- 会員限定
- 2015/08/17 掲載
文具メーカーセキセイ 西川 雅夫会長の発想法は「なぜではなく、なんでやねん」
中森勇人(なかもりゆうと)
経済ジャーナリスト・作家/ 三重県知事関東地区サポーター。1964年神戸生まれ。大手金属メーカーに勤務の傍らジャーナリストとして出版執筆を行う。独立後は関西商法の研究を重ね、新聞雑誌、TVなどで独自の意見を発信する。
著書に『SEとして生き抜くワザ』(日本能率協会)、『関西商魂』(SBクリエイティブ)、『選客商売』(TWJ)、心が折れそうなビジネスマンが読む本 (ソフトバンク新書)などがある。
TKC「戦略経営者」、日刊ゲンダイ(ビジネス面)、東京スポーツ(サラリーマン特集)などレギュラー連載多数。儲かるビジネスをテーマに全国で講演活動を展開中。近著は「アイデアは∞関西商法に学ぶ商売繁盛のヒント(TKC出版)。
公式サイト http://www002.upp.so-net.ne.jp/u_nakamori/
なぜひょっとこのお面がロングランで売れるのか?
日本各地で夏祭りや収穫祭が盛んにおこなわれるこのシーズン。祭りに欠かせないのはなんと言っても屋台だろう。綿菓子にかき氷、焼きそばに金魚すくい。思わず童心に戻ってしまうが、ふと屋台に目をやると今流行りの妖怪ウオッチやウルトラマンのお面の横に「ひょっとこ」が並んでいる。
祭りで目にする何気ない光景だが、さてこのひょっとことは何者なのだろうか。そしてなぜ、ひょっとこのお面が、お祭りのロングラン商品となっているのだろうか? そのヒントは、民俗学者 柳田 国男氏の著書「遠野物語」に描かれている。
物語に登場する爺さんは柴刈りの途中で大きな穴を見つけ、これを魔物の穴だと思い持っていた芝を一束ずつ、押し込んでいく。爺さんが手元にあった芝を全部穴に入れたところ、穴の中から美しい女が出てきて芝の礼を言い、中に来るよう勧められ、入ってみると立派な屋敷。そこには(おそらく火の神だと思われる)白髭の翁がいた。
そして帰るとき、芝のお礼だと“みっともない顔”の一人の子供「ヒョウトク」を指さし「連れて行け」と言われる。爺さんは連れ帰ったヒョウトクがヘソばかりいじっているのを見て不審に思い火箸でちょいと突くと、ヘソから金の小粒が出てきた。
爺の家はその金のおかげで長者となったが、欲張りな婆が爺の留守中にヒョウトクのヘソを思いっきり突いたことで死んでしまう。外出先から戻った爺が悲しんでいると、ヒョウトクが夢に出てきて、「俺の顔に似たお面を作って毎日よく眼につくカマド前の柱に懸けておけ。そうすれば家が富み栄える」と教えた。
爺の家はその後も富栄えたことから、これにあやかろうと今日まで「醜いヒョウトクのお面」を木や粘土で造って、カマド前の釜男(カマオトコ)と言う柱に懸けて置く風習が受け継がれているのだという。そして、この風習が各地に広まり、地方によっては「ヒョウトク+カマオトコ」のイメージから火男(ヒオトコ)と呼ぶようになったというのがどうやら真相らしい。
長々と前置きを述べたが、ひょっとこは人を笑わせる変なお面でありながら、実は富を生み出す神の化身だったというギャップがあるからこそ人々の心をくすぐり、祭りのお面がロングラン商品となっているわけである。
そもそも「火男って誰?」と疑問を持たなければ「爺の善行(魔物を封じ込めようとしたことがうまく働き、結果的に火の神に火種の芝を提供したこと)→子供のヘソから金が出た」に行きつかないことがお分かりいただけたはずだ。
文具メーカー セキセイ西川 雅夫会長の「なんでやねん」発想法
関西弁の「なんでやねん」は標準語にすると「なぜ?」となる。昔、欽ちゃんロングランヒット番組の中で言っていた「なんでそうなるの?」といったニュアンスだろうか。
西川会長は著書の中で、“東京と大阪でエスカレーターの並び方が違うのはなんでやねん?”、“アイスクリームに賞味期限が無いのはなんでやねん?”といった発想を続けていることを明かしている。
さらに“カテゴリーによって文書の量がまちまちなのはなんでやねん?”という疑問を突き詰めることで、収納する文書量に臨機応変に対応するポケットで構成された伸縮するタイプのドキュメントスタンドを開発し、こちらもヒット商品になっている。
他にも、たくさん貼れるアルバムが売れなくなっているのはなんでやねんの疑問から、あえて収納枚数を減らしてお気に入りの写真が飾れるフリーアルバムフレームを売り出したところ、これが大ヒット商品になった。
まさに「なんでやねん」はヒョウトクのヘソのようなもの。金のアイデアを生み出すアイテムとなっている。
【次ページ】優れたビジネスメソッドに触れるには
関連タグ
関連コンテンツ
PR
PR
PR