• 会員限定
  • 2014/12/15 掲載

トヨタがトヨタであるために──豊田社長が語る自動運転カー、水素自動車のこれから

【対談】豊田 章男社長×マーク・ベニオフCEO

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
「社長に就任してからのこの5年間、会社を潰さないように、ただひたすら必死にやってきた」──先日、セールスフォース・ドットコムの国内カンファレンス「Salesforce World Tour Tokyo」で最後のセッションに登壇したトヨタ自動車 社長 豊田 章男氏は、2009年に社長に就任してからの5年間をこう総括した。事実、トヨタと豊田社長が歩んできた5年間は決して平坦ではなく、現在もトヨタを含む自動車産業そのものが、存在意義を根本から問い直されるほどの大きな節目を迎えている。本稿では豊田社長とマーク・ベニオフ 米Salesforce.com会長兼CEOとの対談から、豊田社長が描く”トヨタウェイ”のアプローチに迫ってみたい。

五味 明子

五味 明子

フリーランスライター。札幌市出身。東京都立大学経済学部卒。複数のIT系出版社の編集部に編集者として所属した後、2011年からフリーに。フィールドワークはクラウドコンピューテング、オープンソース、セキュリティ、アプリケーション開発などエンタープライズITが中心。海外イベント取材が多く、1年の半分近くを出張先で過ごす。
Twitter:http://twitter.com/g3akk

マーク・ベニオフとの友情を強めたソーシャルネットワーク

photo
トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田 章男氏(写真左)、
米Salesforce.com 会長兼CEO マーク・ベニオフ氏(写真右)

「この対談に出てほしいと言われたのは本当につい最近。でもマークの頼みなら断れないかな、仕方がない。マークとは(対談前の)打ち合わせもしないし、そもそも打ち合わせに意味がない。まったく最初に決めた段取りと違う内容になるんだから(笑)」

 セッションの冒頭で、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田 章男氏はSalesforceのCEO マーク・ベニオフ氏についてこのようにコメントしている。ハワイで初めて会って以来、公私ともに親しい関係にある2人だが、豊田社長はベニオフCEOとのエピソードの1つに、ソーシャルメディアの存在を教えてくれたことを挙げている。

 2010年、社長就任からわずか1年後の豊田社長を襲った新型「プリウス」の全世界リコール問題。当時の豊田社長は米政府の公聴会に出席せざるを得なくなるなど、緊張した時間を過ごしていた。

 苦しい立場に置かれていた豊田社長が、試練を乗り越えるために心の拠り所にしたのは、やはりクルマだった。豊田社長はレーサーとしてサーキットを走行するほどのクルマ好きとして知られており、スポーツカーのエンジン開発などにも自ら積極的に関わっている。父親で現・トヨタ自動車 名誉会長 豊田 章一郎氏から「自分一人の身体ではないという自覚が足りなすぎる」と苦言を呈されるほど、クルマは豊田社長にとって不可分の存在だった。

「私は心の底からクルマを愛している。この試練を乗り切るためには、自らがハンドルを握り、トヨタのクルマは安全だと示すことだと考えた。全世界の従業員に範を示すためにも、それしか回答がないと考えた。

 自分の時間は24時間しかないからどうしても優先順位を付けざるを得ない。中にはメッセージが届かない人がいるかもしれないがそれはあきらめるしかない……そう思っていたとき、マークからアドバイスをもらった。

 ”ソーシャルを使えばもっとたくさんの人に、もっとたくさんのことを伝えることができる”と。人間の魅力の出し方、伝え方は変わってきている、1つの方法だけにこだわらなくてもいい、そのことを教えてくれたマークに、心から感謝している」(豊田社長)

 豊田社長のコメントを受け、ベニオフCEOは「世界はあらゆるものがつながる方向に向かっている。”One World”という概念を理解し、実践したからこそ、我々(トヨタとSalesforce)は成功することができたように思う」と答えている。

 トヨタは2011年、クルマと顧客、販売店、メーカーをつなぐソーシャルネットワーク基盤「TOYOTA friend」や、全世界のトヨタ従業員をつなぐ企業内ソーシャル「TOYOTA Chatter」をSalesforce.comのコラボレーションツール「Chatter」ベースで構築しているが、こうした事例においても豊田社長の意向が強く働いている。

トヨタの自動運転カーには”愛”が必要

 冒頭でも触れたように、自動車産業は現在、大きな節目を迎えている。中でも注目を集めているのが、Googleの実験でも知られる自動運転カーの今後だ。ベニオフCEOから自動運転カーについての質問を受けた豊田社長は「IT業界が考える自動運転と、我々クルマ屋が考える自動運転は根本から異なる」と断言する。

「大切なクルマのことを人は”愛車”と呼ぶ。これはクルマだけで、冷蔵庫やテレビに対しては使わない。モビリティに愛を感じ続けてもらうためにも、我々は愛のある自動運転を追求していかなくてはならない。

 A地点からB地点に運ぶ、それだけでは我々の求める自動運転ではない。芸術でもなんでもそうだけど、人間を動かせるのは人間だけ。クルマも最後は人間が扱う部分を残しておくべき。これに関しては最後の最後までこだわっていきたい。

 でも、IT企業とのコラボレーションは非常に魅力的だと思っている。”走る”、”止まる”に”つながる”が加われば、真の意味でサステナブルで魅力的な自動運転カーが誕生するかもしれない」(豊田社長)

 ここで、魅力あるクルマとはどういうものなのかという指摘に対し、豊田社長は「何層ものフィルターを経由してできあがったクルマ」と答え、「クルマは作る側のフィルターにセンスがあることが重要。だからフィルターの精度は常に上げていかなければならない。こういう場所に来て、マークのような刺激的な人と話をすることもフィルターの精度を上げることにつながる」と述べている。そうであるなら、自動運転カーはまだトヨタのフィルター検査に合格していない状態にあるのだろう。

 【次ページ】 水素自動車はMIRAIへの第一歩

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます