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  • 2016/03/28 掲載

機械学習が支える人工知能(AI)ブーム、金融・医療・製造業界での活用事例

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近年の人工知能(AI)ブームの中で特に注目されているのが、学習能力をコンピュータに獲得させる「マシンラーニング」(機械学習)だ。グーグルの「Deep Mind」が開発した囲碁プログラム「AlphaGo」が、世界トップクラスの囲碁プロ棋士に勝利したことが話題になったが、機械学習は金融・製造・医療業界などでも活用が進んでいる。PwCコンサルティングが、金融や医療業界、さらにはインダストリー4.0が注目される製造業界での機械学習活用事例、課題、解決策を紹介した。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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構造化データから非構造化データへ、機械学習の適用範囲が拡大

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PwC米国
プリンシパル
Annand Rao氏
 機械学習は人工知能のプログラムが学習する仕組みのことで、すでにあらゆる産業で活用が進んでいる。アナリティック・ソリューション・サービスで活躍するPwC米国のAnnand Rao氏は、機械学習に関する具体的な事例を紹介した。

「銀行や保険といった金融業界では、優良顧客を囲い込むために機械学習が利用されている。しかし、このデータは構造化されたものであり、全体の5%程度に満たない」(Annand Rao氏)

 これから注目されそうなのが、非構造化データに区分されるソーシャルメディアや音声データへの適用だ。

「大手銀行では、ソーシャルメディアから得られたデータを分析し、住宅ローンに対する顧客の考え方を理解しようとしている。またコールセンターの会話を分析し、顧客対応への利用も考えている。さらにイメージングの適用もある。自動運転のビデオデータをリアルタイムで収集し、運転状況を分析することが、現時点で最も高度化された機械学習の利用法だろう」(Annand Rao氏)

機械学習の産業での活用における3つの課題

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PwC米国 パートナー
PwC's Global and US Data
and Analytics Leader
Dan DiFilippo氏
 その一方で、PwC米国のDan DiFilippo氏は、機械学習のオペレーションに以下3つの課題があることを指摘した。

「適切な人材を見つけること。適切なテクノロジーでインフラを構築すること。適切なサポートとオペレーティングモデルをつくることだ。その際には人とマシンのインターフェース、さらにデータとのやりとりが求められる。しかし、まだ企業は機械学習に使えるデータの把握ができていない」(Dan DiFilippo氏)

 アナリティック・ソリューション・サービスのリーダーを務めるPwC米国のPaul Blase氏も「機械学習のパワーについては、まだ産業分野では数%しか発揮できていない。具体的に何ができるのかを実務で示し、ビジネス的な価値を広めていく必要がある」と付け加え、企業側で解決すべきポイントについて触れた。

 まず1点目は、企業のエグゼクティブが機械学習について正確に理解することだ。「我々は、どこに機械学習を適用し、どのような価値が得られるのかを示したい。例えば、自動車産業では、イメージのライブラリーを蓄積し、理想的なクルマのモデルを作れる。何度も繰り返してイメージの精度を高め、最適なスタイルを予測できるようになる」(Paul Blase氏)

 2点目のポイントは、機械学習はソリューションではないという点を認識することだ。同氏は「機械学習には、複雑なプロセスが関わってくる。ユースケースの各プロセスで、一体どんなアルゴリズムを適用するのかを考えなければならない。包括的な分析工程のなかで、数多くの方法を試していくことが求められる」と説明する。

企業の成熟度に応じて機械学習の適用せよ

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 このような各リーダーの解説に対し、モデレータを務めたPwCコンサルティング 松崎 真樹氏は、より議論を掘り下げる討論テーマを振った。「企業の成熟度によって、どのように機械学習を適用し、インテグレーションすべきか?」と、Paul Blase氏に最初の質問を投げかけた。

 この点について、同氏は企業の成熟度に応じて説明した。まず社内と社外のデータを理解する“データ発見”が第一ステップだ。「社内システムのデータだけでなく、政府や第三者機関など、第三者が有するデータも取れる時代になっている。たとえば、ソーシャルデメディアならば写真データも入っており、それもリソースの1つになりえる。どのような価格帯の消費財が売れており、その特徴の比較も行える。目標を設定すれば必要なデータが見えてくるだろう」(Paul Blase氏)

 第二ステップに入ると、知見をもってデータを処理し、理解できるようになる。ただし、まだ企業は予測や処方に役立てられる段階まで至っていない。

「本来なら財務から、マーケティング、サプライチェーン、販売まで役立てられるはずだが、インサイトを使った判断ができない。機械学習は診断まで役立つが、用途は限定的。各企業の分析チームを見ると、さらに成熟度がわかる。ほとんどの企業では、チーム内に判断能力が埋め込まれておらず、人材も確保できていない。そこで協力体制やコスト面などを含め、我々に相談にやってくる」(Paul Blase氏)

 成熟度という面では、グローバルでの地域間格差もある。Annand Rao氏は「機械学習を行う際には、それなりの大量データが必要だ。その点、先進国が持つ構造化データはうまく処理されている。一方、新興国ではデータが整備されいない。これが地理的な差異になっている。オープンソースとして公開されるソフトウェアがあっても、データが十分に活用できない点が問題だ」と指摘する。

 オープンソースですぐに技術が手に入る時代になり、企業規模による差異も縮まっているため、データの整備のほうが重要なのだ。そしてもう1つの問題は人材だ。「社内に高度な人材を抱えているかがカギ。人材確保は数の問題ではない。少数でも適切な人材がいれば、パイロット的に機械学習を導入できるし、適用も短期化できる。企業はオペレーティングモデルを適用し、新たなデジタル時代に合わせなければならない。その実力が企業の差として現れる。こちらのほうが技術より難解な課題だ」(Ralf Hombach氏)。

【次ページ】インダストリー4.0実現にも期待できる機械学習

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