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  • 2014/05/01 掲載

株式会社設立の手続とは──株式会社の定款は何故重要なのか

法律がわかる起業物語:第3話

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「会社」は、法律によるさまざまな規律が張り巡らされた、複雑な、そして極めて人工的な存在だ。この連載では、飲食業やサービス業、ITベンチャーなどの起業者から、同族会社などの経営者まで、いわゆる「大企業」とは少し違う、小さいけど小回りが利く、そんな会社の経営を考えている人や、現に経営を行っている人向けに、「会社」を巡るさまざまな法律問題を、小説形式で解説する。第3回は、株式会社設立の手続や、そのために必要な「定款」や登記の概要について解説する。

弁護士 河瀬 季

弁護士 河瀬 季

東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年からIT関連フリーランスとして、SBクリエイティブ社の雑誌への寄稿、書籍の全編執筆などの執筆活動や、各種ウェブサービスの開発等を行う。司法試験合格後は弁護士として、ITとビジネスに強いコスモポリタン法律事務所(東京・音羽)に所属。自らも、複数のIT企業の顧問弁護士などとして、新興企業支援や知的財産権管理、資金調達などを含む、各種の企業法務に携わっている。
個人サイト:http://tokikawase.info/
Twitter:http://twitter.com/tokikawase

連載バックナンバー

■登場人物紹介
●神田友信
大手電機会社勤務の32歳独身。理系の大学を出て勤続10年、営業マン一筋でやってきたが、世界を変えるような商品を世の中に送り出したいと起業を決意。法律のことはよく分からないが、うまく会社を経営できるだろうか?
●新堂由起子
友信と同期入社な同僚で法務部の叩き上げ。31歳。好きな食べ物はザッハトルテ。友信とは入社の頃から細く長く友人関係を続けており、起業の相談にも乗ってくれる。不思議と高い店によく行っているようだが…?
■前回のあらすじ
かつて発明家を夢見ていた営業マンの友信は、電車の中で見かけた女子中学生が持っていた自作の栞に衝撃を受け、その栞を製品化して世に送り出したい!……と、本気で起業を考え始めた。そしてある日の会社帰り、同期入社で法務部員の友人、由起子に株式会社のシステムなどをレクチャーして貰うこともできた。会社を設立して独立するまで、もう少しだ。

会社設立の手続と知的財産権関係の手続

「まずは、その中学生にもう一度会うことね」

 バーを出たときにはもう夜も更け始めていた。静かな裏通りを交差点へと歩きながら、由紀子は言った。

「友信君の会社の場合は、知的財産権関係の手続きをしなくちゃいけないから」

「知的財産権?」

「商標と特許ね。商標というのは、会社名とか商品名とか。既に他の人が登録していて使えないかもしれないから。前もって調べておいた方が安心でしょ」

「なるほど。特許は、栞の発明のこと?」

「そう。大事なのはね、商標も特許も、基本的に早い者勝ちなの。先に申し込んだ人が勝ち。だから、『まずは会社を作ってから』とか言ってると、手遅れになる可能性があるわよ」

「そっか。あの子を探さないとなあ……」

「その間に、しなくちゃいけないことは他にもあるのよ。まあ、それはあとでメールしてあげる」

 表通りで捕まえたタクシーに乗り込みながら、由紀子は友信を振り返る。

「私が相談に乗ってあげてるんだからね、頑張んなさいよ」

「ありがとう、色々」

 最後に由紀子はこう尋ねた。

「そういえば、会社の名前って、決まってるの?」

会社設立の手続とは

 アパートの部屋に帰って、友信は由紀子との会話を思い出しながら、教わったことをノートにまとめていた。

 最後に、ペンをとり、表紙の真ん中に書く。

「シオリヤ」。

 これが、友信の会社の名前になるのだ。

 女子中学生を見かけて以来何日か考え続けて、つい昨日決めたばかりの社名。当分は栞を売る予定だし、その後も、出発点が栞だったことは変わらない。あの子のおでこに貼り付いた、あの栞。友信にとってきっと転換点になる、あの出会いのことだ。シオリヤ。

「なかなか、いい名前じゃないか?」

 自分で呟いてみる。科学者の夢を持っていた中学生の頃のように、胸が高鳴ってくるようだった。



 それから何日かに分けて、由紀子はメールをくれた。

〈会社設立の手続きは、大きく三つ〉

 というのが、一通目の書き出し。

〈まずは、定款を作る。そして登記を行う。それから昨日も言った、知的財産権関係の手続きね〉

定款作成から会社の成立まで

 まず作らなければいけないのは、「定款」だ。その会社はなんという名前(商号)で、どんなことをする会社で……といった情報を記載する。そして定款作成後、株式を発行し、代わりにお金の払い込み(出資)を行うのだ。

 会社は人造人間であり、人造人間を作ることの一つの意味は、「個人の財布」と別に「人造人間の財布」を作ること(詳しくは第1回を参照)。お金の払い込みとは、つまり、自分の財布に入っていたお金を「人造人間の財布」に移すことである。払い込みが終わったら、次に登記の申請を行い、登記が行われると会社が成立する。会社という「人造人間」がこの世に登場するのである。

会社の「所有者」と「経営者」

 金曜日の朝。友信の乗る路線はいつも満員に近いが、この日は運良く座ることができた。電車に揺られながら、友信は由紀子からのメールを復習しようと携帯を取り出した。

〈一連の手続きを行う上での重要なポイントは、結局のところ、二つ〉

 と由紀子は二通目のメールに書いていた。

 まずは、「所有者と経営者を誰にするか」である。(1)会社設立後に株主になる人(所有者)と(2)取締役になる人(経営者)だ。定款には(1)株主になる人を記載する必要があり、また後述するように、(2)取締役も記載しておく方が望ましい。

 たしかに、と友信は思う。たしかに、「所有と経営の分離」という考え方は、どこか不自然だ(詳しくは第2回を参照)。

 もし完全に自分一人のお金と力で事業を行うのであれば、所有者も経営者も友信一人だ。この場合には、「分離」自体が発生しない。しかし友信の周りには、栞を発明した女子中学生や、法律面のアドバイスに乗ってくれる由起子、それにひょっとしたら株を買ってくれるかもしれない井上などがいる。

 由起子は、いくつかのパターンについて説明してくれていた。

【次ページ】 (1)女子中学生にも株をあげるパターン

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