• 2015/03/30 掲載

将来における自動車の統合製造と予測可能なプログラムの立ち上げ

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自動車業界では、新車開発プログラムの立ち上げ件数が世界的な規模で増加する傾向にあり、その勢いは強まっています。自動車完成車メーカー(OEMメーカー)は、新興地域での市場シェアの獲得に躍起となり、これを達成するために現地生産の動きも出ています。こうした流れは、同じ自動車を複数の生産設備で製造することが増えることを意味します。しかし、問題はここからが始まりです。

シーメンスPLMソフトウェア 日本法人 代表取締役社長 堀田邦彦

シーメンスPLMソフトウェア 日本法人 代表取締役社長 堀田邦彦

シーメンスPLMソフトウェア 日本法人 代表取締役社長
日本銅管(現JFE)、PLM大手ベンダー等で要職を歴任。LMS International日本法人・エルエムエスジャパンの代表取締役社長を経て、2013年10月より現職。長年にわたり自動制御や3次元データ関連の技術に関わる。

 アジアでは、かつてないほど多種多様なパーソナライズ・オプションの提供を自動車メーカーに求めています。グローバル市場で競争するためにはコストを削減しなければなりませんが、その一方で多くの消費者の多様なニーズに応えるためにプロセスのバリエーションを増やして対応しなければなりません。その結果、自動車メーカーは過去10年間、大幅に短縮してきたスケジュールをさらに短縮しなければ対応できない状況が続いています。

 アジアの自動車メーカーがこうした問題を解決するには、新しい製造戦略を採用しなければなりません。つまり、新しいプロセスの迅速なプランニングと設計、変更の詳しい影響評価、グローバルなオペレーション全体にわたるベストプラクティスの迅速な導入、プログラムを立ち上げる際のタイミング、コスト、品質の正確な見積りなどを可能にする製造戦略です。この他にも、自動車メーカーには、より環境に優しい自動車の提供とよりエネルギー効率の高いプロセスによる製造が求められています。

 こうした製造戦略を推し進めるために多くの大手自動車メーカーが採用に動いているのが、新車開発に当たって設計プロセスと製造プロセスを統合するコラボレーティブなアプローチです。このアプローチなら、製品の設計データに早い段階からアクセスできるため、製造のオペレーションを並行して進め、製造プロセスを設計プロセスと同時にプランニングし、最適化し、検証することができます。このような統合アプローチはモジュール型プラットフォームの効率的な導入を可能にします。モジュール型プラットフォームは、開発プログラムの立ち上げ後のオペレーションをより正確に予測できるようにし、なおかつプログラムの成果を明確に可視化して管理できるようにします。この予測可能な立ち上げアプローチは、パワートレイン、ホワイトボディ(BIW)、スタンピング、最終組立てが予測通りに、しかも1回で目標品質を達成し、プログラムの目標収益を満たすものであることを事前に確信させます。

 アジアはこれからも自動車業界の成長エンジンであり続けます。中国は2009年に一躍世界最大の市場となり、マッキンゼー・アンド・カンパニーの予想によると、アジアでは今後7年間、自動車業界にとって高い収益性が見込まれ、その大半は新興市場からもたらされるとしています。この予想が現実のものとなれば、アジアの自動車メーカーは、「ブランド」と「品質」の両方で市場から高い信頼を獲得していかなければなりません。

 日本と韓国は長い間、欧米の業界大手と変わらぬ状況にあります。これらの市場では、グローバル化に加えて、新しい技術の開発と国内市場の要求を満たすことが、顧客から期待されている品質を提供し続けるための重要な課題となっています。トヨタがリコールすることになったタカタ製エアバックの不具合のような事例は、満たすべき安全性や技術に関する国際基準の陰で品質管理が往々にして軽視されているのではないかという疑念を抱かせるものです。製造前にこのようなミスを予測して事前に排除し、さらに各地に分散するチームに完全な可視性を与えて設計データへのアクセスと編集を可能するフレームワークを構築すれば、このようなリコールは十分に避けることができます。

製造プロセスの予測可能な立ち上げによる複雑性の管理

 製造プロセスをいかにうまく立ち上げられたか否かは、製造プロセス全体をうまく実行できたかだけでなく、そのプロセスの開発と構築に要した時間とコストによっても測る必要があります。競争優位性を確保するには、マスプロダクションからマスカスタマイゼーションへの移行を確実に実行でき、なおかつ各地域のさまざまな規制をクリアして、常に消費者ニーズに応えていかなければなりません。新素材や新しいコーティング技術が生まれれば設計変更が生じ、これが製造の可能性に大きな影響を及ぼし、コラボレーションのための統合プラットフォームがなければ、簡単に失敗してしまう可能性があります。

 スウェーデンを拠点とするVolvo Car Corporation(通称Volvo Cars)は、中国を米国に次ぐ大型市場に育てるべく、2010年、中国の浙江吉利控股集団への売却を決断しました。これにより、Volvo Carsは世界に向けた新車開発を進めるべく、中国に新工場の建設や大型投資を計画しました。その実現と完全子会社となった同社の業務をサポートするには、多モデル化に対応し、エンジニアリング・プロセスの変更にも対応できる生産ラインの柔軟性を高める必要がありました。そこでVolvo Carsは、混合モデル生産方式を採用し、プロセスのバリエーションと変更を管理する製造プロセス管理を実行したことで、生産システムのサプライヤーとのコラボレーションの強化、エンジニアリングの生産性向上、工場現場に送るドキュメントの作成時間の大幅な短縮を実現しました。

 自動車メーカーは、製造プロセスを迅速に設計、再利用、検証して、最初の1回で品質要件を満たし、本稼働までの期間を短縮、コスト超過を回避しなければなりません。実行に移す前にバーチャルなプラットフォーム上で試行錯誤し、すべてのパラメーターを正確な要求点に合わせておくことが、自動車メーカーの成功の必須条件であることは言うまでもありません。統合製造アプローチを採用すれば、製品製造プロセスの立ち上げを最適化することができます。予測可能な立ち上げを可能にするプラットフォームは、今日のデジタル化されたプロセス管理を強力に促進する触媒となって、市場での優位な競争を保証します。自動車メーカーは、このような製造・生産環境で効果的かつ効率的な業務を推進し、世界的な傾向となっている製品の複雑化を管理しなければなりません。

「つながり」を強化し、プログラム立ち上げのフレームワークを最適化

 統合製造アプローチは、グローバルな自動車開発プログラムを最大限の効率性で実行可能にし、最初の1回で目標品質の到達を可能にします。このアプローチを通じて、組立ラインのバランスと最適化が担保され、生産量を一気に上げ、多モデル化による製造コストの超過も抑えることができます。自動車メーカーがグローバルな規模で予測可能なプログラムの立ち上げを成功させるには、生産システムのコラボレーティブな開発アプローチを採用する必要があります。これには、生産システムの開発中に製品設計データに簡単にアクセスできる管理された環境の構築、製造プロセスの生産性と効率性を最適化する製造の統合検証、迅速で効率的なプロセスの開発、プログラムの成果と収益性の予測が含まれます。BMWのような大手自動車メーカーは、最先端の各種産業用接続ツールを活用したプラクティスをすでに実行し成果を上げています。これらの企業は製造プロセスだけでなく、修理プロセスにも予測的アナリティクスを活用しています。

 予測モデリングと予測的アナリティクスは、これまでの製造フレームワークを根底からひっくり返す可能性があります。重要でタイムリーなデータをマイニングし、刻々と変わる仕様に合わせて設計パラメーターを先読みし調整するといったことを可能にするビッグデータの技術、またはプロセスの各部が相互に通信し合う産業用モノのインターネット(IIoT)の活用が、さまざまな業界でプログラムの立ち上げのプラクティスを一新させる局面に入っています。自動車業界は予測的アナリティクスから多くの利益を得ることができ、簡単にカスタマイズできる堅牢なソリューションをプログラムの立ち上げに活用する企業は、設計プロセスと製造プロセスをこれまでになく迅速かつ高度に管理できるようになり、また、エネルギー効率を高く維持できるようになり、競合他社の先を突き進むことができます。

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