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  • 2014/10/22 掲載

発明を法律的に保護するには? 「ビジネスモデル特許」とは何なのか

法律がわかる起業物語:第7話

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「会社」は、法律による様々な規律が張り巡らされた、複雑な、そして極めて人工的な存在だ。この連載では、飲食業やサービス業、ITベンチャーなどの起業者から、同族会社などの経営者まで、いわゆる「大企業」とは少し違う、小さいけど小回りが利く、そんな会社の経営を考えている人や、現に経営を行っている人向けに、「会社」を巡る様々な法律問題を、小説形式で解説する。第7回は、特許権の概要から、いわゆる「ビジネスモデル特許」までを解説する。

弁護士 河瀬 季

弁護士 河瀬 季

東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年からIT関連フリーランスとして、SBクリエイティブ社の雑誌への寄稿、書籍の全編執筆などの執筆活動や、各種ウェブサービスの開発等を行う。司法試験合格後は弁護士として、ITとビジネスに強いコスモポリタン法律事務所(東京・音羽)に所属。自らも、複数のIT企業の顧問弁護士などとして、新興企業支援や知的財産権管理、資金調達などを含む、各種の企業法務に携わっている。
個人サイト:http://tokikawase.info/
Twitter:http://twitter.com/tokikawase

連載バックナンバー
■登場人物紹介
神田友信
大手電機会社勤務の32歳独身。理系の大学を出て勤続10年、営業マン一筋でやってきたが、世界を変えるような商品を世の中に送り出したいと起業を決意。法律のことはよく分からないが、うまく会社を経営できるだろうか?
新堂由起子
友信と同期入社な同僚で法務部の叩き上げ。31歳。好きな食べ物はザッハトルテ。友信とは入社の頃から細く長く友人関係を続けており、起業の相談にも乗ってくれる。不思議と高い店によく行っているようだが…?
玉井真琴
友信が電車の中で出会った、発明が得意な謎の女子中学生。読書を趣味にしているようだ。「本を読んでいる間はおでこに貼っておける栞」という発明を、友信の会社で製品化することに同意してくれた。他にもまだ発明があるようだが……?
■前回のあらすじ
かつて発明家を夢見ていた営業マンの友信は、電車の中で見かけた女子中学生が持っていた自作の栞に衝撃を受け、その栞を製品化して世に送り出したい!……と、本気で起業に向けて動き始めた。会社設立の準備も、女子中学生との間での発明に関する取り決めも決まってきた。

会社を辞めて自分の会社を作る

 友信の辞表を受け取った部長は、メガネをかけ直してしげしげと友信の顔を見つめた。

「そうか……正直、驚いたよ」

「長いことお世話になりましたが……」

 新卒でこの電気会社に就職して、10年。遂に友信は、「株式会社シオリヤ」の起業に向けて動き出したのだった。

「君に独立志向があるのは気付いてたけど、しかし君は、実際には独立しないと思ってたんだけどなぁ」

「そうですか?」

「うん、言葉は悪いけど、その行動力はないと思っていたよ。君を正しく評価できていなかったかな」

 少し考えて、友信は首を振った。

「いや、多分、僕一人では踏ん切りが付かなかったと思います」

 首をひねる部長に、友信は、ブックカバーの付いた文庫本を取り出して見せた。

「これは?」

 おもむろに文庫本からブックカバーを外す。それをクシャクシャっと丸めてから、端を引っ張り、机の上に置いてあったA4版のパンフレットに付けた。文庫本をぴったりと覆っていたブックカバーは、今度はパンフレットにきれいにはまった。最初からA4サイズであったような自然さで。

「え? え?」

 目を丸くする部長に、友信は下手なウィンクをしてみせた。

「凄い発明家を見つけたんです。彼女の発明で、世界を変えてやりたいなって。……この発明、まだ公開していないので、秘密にして下さいね」

会社設立には定款や株主についての決定が必要

 発明家……女子中学生・真琴と出会ったことで、友信の夢が動き出したのだった。

 栞と、それからこのブックカバー。二つの発明について、真琴に特許を申請してもらい、そのライセンスと特許権を、友信の会社「シオリヤ」の株式と交換する。それが、彼女との間で契約した内容だ(詳しくは「ビジネスマンが知るべき契約と契約書の基本──契約書は「何を」定めるものなのか」)。

 いよいよそれを具体的に進めるために、次の土曜日、「カフェ・ブン・グーン」に、みんなで顔を揃えることになっていた。

 みんな……つまり、由紀子と真琴だ。



  ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 「本日のコーヒー」に口をつけながら、友信は目の前に並んだ顔を見やった。

 オレンジ色の派手なワンピースを着た長身の由紀子と、今日もセーラー服姿の小柄な真琴は、目の前に置いた飲み物もエスプレッソとカフェラテと、なにからなにまで正反対に見えた。

 初顔合わせのとき、いつも物怖じをしない真琴は、

「はじめまして、由紀子さん」

 と溌溂と挨拶をしたが、由紀子の方は、いつになく言葉少なに「そう、よろしく」と返しただけだった。新人研修で一緒だったとき以来忘れていたが、由紀子はこう見えて、実は少し顔見知りをするタイプなのだった。

 大丈夫だろうか、この二人……と友信は少し危ぶみながらも、ひとまずは進行状況を確認する。

「会社の設立は、今のところ順調に進んでると思う。定款をしっかり考えておいたからかな。由起子のおかげだね」

 会社の設立を最初に考えた時から、定款などについては由起子にアドバイスを貰っている(詳しくは「株式会社設立の手続とは──株式会社の定款は何故重要なのか」)。定款や会社名が決まっていれば、設立は単に「書類を書いて出す」というだけの作業だった。

「真琴ちゃんは、特許の方はどう?」

 栞とブックカバーの発明について、特許申請は真琴に任せてある。

「はい。えっと、実は、ちょっとよく分からないところがあって……」

 真琴は、いつもの通学鞄から「特許法」と書いてある本を取り出した。栞の挟まったページを開き、外した栞は、おでこにぺたりと貼り付ける。おでこにはくっつくけど、本にはくっつかない栞。本を読んでいる時はおでこに貼っておくことができる(もちろん、手の甲でも頬でもいいのだが)。友信が起業を決意したきっかけとなった発明品だ。

【次ページ】 発明を「特許」にするには「クレーム」を書く必要がある

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