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  • 2014/10/07 掲載

弁護士業界の革命児・元榮 太一郎氏はなぜ弁護士ドットコムを発想できたのか?

弁護士ドットコム社長 元榮 太一郎(もとえ たいちろう)氏インタビュー(前編)

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「一見さんお断り」が当たり前だった弁護士業界に、革命を起こしたWebサービス『弁護士ドットコム』。最近は、9月9日にリニューアルオープンした『弁護士ドットコムニュース』もメディアとしての存在感を高めており、その成長は止まるところを知らない。弁護士ドットコムの代表取締役社長 兼 CEOであり、弁護士法人法律事務所オーセンスの代表弁護士でもある元榮 太一郎(もとえ たいちろう)氏は、どのようにして弁護士ドットコムを立ち上げ、現在の規模まで成長させたのか、お話を伺った。

弁護士 河瀬 季

弁護士 河瀬 季

東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年からIT関連フリーランスとして、SBクリエイティブ社の雑誌への寄稿、書籍の全編執筆などの執筆活動や、各種ウェブサービスの開発等を行う。司法試験合格後は弁護士として、ITとビジネスに強いコスモポリタン法律事務所(東京・音羽)に所属。自らも、複数のIT企業の顧問弁護士などとして、新興企業支援や知的財産権管理、資金調達などを含む、各種の企業法務に携わっている。
個人サイト:http://tokikawase.info/
Twitter:http://twitter.com/tokikawase

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弁護士ドットコム 代表取締役社長 兼 CEO
弁護士法人法律事務所オーセンス 代表弁護士
元榮 太一郎氏

元榮氏にとっての「弁護士」とは?

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──まずは、元榮さんが弁護士を目指されたきっかけについて教えてください。

 元榮 太一郎氏(以下、元榮氏)■高校生の頃、大学受験の学部選定のときに、自由や自分らしさを好む性格から、「おそらく会社員にはなれないな」と考えたことが最初のきっかけです。それまでの人生をのびのびと生きてきたもので……。生まれはアメリカで、中学の頃はドイツで過ごして、まだ両親が向こうにいるにも関わらず高校1年生で単身、日本に戻ってきて一人暮らしをして、という。

 そういう生い立ちもあって、自由業が向いているだろうなと思いました。ただ、恥ずかしながら血が苦手で採血をすると倒れるタイプなので、医者は無理だなと(笑)。ちょうどその頃、高嶋政伸さんが主演の『都会の森』というドラマをやっていまして、若手の熱血弁護士がいろんな逆境を解決していくというその生き様に、「弁護士はカッコいい職業だな」と思いました。その印象がきっかけで大学では法学部に進むことを決意しましたが、この時点ではまだ、「弁護士」というのは抽象的な目標でしたね。

──抽象的な目標が具体的になったのは、何か決定的なきっかけがあったのでしょうか?

 元榮氏■決定的に弁護士を目指そうと思ったのは、大学2年生のときです。車を買ったのですが、任意保険に入るかどうか躊躇していたところ、購入後わずか2週間で事故を起こしてしまったのです。

 ごくごく普通のサラリーマン家庭なのですが、住んでいた神奈川県藤沢市が車社会だったため、無理をして中古車をアルバイトの分割払いで購入し、しかしさらに出費がふくらむ任意保険に入るのは躊躇してしまった、そんな折の事故……という感じでした。相手はある信用金庫の副支店長を乗せた社用車。私が縦列駐車で車道に出ようとしたところ、私の車の右バンパーと相手の車の前方・後方ドアがぶつかってしまったのです。

 当時、法学部生とはいえ法律の勉強はまだまだで、当然ながら交通事故の実務はまったく知らなかったのですが、常識的に考えて「自分の方が悪いな」と思いました。しかも、こちらは任意保険に入っておらず、一方で相手は当然入っている。そして、保険会社の示談交渉担当でベテランが出てくる。弱冠二十歳の私が交渉できる状況ではありませんでした。過失割合も、向こうはもう「100:0だ」と。

──それは、なかなか大変な経験ですね……。

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 元榮氏■はい。そんなとき、見かねた母親が、「弁護士会の法律相談に行くと、弁護士に相談できるらしいよ」とアドバイスをくれたのです。そういった窓口があること自体、当時の私は知りませんでした。相談したところ、弁護士の先生にたちまち問題点を見抜いていただいたのです。「確かにあなたは悪い。しかし、あなたは100悪いわけではなく、70悪い。向こうも30悪くて、前方不注意という義務違反をしている」と。

 交通事故というのは日常的に起こる出来事だから、パターンが類型化されているんだと、そのときに初めて教わりました。そして、そのアドバイスを相手の示談交渉担当におそるおそる伝えたところ、あっさり70対30で解決したのです。

 「こんなに人が困っているときに力になれる弁護士の仕事ってすごいな」と感動しました。人の助けになれる弁護士という仕事を一生の仕事にしたい。絶対に弁護士になるぞ、と確信しまして、司法試験を志し始めたのです。

 ただ一方で、母親のアドバイスがなければ「弁護士の先生にアドバイスをいただこう」という発想自体がありませんでした。交通事故を起こす人は世の中にたくさんいるのに、弁護士という職業がどういうときに役に立てるのか、役に立てることがわかったとして、どこにいけば相談できるのか、費用はいくらかかるのか──分からないことばかりでした。「弁護士がもっと身近な存在になれば良いのにな」とも、そのとき感じたのです。

──それが、元榮さんが弁護士になり、そして弁護士ドットコムを作られる原体験になったのですね。

新興上場企業による買収劇を手がけたことで「事業家」という生き方を知る

──司法試験に合格して弁護士になり、独立して起業する……ということは、最初から決めていたことだったのですか?

 元榮氏■いえ、当初は独立志向はまったくなかったのです。そもそも、当時は法学部に弁護士実務家教員はほとんどおらず、司法試験の合格率も2%。合格した後の具体的なイメージを持てないのです。ドラマや映画の弁護士さんのイメージを理想に持ちつつも、「どういう弁護士になるかは、司法試験に受かってから考えれば良い」という感じですね。その後のいわゆる司法制度改革で、今はロースクールが法曹養成機関と位置づけられており、現役弁護士が実務家教員として実務を教えたりしていますから、ある程度状況は変わっていると思うのですが。

 当時は、司法試験に合格した後で、突然ぱぁっと、弁護士の具体的なイメージが飛び込んでくるのです。その中の一つがビジネスロイヤー、国際弁護士と言われるような仕事でした。私はアメリカで生まれてドイツで育ったのですが、アメリカは4歳で帰って来ましたし、ドイツでは日本人学校に通っていたため、英語はネイティブではなかったのです。ルーツがアメリカにあることもあって、「いつか英語を使って仕事をしたい」という思いもあったのです。ビジネスロイヤーなら、留学もできるし、外資系の企業を相手に英語を使ったコミュニケーションもできるし、新聞を飾るようなスケールの大きい案件にも携われる。ダイナミズムを感じました。

──元榮さんは、弁護士になられた後、最初はアンダーソン・毛利・友常法律事務所……いわゆる「四大法律事務所」の1つであり、企業法務を中心とするエリート事務所に所属されていたのですよね。当時はどのようなお仕事が中心だったのですか?

 元榮氏■M&Aや、不動産の流動化というファイナンス分野や、国際取引の分野です。大企業法務のみでした。本当に、当時は独立なんて一切考えていなかったのです。アメリカでニューヨーク州弁護士の資格を取ってアンダーソン・毛利・友常法律事務所に戻り、パートナー(事務所の共同経営者)を目指す、というのが当時の目標でした。

 ただ、弁護士ドットコムを作るに至る1つのきっかけが、アンダーソン・毛利・友常法律事務所で手がけた、新興上場企業による証券会社の買収の案件でした。その上場企業が数百億円を資金調達して次々と企業買収を行っていた時期です。ビジョンを実現するために果敢に事業展開を進める新興企業の勢いを、そのときに初めて目の当たりにしたのです。30歳を目前にして、一度きりの人生だから、「事業家」という生き方も面白いんじゃないかと感じました。

 アンダーソン・毛利・友常法律事務所には、入所4年~5年目前後に留学に行くというシステムがあるのです。その留学のタイミングが近づいていたため、この機会に、アメリカのロースクールに行くのではなく、MBAを取得するのも良いのではないか……などと考えました。経営者の方が書かれた本などを読みふけりましたね。孫正義さんの「時代は追ってはならない。読んで、仕掛けて、待たねばならない」という格言にも影響を受けました。そうしているうちに、2004年に弁護士ドットコムを思いついた、という経緯です。

【次ページ】 元榮さんが弁護士ドットコムを発想したきっかけとは?

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