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  • 2015/04/01 掲載

岡本亮輔氏インタビュー:観光と信仰の交差する、現代の聖地巡礼をめぐって

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近年、観光資源や地域振興の観点から注目を集めている「聖地巡礼」。その現代の聖地について、宗教学の観点から検討・分析を行ったのが『聖地巡礼──世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)だ。サンティアゴ巡礼や四国遍路、世界遺産、パワースポット、そしてアニメの舞台と多岐にわたる切り口からは、観光と信仰について従来とは異なる側面も見えてくる。本書の狙いなどについて、著者の岡本亮輔氏にお話をうかがった。

使徒ヤコブを祀った大聖堂と青森にあるキリストの墓

──最初に『聖地巡礼』の執筆の動機についてうかがいます。岡本さんは本書の中で社会や個人にとって宗教の位置づけや関わり方が変化したため、聖地巡礼と観光というふたつの事象が交差している、と論じています。そうした点に注目するようになったきっかけなどについてお聞かせください。

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『聖地巡礼』

岡本氏:神や仏のような超越的存在を簡単に信じられなくなった現代社会において、いわゆる伝統的な宗教や教団は、前近代におけるような存在感や影響力を持たなくなっています。『宗教年鑑』(文化庁)によると、氏子や檀徒などを含む日本の信者数は、総人口よりはるかに多い約2億人と推計されていますが、宗教に関する各種アンケート調査では、何らかの信仰を持っていると答える日本人は全体の3割程度にとどまる。要するに、なんとなく宗教や教団に所属している日本人は多いけれども、意識的に関わっている人はさほど多くないということです。

 ただし、それが単純に信仰を持つ人の減少を意味するとは思えません。むしろ現代社会において宗教は、従来とは異なる形態でも社会に存在しているのではないか、と考えたのです。本書の執筆の根底には、そういう問題意識がありました。

──岡本さんは、伝統宗教だけでなく、パワースポットやスピリチュアリティの社会的機能なども研究対象としています。宗教研究において、そうしたものを題材にするのは、比較的新しい試みなのでしょうか?

岡本氏:そうですね。これまでの宗教研究では、テレビ・雑誌の占いや超能力などは、取るに足らないショー的な現象として、本格的には取り上げられてきませんでした。宗教学においては、神や仏といった超越的存在を信仰しているものが宗教であり、そうでないものは非宗教だとされてきたのです。近年になってようやく、主に若手の研究者により、今までほとんど対象とされてこなかった血液型占いや超能力などに関する研究が少しずつ出始め、学会内でもひとつの潮流になりつつあります。

──本書では、世界遺産にも登録されているスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラの巡礼路などと並べて、一般にはB級スポットと認識されてきた青森県三戸郡の「キリストの墓」や、『らき☆すた』の舞台としてファンの聖地となった埼玉県久喜市の鷲宮神社などが取り上げられています。その点が非常に新鮮で、印象的でした。

岡本氏:従来の宗教学的な視点では、サンティアゴ大聖堂はすごくありがたいもので、逆に青森にあるキリストの墓なんてふざけるな、という感じでした。ところが、それぞれについて調べてみると、そういった線引きはおかしいことに気づく。なぜなら、学術的にいえば、使徒ヤコブを祀った大聖堂と青森のキリストの墓は、どちらもフェイクであるという点において大きな違いはないからです。

──本書においてキーワードのひとつになっている「真正性」の観点からすれば、本物っぽいかそうでないかの違いしかないということですね。

岡本氏:そうです。聖遺物や聖母出現は、たとえ学術的にはすべて“偽物”でも、カトリック教会という権威が認めることによって、信者にとっては“本物”になる。一方、信仰を持たない人たちにも、それらは“偽物”と割り切って受け止められているわけではなく、彼らの欲求に合わせて演出され、作り直された形で受容されているのです。

 たとえば、サンティアゴ大聖堂を目指して巡礼路を歩く毎年10万人以上の巡礼者の多くは、実は普段ほとんど教会へ行かない、キリスト教への信仰心などあまり持たない人たちです。彼ら彼女らにとって、巡礼のゴールである大聖堂が学術的に“偽物”なのかどうかは重要ではない。というのもそうした信仰なき巡礼者は、巡礼の道程で得られるもの、たとえば他者との交流体験などに、ある種の宗教的な価値を見出しているからです。

──それこそが、現代における宗教の受容のされ方のひとつというわけですね。

岡本氏:はい。本には書きませんでしたが、サンティアゴ巡礼は、「出会いの聖地」とでも呼べそうです。私が教えた学生にも、夏休みなどを利用してサンティアゴ巡礼に出向き、年齢も国籍も異なる人々と触れあってくる人がいます。その様子を見ていると、コミュニケーション能力の高い人は存分に楽しんでくる一方で、そうでない人は「散々でした……」と言って帰ってきたりするんですよ。

──宗教は、自己との対話など、内面的な要素の大きいものだと思っていましたが、むしろ外部への発信力の強い人のほうが入り込みやすくなっているように見えて興味深いです。

岡本氏:また一方で、キリストの墓の地元の村には、それが学術的にはフェイクであることは理解しつつも、「誰か大切な人が埋葬された場所である」と信じ、神聖視している人が少なくない。まさしくここでも、聖なるものが、自分たちの望む形で編集されることによって受容されているのです。

 つまり、聖地について考える上で重要なのは、学術的な客観性ばかりに目を向けるのではなく、聖地の提供側と訪問側がなにを考え、どんな情緒を持つのか、という主観性に注目することなのです。そうであるからこそ、権威あるサンティアゴ大聖堂とB級スポットとされるキリストの墓は並列に論じられるべきだと考えたわけです。

【次ページ】つながりや帰属感を何にもとめるのか

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