強い意志や夢が無ければ、世界No.1の実現は難しいと思います。もちろん素養の問題もあります。たとえばデータ解析分野でNo.1になるなら、数学の素養。そこで尖がった人が必要です。これは、採用側の問題です。

――世界No.1になるために、他に重要なことは何でしょうか。

【江村氏】
ターゲットをしっかり設定すること。動機付けも重要です。先の300kmのターゲットは、当時限界と言われていた距離を越えたものですが、300km無中継だと、世界中にある島という島のかなりの部分を中継無しで繋げられる。これは経済価値も大きい。当時の上長に、そういって方向付けられました。そこで、ターゲット達成のために必死になりました。いろいろな工夫もやりましたが、300kmに挑戦したからこそわかったこともあった。限界に挑戦させるターゲット設定と動機付けは、マネージャーの重要な役割です。

――ご自身は、マネージャーになられてから、どのようなターゲット設定をされたのでしょう。

【江村氏】
光波長多重通信で、競争相手が1テラビットを達成したことがありました。顧客からは当社はそれができない、イコール当社に技術が無い、などと言われ、営業からも文句を言われました。これは絶対に負けられない。しかし、競争相手が1テラビットだからこっちは2テラビットでは、競争相手も研究を進めますので勝てるかどうかわからない。そこで、限界までやる、という方針としました。結果、半年後に2.6テラビットを発表できました。ここでもいろいろな工夫をしましたが、限界に挑戦したからこそ発見できた新しい現象もありました。ここから、ブレークスルーのキッカケを得ることができました。

――限界と言われているのは現在の知識の上でのことですから、限界に挑戦して新しい知識が生み出されれば、限界は限界でなくなるわけですね。世界No.1になるために、他に重要なことはありますか。

【江村氏】
領域を絞ることです。ここでは絶対負けないというセグメントまで絞れば、世界No.1になれる可能性は高まる。ただし、どこに絞るかが重要です。まず、グローバルに見て、注目に値する市場規模が無ければ、だれも相手にしてくれません。それと、自社の技術の系譜を考えなければなりません。自社が強い領域は、長年必要なものを貯めてきた。無形のノウハウもあります。光通信の場合、当社は世界で最初に実用化に成功しています。社内に多くの蓄積があった。自分自身の研究でも、これが大変役立ちました。

――なるほど。過去の蓄積は世界No.1の後ろ盾になりますね。

【江村氏】
そして、世界No.1になるもう一つの重要なことは、何の研究を何のためにやるか、最初の段階で徹底的に知恵出しすることです。たとえば顧客は、やりたいことをいろいろと言われるでしょう。しかし本当にやりたいことは何か、突き詰めると軸は1つに絞られます。それはたとえば、コストを1/10にすることなどです。軸を突き詰めず、あれもこれもやる、あっちでもこっちでも使える、となると、焦点が定まらず、力を集中させることができません。また、これが逃げ道になってしまいます。 現在当社では、「価値共創研究所」を目指して、顧客など外の有識者と共に知恵出しを進めています。

【次ページ】V字型人間が求められる

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