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  • 2015/03/12 掲載

“愛”のある事業継承が企業に発展をもたらす:人を動かす極意

むかし話のネゴスターに学ぶ人を動かす極意

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経営権を巡り父親である勝久会長と長女の久美子社長が対立している大塚家具のお家騒動。創業者の勝久会長は部門長や店長を巻き込み、社長退任署名運動を行う一方、久美子社長は「社員を巻き込んでしまったことに対し申し訳なく思っている」とコメント。両者一歩も譲らず、株主総会に向けて委任状の争奪戦となっている。早期解決が望まれるところだが、泥沼の様相を呈していることから、長引くことも予想される。さて、どうすれば解決の道筋が見えるのか。そのヒントとなる「むかし話」を紐解いてみたい。

中森 勇人

中森 勇人


中森勇人(なかもりゆうと)
経済ジャーナリスト・作家/ 三重県知事関東地区サポーター。1964年神戸生まれ。大手金属メーカーに勤務の傍らジャーナリストとして出版執筆を行う。独立後は関西商法の研究を重ね、新聞雑誌、TVなどで独自の意見を発信する。
著書に『SEとして生き抜くワザ』(日本能率協会)、『関西商魂』(SBクリエイティブ)、『選客商売』(TWJ)、心が折れそうなビジネスマンが読む本 (ソフトバンク新書)などがある。
TKC「戦略経営者」、日刊ゲンダイ(ビジネス面)、東京スポーツ(サラリーマン特集)などレギュラー連載多数。儲かるビジネスをテーマに全国で講演活動を展開中。近著は「アイデアは∞関西商法に学ぶ商売繁盛のヒント(TKC出版)。

公式サイト  http://www002.upp.so-net.ne.jp/u_nakamori/

親が残した財産とは

 「泣いた赤鬼」は浜田廣介の代表作で学校教科書にも採用された童話。初出は「おにのそうだん」の題名で児童文学誌「カシコイ小学二年生」に連載(1933年8月~)された作品で、その後は童話や絵本として刊行されてきた。

 早速、このむかし話の紹介をしたいのだが、その前に作者について述べておきたい。

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 浜田廣介が連載をしていた児童文学誌「カシコイ…」は、誰もが口ずさんだことのある「とんぼの目玉」や「赤い鳥」などの童謡で有名な北原白秋など、著名な作家の作品を数多く掲載していた。しかし、当時はどの作家も経済的に恵まれず、浜田自身も例外ではなかった。 山形県の農家であった浜田の生家は彼が中学時代に破産。早稲田大学に入学したものの、学費や生活費を自らが稼がなければならなかった。 その困窮を救ったのが父親や母親から注がれた“愛“なのである。

 両親が共働きで、面倒を見てくれる祖母がいなかったことから、朝は母と田畑にでかけ農作業の傍ら、夜はコタツにあたりながら、そして寝床で、東北地方に伝わる昔話を聞かされていた。一方、父親はおとぎ話の本や少年雑誌を彼に買い与えた。13歳の時にはその少年雑誌に作文や詩を投稿し、入選する実力を付けていた。また、教育熱心だった父親は浜田を米沢中学校(現在の山形県立米沢興譲館高等学校)へ進学させる。

 ここでも実力を発揮し、一年生の時に学内作文コンクールで優勝。翌年も優勝したことからコンクールが取りやめとなったという逸話がある。このころから短歌を始め、サークルを作るなど積極的に創作活動に取り組んだ。その後、大学へと進学するが、先に述べたように生家が破産し、浜田には後ろ盾がなくなっていた。しかし、彼には母から聞かされた昔話での想像力や父から受けた教養が蓄積されていた。浜田はその“愛の財産”を使い小説を執筆。新聞の懸賞短編小説などに応募し、学費や生活費に充て窮地を乗り越えてきた。在学中の1917年(大正6年)には「黄金の稲束(こがねのいなたば)」で大阪朝日新聞の懸賞新作おとぎ話に入賞(一等)し、童話作家としてデビューした。

 まだ、童話という言葉すらなかった時代。従来のおとぎ話が勧善懲悪をテーマにしていたのに対し、「黄金の稲束」は老いた馬をいたわる百姓がその愛情の結果として、若駒と稲束を得るという心温まる結末を描き人心を揺さぶった。 浜田が切り開いた善意のストーリーは新たな童話の可能性を開示し、小学校低学年向けの雑誌「友良」で次々と作品を発表。 代表作である「竜の目の涙」では、恐ろしくて怖い存在だった竜が無垢な子供の言葉で心を開き、涙を流すという斬新なストーリーを展開し、子供だけでなく幅広い年齢層に愛されている。 話を「泣いた赤鬼」に戻す。

 この作品ではおとぎ話の世界で忌み嫌われてきた鬼たちを善人として扱い、むしろ人を思いやる気持ちの持ち主として取り上げている。 これは自らが親に受けてきた愛情を投影したものに他ならない。そして、その親への恩返しともとれる、愛をテーマにした作品の一つである。

物語に込められたメッセージ

 長々と書いてきたが、ここで「泣いた赤鬼」の内容をおさらいしてみたい。

 ある山中に住んでいた赤鬼はかねてから人間と仲良くなりたいと思っていた。一計を案じた赤鬼は、住んでいる小屋の前に看板を立てた。“心のやさしい鬼のおうちです。どなたでも気軽にお入りください。おいしいお菓子がございます、お茶も沸かしてございます。”ところが、人間たちは鬼が怖いし食べられるかもと疑い、誰一人として赤鬼の家に遊びに来なかった。信用してもらえないことを悔しがり、腹を立て、思いのこもった立札を引き抜き、壊してしまった赤鬼。一人で悲しみに暮れていたところへ親友の青鬼が訪れる。

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 赤鬼は堰を切ったように青鬼に今までのことを打ち明ける。これを聞いた青鬼はある作戦を思い付き、その策を赤鬼に伝えた。「僕が人間の村へ行って大暴れをするから、君が僕をやっつけろ。そうすれば人間たちは君が心優しい、信頼できる鬼だということがわかるはずだ。」「そんなことができるわけがない」と拒む赤鬼の手を取り青鬼は強引に人間が住む村へと向かう。到着するや否や作戦は実行され、打ち合わせ通り青鬼は村の子供を襲い、赤鬼が懸命に助けた。青鬼の芝居もあり作戦は見事成功。おかげで赤鬼は人間と仲良くなり、村人達は赤鬼の家に遊びに来るようになった。

 人間の友達もでき、毎日を楽しく暮らしていた赤鬼。そんな時ふと、親友の青鬼が遊びに来なくなったことに気付く。「今村人たちと仲良く暮らしているのは青鬼のおかげじゃないか。」赤鬼は今の暮らしぶりの報告とお礼を言いに青鬼の家を訪ねた。しかし、青鬼の家の戸は固く閉ざされ、一通の手紙が貼ってあった。そこには「親愛なる赤鬼君へ。いつまでも人間たちと仲良く、楽しく暮らしてください。僕が君と居ると、君も悪い鬼の仲間だと思われるかもしれない。だから、僕は旅に出ます。でも、いつまでも君を忘れないよ。さようなら、体を大事にしてください。僕は何処にいても君の友達だから」 赤鬼は黙々とそれを読む、何度も何度も。そして、いつまでも泣いた。その後、青鬼が赤鬼の前に現れることはなかった。

 実はこの話、浜田の人生に似ている点が多々ある。物語の青鬼(浜田の親)は自らが汚れ役を買って(破産をしながらも無償の愛を与え)、赤鬼(浜田自身)と村人(童話)を結びつけ、赤鬼の家がサロンとしてにぎわう(浜田が児童文学界の三種の神器と称される)手助けをした。そして、旅に出る(二度と浜田に会うことは無かった)。残ったのは赤鬼(浜田)が涙するほど感謝した青鬼(両親)への思い。それを伝えたい浜田の思いが痛いように伝わってくる。

 浜田廣介の心情を描いた「泣いた赤鬼」は事業継承にも共通する。

赤鬼=創業者である親
青鬼=子供である後継者
村人=顧客や株主

と置き換えれば話がわかりやすいだろう。では、その事例を紹介したい。

【次ページ】事実は童話より奇なり

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