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  • 2014/09/11 掲載

“すき家問題”を考える 「失敗の本質」から日本社会は何を学んだのか(後編)

連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(15)

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企業が掲げる困難な目標を達成させるためには、時として非合理的で戦略性が欠如した精神論が幅をきかせてしまう――。今回は、大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直した名著「失敗の本質」と「ワンオペ」問題で世間の注目を集めた「すき家」の運営企業、ゼンショーの労働環境改善に関する報告書を読み解き、なぜ非合理的な組織運用が発生してしまうのかを考えたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

前編はこちら。

「売上を上げるということが第一義的命題となった組織」の宿命

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「すき家」調査報告書から読み解く非合理的な組織運用。その解決策はあるか?
 ゼンショーホールディングスの件は、特殊な話ではなくて、日本中のありふれた組織においてもよくある話であるように感じられる。ここで少し、もう少し一般化するために、喩え話で考えてみたい。

 「売上を上げるということが第一義的命題となった組織」の話を考える。

 「品質を上げる」だとか「製造リードタイムを短縮する」「調達コストを下げる」「意思決定をスピードアップする」など、企業が解決しなければならない課題は、無数にある。

 しかし例えば「スタートアップに相応しいペースで、何としてでも四半期毎に売上を倍増させたい」といったように、企業においては、ある特別な状況下において、他の何を置いてでも、まずは売上を作るべしということが第一優先となることがある。

 前向きな状況であればまだしも、「何が何でも赤字の危機を回避しないと、銀行や株主から追加の資金を調達できない」「目標を達成しないと、新規事業が立ちゆかず、膨大な先行投資が無駄になる」といった、苦しい話も世の中には存在する。

 とにかく目の前の成果が上がらなければ、未来はない。しかし、販売し、売上を上げるという行為は、自社の意思だけで実現できるものではない。当然のことながら、顧客から認知され、信頼され、価値を認められて初めて成立するものである。

 財政的な危機や、株主の圧力といったのっぴきならない状況に追い込まれるということは、それまでの経営の結果である。自分の都合で、売上をあげることが第一優先となったからって、そうそう簡単に急に売上が上がるのであれば、誰も苦労しない。

 こういうときに、「売上を上げるということが第一義的経営課題となった組織」は、悠長なことは言っていられない。しかし、ただ頭ごなしに、「絶対に成果の上がる方法を考え出して、とにかくいますぐ実行し、結果を出せ」との要求を現場に突きつける以外に方法はない大本営は、悲しい。

単純素朴な大本営の頭のなか、現場の厭戦気分

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 とある企業の実話であるが、経営的に苦しい状況に至ったある時、ここぞとばかりに繰り出されたキャンペーンが「必ず見積の金額に10%を上乗せしよう」という、というちょっと笑ってしまうような施策であった。しかも経営陣が直々に新たな担当者を置いて、個別案件の提示価格をチェックするという念の入れようであった。

 頭のなかだけで考えると、一瞬、それをやれば確実に10%アップの成果が実現できるかもしれない。しかし悲しいかな、それによって引き合いの件数自体が減ってしまうという可能性というものを、当時の経営陣は、考えもしなかった。

 このキャンペーンによって起きたのは、見積提示における精度の悪化と営業アクションのスピード減退である。そもそも、数少ない競合が常にバッティングする業界特性だったということもあり、提示価格の上昇が即、失注につながり、売上アップどころか、大きなマイナスの結果となってしまった。

 そのキャンペーンが発令された時点で、現場にはその結果がある程度予想されていた。そんな単純なことでなんとかなると考える経営陣のスタンスにガッカリした、という雰囲気もあった。どちらかと言えば、失敗につながることを待ち望む空気すらあった。

 例えば、「対前年比で毎年着実に、売上を10%ずつ積み増したい」とはそんなに珍しい営業目標ではない。もちろん、景気や顧客の経営状況、競合状況等、様々な要因の影響を受けるものではあるが、基本的には自助努力の範疇で達成可能な目標だと言えるだろう。問題は、どのような形で、具体的に対策を練って、施策を実行するかである。

 短期的なものもあれば、長期的に取り組むべきこともある。真っ当に考えれば、自ずと正しいアプローチ手法も見えてこようというものだが、売上を上げるということが第一義的命題となった組織は、なかなかそのように冷静ではいられない。「とにかく、何はなくとも今が勝負のとき。当面は売上だけのことを第一優先に考えるべし」の一本槍である。

 結局のところ、そのキャンペーンは現場の厭戦気分を醸成させて、自らの瓦解を招いて終了してしまっただけだった。

【次ページ】イノベーションの鍵はどこにあるのか?

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