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  • 2015/10/21 掲載

山口県萩市、観光の起爆剤「大河ドラマ」と「世界遺産」が同時にきた町の経済効果とは

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日本全国の観光地にとって、「観光まちおこし」の起爆剤になる存在といえば「NHKの大河ドラマ」と「世界遺産の登録」だろう。大河ドラマは昔に比べれば視聴率が落ちて効果が薄れたと言われるが、世界遺産のほうは外国人観光客の呼び込み効果も大。平泉も、富士山も、富岡製糸場も、登録直後は観光客が激増している。今年、その大河ドラマと世界遺産登録がダブルでやってきた町がある。それは山口県の萩市。はたしてその経済効果はどれぐらい大きかったのだろうか?

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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写真は桂小五郎(木戸孝允)の旧宅。松下村塾など市内5ヵ所の史跡は
ユネスコの世界遺産委員会で「明治日本の産業革命遺産」に登録された

大河ドラマの経済効果、世界遺産の経済効果

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 1963年の『花の生涯』に始まるNHKの日曜日夜の大河ドラマはほとんどが時代劇で、時代は戦国時代と幕末が多い。歴代平均視聴率の最高は1987年の『独眼竜政宗』で39.7%、2位が1988年の『武田信玄』で39.2%、3位が1984年の『春日局』で33.1%だった、最高視聴率の『独眼竜政宗』は大河ドラマ観光ブームの先駆けになり、主人公の伊達政宗に縁が深い山形県米沢市、宮城県仙台市には大勢の観光客が押し寄せた。

 しかし、最近の大河ドラマの平均視聴率は2010年の『龍馬伝』以来、5年連続で10%台で低迷し、観光誘発効果も地元が期待するほどは大きくなく「大河ドラマはもう頼りにならない」とも言われている。

 日銀の支店が推計した最近の大河ドラマの経済効果は、2009年の『天地人』は204億円(新潟支店)、2010年の『龍馬伝』は234億円(高知支店)、2012年の『平清盛』は150億円(神戸支店)、2013年の『八重の桜』は113億円(福島支店)で、バブル経済の時代で経済効果が300億円とも500億円とも言われていた歴代視聴率1位の『独眼竜政宗』や2位の『武田信玄』と比べると、スケールが小さくなっている。

 それと比べると、ずっと頼りになる存在がユネスコの「世界遺産」だろう。自然遺産も文化遺産も、登録されれば国際的に著名な観光地に一変し、ガイドブックに載って外国からの観光客も大きく増加する。

 記憶に新しいのが群馬県富岡市の富岡製糸場で、2014年6月に世界遺産に登録されると、2013年は31万4516人だった入場者が2014年は133万7720人へ一気に4.25倍になった。経済効果は34億円(群馬経済研究所)。

 富士山(2013年登録)の場合は、2014年の山梨県の観光客数が初めて3000万人を超え、日銀甲府支店は経済効果を194億円と推計した。これは、同じ2013年に日銀福島支店が算出した大河ドラマ『八重の桜』の経済効果推計113億円の約1.7倍にのぼる。

 日本銀行も、今や地域の観光振興には大河ドラマよりも世界遺産のほうが効果が大であることを、数字ではっきり示している。平泉(2011年6月登録)は観光客が約3割増で、岩手経済研究所は経済効果を63億円と推計した。

 だが今年、その大河ドラマも世界遺産登録も両方、半年の間隔をおいてやってきた都市がある。それは長州藩の城下町だった山口県萩市。2015年の大河ドラマは吉田松陰の妹が主人公の『花燃ゆ』で、その吉田松陰が教えた松下村塾など市内5か所の史跡が7月5日、ユネスコの世界遺産委員会で「明治日本の産業革命遺産」に登録された。

萩市の生産人口の半分以上が観光に関わりを持っている

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萩・江戸屋横町
 大河ドラマ『花燃ゆ』の経済効果は昨年、日銀下関支店が観光客が5%増加して215億円になると推計している。会津若松市が舞台だった『八重の桜』の113億円の1.9倍あり、最近では坂本龍馬が主人公の『龍馬伝』234億円(高知県分)に次ぐ規模。それに世界遺産登録の経済効果が加わることになる。

 世界遺産の構成遺産でもある萩市中心部は、幕末の歴史に名を刻んだ長州藩士の武家屋敷も商家も寺社仏閣も、まるで映画のセットのように時代劇の舞台そのままに残り、しかも規模が大きい。

 江戸時代の大きな藩の城下町は明治以降は県庁所在地になり都市の近代化が進められたため、萩のように江戸時代の町並みがそのまま残っているのは他に例がない(出石や津和野などは小藩)。歴史的な町並みが多く残っていると言われる金沢市や松江市も、それは中心市街地面積のごく一部。県庁が萩ではなく山口に置かれたこと、大火や戦災にあわなかったことが幸いして、今では貴重な観光資源になっている。

 それは裏返せば、近代的な産業がなかなか育たず、都市の近代化が進まなかったことを意味する。萩市や、安倍首相の父祖の地の長門市、青海島がある山口県の日本海沿いの北浦地方は、石油化学コンビナートも貿易港もある瀬戸内海沿岸の山陽地方に比べると製造業や商業の集積が遅れている。そのため萩市の経済は、史跡や歴史的町並みを活かした観光業に大きく依存している。

 2010年の国勢調査によると生産人口の16.2%が第一次産業、19.6%が第二次産業、64.1%が第三次産業に従事し、第三次産業の大部分は宿泊、飲食、交通など観光との関連が深いので、「萩市の生産人口の半分以上は観光と関わりを持っている」と言っても決して過言ではない。

 その観光客数は2014年は前年比5.3%増の約230万人で、市の人口約5万人の46倍もあった(山口県観光振興課「平成26年・山口県の宿泊者及び観光客の動向について」)。だからこそ、大河ドラマも世界遺産も、町の経済へのインパクトは大きくなる。

【次ページ】大河ドラマと世界遺産で景況に二つの山が出現

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