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  • 2015/09/04 掲載

ガートナー 山野井 氏が解説、ITサービス・ベンダーを「戦略パートナー」とする条件

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日本企業の9割がIT業務の一部、ときには大部分をITサービス・ベンダーに委託している現在、アウトソーシングの成否こそが、IT部門のプレゼンスを決定づけるといっても過言ではない。結論から述べると、アウトソーシングにおいてITサービス・ベンダーを本当の意味での「戦略パートナー」として遇するための必要最低限の条件は「“対等な補完関係”に近づくための相互努力を怠らない」「利害併存・相反部分の“落としどころ”を双方で合意できる」という2点に集約される。ITサービス・ベンダーとユーザーの関係は、残念ながら利害相反なことがほとんどであり、長期的な関係を結ぶにしても、それは結果論として捉えるべきなのである。

ガートナー リサーチ部門 日本統括 バイスプレジデント 山野井 聡

ガートナー リサーチ部門 日本統括 バイスプレジデント 山野井 聡

アクセンチュア、データクエスト ジャパン (現ガートナー ジャパン)、ドイツ証券を経て、2004年10月より現職。プレイング・マネジャーとしてチームを統括しつつ、日本国内のITサービス市場の動向分析、および企業のソーシング戦略立案・導入・管理に関するアドバイスと提言を行っている。東京都立大学卒。

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(Photo:Fotolia/adam121)

ITサービス・ベンダーのビジネスを俯瞰する

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 ITサービスのアウトソーシングは1980年代から行われており、当初のIT子会社を中心とした委託形態から、1990年代にはITスキルを社外に依存したフルアウトソーシングへの移行が加速した。

 さらに、2000年代にはIT資産のオフバランスを考慮したホスティングへ、2010年以降は実装運用のスピードと柔軟性を追求したクラウドへとサービス形態を変遷させてきた。

 背景には、メインフレームからクライアント・サーバ、Web/E-Business、XaaS、モバイルといったインフラ技術の進化、今後に向けたIoTやスマート・テクノロジーへの機運の高まりといったITトレンドの変化がある。

 しかし、その中身そのものは「技術は変われども、モデルは(簡単には)変われず」というのが実態だ。アウトソーシングを支えているのは人的リソースであり、きわめて労働集約的なサービス提供モデルは1980年代から、ほとんど変わっていない。

 あるITサービス・ベンダーの経営者と話をしたところ、「むしろ1980年代のほうが良かった」という本音も出てくる。「メインフレーム時代のシステム構築には、上流の要件定義からユーザーとベンダーが一体となって取り組む必要があり、プロプライエタリーな環境ではあったものの、そこには真のパートナーシップが存在した」と言うのである。

 昨今のアウトソーシングではこうしたパートナーシップの感覚は希薄になり、ユーザー企業もITサービス・ベンダーも“次の一手”を見つけられないでいる。

 これを象徴するように、日本のITサービスの国内売上は約10兆8,000億円と市場規模こそ世界第2位にあるものの、成長率は1~2%にすぎない。しかもトップ5社(NTTデータ、富士通、日立製作所、NEC、IBM)がそのジェアの半分を占める“市場の硬直化”が進んでいる。そうした中で約1万1,500社存在すると推測される業界の大半のプレイヤーは、価格やスケール以外に有効な競争優位・差別化要素を見出せないでいるのが実情だ。

 顧客との関係に着目しても、重要ユーザーを全方位的で囲い込み、開発の値引き分を保守で取り戻すといった“互恵的”な長期関係を結ぶことを前提としている。

 ITサービスの提供形態は、1社(関連・協力会社を含む)がすべてを提供する“垂直統合型“モデルが基本で、顧客のニーズありきで応える“擦り合わせ型”から脱しきれない。

 また、ITサービス・ベンダーにとって人材育成の最大機会がOJTであるだけに、たとえ安値であっても大量の若手を現場投入せざるを得ない。サービスの対価についても“人月”による計算が疑問視され始めて、かれこれ20年になるが、いまだにそれに代わる良策がない。

日本企業は「戦略パートナー」に何を求めるべきか

 では、ユーザー企業の側からは、どんな観点からアウトソーシングを利用すべきなのか。IT部門のソーシング能力を自己評価した上で、“トリアージ・レベル”に見合ったパートナーを選ぶことが重要だ。

 ITを効果的に活用できている「先駆者」やその「後継者」と呼ばれる企業は、日本企業全体のうち約20%である。もちろん、こうした先進企業も積極的にアウトソーシングを導入しているが、やみくもには依存しないのが特徴だ。少数精鋭のリーンなIT組織のもと、ベンダー管理機能の専任化や適切なデマンド管理を行い、メリハリを付けたIT支出の最適化がなされている。

 このような“健康体質”を維持している企業にとって、必ずしも大手ITサービス・ベンダーと組むことが最適解にはならない。専門性や多様性を追求することを重視し、場合によっては内製化の取り組みも支援してくれる、小規模なベンチャーやツールベンダーを含めた“マルチソーシング”によるパートナー選びが有益である。

 一方、残りの80%の企業はどうかというと、実質的なIT投資の判断はITサービス・ベンダーが代行しており、経営層やエンドユーザー部門もIT部門の取り組みに無理解・無関心といったケースが少なくない。

 こうした「境界線上」や「重度なベンダー依存症」にある企業がいきなりマルチソーシングに舵を切ろうとしても無理がある。規模や継続性を重視したシングルソーシングで、当面は“ほぼ丸投げ”を容認せざるを得ない。まずは現状における自社の実行能力を正しく評価することが重要だ。

 実際、IT部門が「戦略パートナーにふさわしい」と考えるITサービス・ベンダーのイメージと現実の間には大きな乖離が見られる。

 たとえば、ガートナーが2015年4月に実施したアンケート調査によると、上位にランクインしたのは、「顧客の実情や商慣行をよく理解している」「専門性に優れた人材を提供してくれる」「(企業として)専門性が高い」「規定外の要望にも柔軟に対応してくれる」といった項目である。

【次ページ】RFPに含める基本8項目と見積もりの妥当性を評価する方法

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