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  • 2015/09/21 掲載

いかにしてANAは「悲惨な状況」からワークスタイル改革を成功させたのか?

ANA 林剛史氏

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全日本空輸(以下、ANA)は、先ごろ開催されたグーグルの基幹イベント「Google Atmosphere Tokyo 2015」において、同社が推進しているワークスタイルイノベーションの具体的な内容と成果について発表した。同社の林 剛史氏は、全社的な協力が必要なプロジェクトの立ち上げから、社内の各部署との連携、KPIの設定とトラッキング方法など、「イノベーションの起こし方・進め方」に関する課題や具体的な工夫についても来場者と共有した。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

ANAが目指したワークスタイル変革の3つの目標とは?

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全日本空輸
ANA業務プロセス改革室 イノベーション推進部 主席部員
林 剛史氏
 1952年に2基のヘリコプターから事業をスタートしたANA。いまや日本を代表する航空会社となったが、まだ国内線を中心に事業を展開しているというイメージをもつ読者も多いかもしれない。しかし現在は、新規の路線開拓や国際線の増便を行いながら、グローバル化を進めている。会計年度2014年の実績をみると、国際線は36都市・72路線があり、週当たり1132便を就航。旅客数は721万人となり、前年よりも15%近く伸びている。同社の林 剛史氏は次のように現状を分析する。

「従来のビジネスは日本が中心でしたが、外国のお客様の利用が拡っています。中国やアジアの人々を、日本経由で北米にお連れする国際線ビジネスの比率も高まりました。すでに外国籍のお客様は約4割弱を占めています。2020年に東京オリンピックが開催されるため、世界の皆様に日本の“おもてなし”をしっかり届けなければいけません。逆に我々社員は、より広い視野と視点をもって働く必要があります」(林氏)

 またグローバルビジネスに挑戦するには、変化する顧客ニーズに常に応えていかなければならない。従来は企業側でサービスを一方的に決めていたが、いま主導権は顧客側に移っている。ユーザーはスマートフォンなどのモバイルを利用し、いつもでもどこでも好きなときに予約を行う「セルフ化」が進んできた。

「一方で、顧客との接点には、個々のニーズに対応する細やかな人的サービスが求められています。我々は、すべてのお客様の接点で、よりパーソナルでシームレスなサービスを展開していきたいと考えています」(林氏)

 このような顧客ニーズの変化に対じるには、社員一人ひとりの変化も求められる。しかし、ANAがワークスタイル改革を始める前は「悲惨な状況だった」と林氏は回想する。

「デスクにいないと業務ができませんでした。管制スタッフはメールもファイルもデスクでしか見られず、フロントラインの社員ですらデスクに情報を取りに行かねばならない状況。働き方も日本的で努力と根性で乗り切れという風潮もありました。海外拠点が増えても、現地は国内と同レベルの情報を取れない。何より社員の意識が受身的で、情報を与えられるまで待つという姿勢。こんな習慣が根強くはびこり、社員の行動や発想が広がりませんでした」(林氏)

 そこで同社では「ワークライフバランス」「ダイバーシティ&インクルージョン」「チャレンジ」という、目指すべき3つのワークスタイルを定義した。

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ANAが目指したワークスタイルの在り方。「ワークライフバランス」「ダイバーシティ&インクルージョン」「チャレンジ」という3つの目標を定めた

「ワークライフバランスに関しては、生産性を向上して本業に注力できるように、ライフを充実させ、その分のパワーをワークに充てる循環が大切です。2つ目のダイバーシティ&インクルージョンについては、社員構成の多様化や価値観が変わる中、各々の違いを許容して尊重する必要があります。そのためには組織のコミュニケーションが重要になります。最後のチャレンジは最も難しい。誰もが自分のやることを正しいと考えているからです。グローバル競争を勝ち抜くために、自らの課題を認識・発信し、組織としての解決サイクルをつくらなければなりません」(林氏)

ワークスタイル改革ではツールではなく意識が最も重要

 では、この目標のためにANAはどのようなアプローチを取ったのだろうか?

「制度・意識・環境という観点から考えました。ワークスタイル改革で大事な点は、実はツールの話ではなく、意識が最も重要。社員が危機感を持ち、目指すべきグローバルマインドを醸成していく。さらに風土という意味でカルチャーをつくる制度も必要です。そして、それを支える環境が求められます」(林氏)

 これらを推進していくのが、林氏が所属する業務プロセス改革室(業改室)だった。この部署はグルーバル化・課題の横断化・多様化の中で、誰もグリップを握りたがらない全社的なプロセス改革の旗振り役のために生れたという。「ワークスタイル改革を確実に実行するために、人事・総務とタッグを組んで、働き方改革会議を開き、新しい価値の創造に向けて取り組んできました」と林氏は振り返る。

 たとえば人事・総務では「あんしん、あったか、あかるく元気に!」というグループの行動指針「ANA’s Way」を示すブックを全社員に配布した。これを全社員が常に携行し、何か問題があれば原点に振り返るようにしている。「内容には、安全・お客様視点・社会への責任・チームスピリット・努力と挑戦、といった言葉がつづられています。この本を初めて読んだときに胸が熱くなった。他の社員も同様に感じていると思います」と林氏は語る。

【次ページ】 日本では女性の活躍が遅れている

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