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  • 2014/07/04 掲載

ビジネスマンが知るべき契約と契約書の基本──契約書は「何を」定めるものなのか

法律がわかる起業物語:第5話

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「会社」は、法律による様々な規律が張り巡らされた、複雑な、そして極めて人工的な存在だ。この連載では、飲食業やサービス業、ITベンチャーなどの起業者から、同族会社などの経営者まで、いわゆる「大企業」とは少し違う、小さいけど小回りが利く、そんな会社の経営を考えている人や、現に経営を行っている人向けに、「会社」を巡る様々な法律問題を、小説形式で解説する。第5回は、契約書を自社側で作成する時、相手企業が作成した契約書をチェックする時に知っておくべき、契約や契約書の基本について。

弁護士 河瀬 季

弁護士 河瀬 季

東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年からIT関連フリーランスとして、SBクリエイティブ社の雑誌への寄稿、書籍の全編執筆などの執筆活動や、各種ウェブサービスの開発等を行う。司法試験合格後は弁護士として、ITとビジネスに強いコスモポリタン法律事務所(東京・音羽)に所属。自らも、複数のIT企業の顧問弁護士などとして、新興企業支援や知的財産権管理、資金調達などを含む、各種の企業法務に携わっている。
個人サイト:http://tokikawase.info/
Twitter:http://twitter.com/tokikawase

連載バックナンバー
■登場人物紹介
神田友信
大手電機会社勤務の32歳独身。理系の大学を出て勤続10年、営業マン一筋でやってきたが、世界を変えるような商品を世の中に送り出したいと起業を決意。法律のことはよく分からないが、うまく会社を経営できるだろうか?
新堂由起子
友信と同期入社な同僚で法務部の叩き上げ。31歳。好きな食べ物はザッハトルテ。友信とは入社の頃から細く長く友人関係を続けており、起業の相談にも乗ってくれる。不思議と高い店によく行っているようだが……?
女子中学生
友信が電車の中で出会った、発明が得意な謎の女子中学生。読書を趣味にしているようだ。「本を読んでいる間はおでこに貼っておける栞」という発明を、友信の会社で製品化することに同意してくれた。他にもまだ発明があるようだが……?
■前回のあらすじ
かつて発明家を夢見ていた営業マンの友信は、電車の中で見かけた女子中学生が持っていた自作の栞に衝撃を受け、その栞を製品化して世に送り出したい!……と、本気で起業を考え始めた。同期入社で法務部員の友人、由起子の助けで起業の道筋も見えてきた。そしてある日、女子中学生と再会し、ついに栞の製品化の許諾も得ることができた。

企業活動における重要な合意には「契約」が必要不可欠

 それじゃあ、と言って女子中学生はメモ用紙を取り出した。

「月曜の放課後に、待ってます。待ち合わせは、ここで」

 メモに書いて渡してきたのは、「カフェ・ブン・グーン」という名前。随分可愛らしい名前だ。この沿線にあるカフェだという。

「場所は自分で調べるよ」

「はい。本当は、学校の近くの方が、いいお店はあるんですけど……」

「けど?」

「発明なんかしてるって、私、学校のみんなには秘密なんです!」

 きゃー、と両頬を手で挟んでみせるのに、友信は苦笑した。

 月曜日、栞以外の発明を見せてもらう約束を、二人は交わした。明後日である。一日でも早く見たい、という気持ちがあって、しかし実は友信には、準備しなければならないこともあった。その着地点だ。そんな友信の内心の葛藤など素知らぬふりで、女子中学生はけろっとして「いつでもいいですよー」と言っていた。

「製品化ってすごいなぁ。契約書にサインするのとかって面白そうです」

「はは、了解」

「楽しみにしてますからね!」

 友信が、受け取ったメモ書きをノートに挟んで仕舞ったところで、放送が流れた。

「電車、来るみたいですよ」

 女子中学生が立ち上がって、待合室を出る。ホームに滑りこんできた電車は、友信の帰りの方面だ。ぷしゅーっと気の抜けたような音がして、ドアが開く。

 なんだか、電車に乗り込むのが、名残惜しいような気持ちがした。思わず女子中学生を振り返る。彼女は「ん?」と小首を傾げ、合点したようにぱちぱちと瞬きすると、屈託のない笑顔で手を振ってみせた。友信も苦笑して、手を振り返す。電車がガラガラでよかった。

「契約書」を自分で作るにはどうすれば?

 そして、そういえば、と思い出す。

「君」

「はい?」

「名前、聞いてなかったね」

 女子中学生は真顔に戻って、友信をまっすぐに見る。

「でしたね。私、玉井真琴です。よろしくお願いします」

そして、勢い良くぺこりとお辞儀した。頭の後ろで小さく2つに結わえた髪が、鳥のしっぽのようにぴょんと揺れた。

「あ、神田友信です。こちらこそよろしくお願いします」

 友信も慌てて礼を返す。言い終えるあたりで、下げた頭をかするように、電車のドアが閉まった。

 顔を上げる。発車した電車のドアのガラス越しに、真琴がまた手を振っているのが見えた。

 その姿が横に流れて見えなくなった……と同時に、友信は急いでカバンから携帯を取り出し、メールを打った。送り先は、もちろん由起子だ。

<女子中学生を見つけた! 発明使わせて貰えることになったんだけど、月曜までに契約書を作らなきゃ。助けて!>

発明を企業が利用するためのスキーム

 メールで由起子と話し合った結果、真琴の発明を友信の会社「シオリヤ」が利用するため、大まかに以下のような手順を取ることになった。

1. 真琴は発明を「特許」にすべく特許出願を行う
2. 友信は、自分の貯金を出資して会社「シオリヤ」の設立を行う
3. 真琴は、特許登録が行われるまでの間、シオリヤが発明を利用するためのライセンスを与える
4. 真琴は、特許登録が行われたら、その特許権を「シオリヤ」に渡すことを約束する
5. 3,4の代わりに、友信は「シオリヤ」設立直後、自分が持っている「シオリヤ」株の一部を真琴に渡す

 3は少し分かりにくいが、「補償金」という制度との関係だ。

 特許権は、特許出願を行って審査を受け、登録を受けることで成立する。特許権が成立した後であれば、権利者は他の人に対して「自分の発明をパクるな(パクったら損害賠償を請求する)」と求めることができる。しかし、成立前にはまだこの請求を行うことができない。

photo

 そこで出てくるのが「補償金」という制度だ。特許出願を行うと、少し後に「出願公開」が行われる。「出願公開」の後であれば、出願者(後に特許権者となる人)は他の人に対して「自分の発明をパクったら、特許登録後に『補償金』を請求する」と求めることができる。3は、「真琴は他の人に対して『補償金』を請求できるけど、シオリヤに対しては請求しない」というような意味だ。

【次ページ】 法律家は契約書をどのようにチェックするのか

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