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2016年05月09日

デンマークはなぜ二重国籍を認めるのか

庄司昌彦 氏に聞く、ダイバーシティ時代に個人をとらえる「分人」「複属」とは何か

現在の「個人」は会社という単一社会への従属者ではなく、共通の趣味や嗜好でつながった複数の集団に帰属意識を持つ「複属」の色合いを濃くしている。そこでの個人は、相手や場面に応じて現れる複数の人格に分けられた「分人」の総体だと指摘するのが、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM) 主任研究員で准教授の庄司昌彦氏だ。庄司准教授に「分人」「複属」という考え方はいったいどういうものか、そしてそれがどう社会に役立つのかを聞いた。

(聞き手は編集部 松尾慎司)


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庄司昌彦氏

国際大学GLOCOM 准教授・主任研究員。Open Knowledge Japan 代表理事、インターネットユーザー協会(MIAU)理事、東京大学公共政策大学院 客員研究員、内閣官房IT総合戦略室オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザー。情報社会学、地域社会、オープンガバメント、社会イノベーション等に関心。


個人の分人・複属化を前提として、社会を捉え直す必要がある

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──「分人」「複属」という考え方は非常に興味深い視点です。

庄司氏:今や特定の会社に1日中どっぷりと浸かって、個人の時間をすべて使わせるという考え方は古くなってきているのではないでしょうか。たとえば半日はある会社で仕事をして、残りの半日は社外のコミュニティでまったく異なる役割を果たすという形があってもよいかもしれません。

 そうすれば働き方の面でも、お金の面でもより柔軟になり、人生のポートフォリオ、たとえば自社の倒産に直面して生活が一気に立ち行かなくなったり、精神的に打撃を受けるといったリスクが減ります。もちろん、その際には課題もあって、個人は「分人」「複属」化した自分自身の役割や時間を、きちんとマネージできるのかという問題も出てきます。やらなければならないことが増えて、自身が消耗する可能性もあります。

 しかし、既に個人はソーシャルネット上で複数のアカウントを持ち、それらを場面場面で使い分けています。第一歩として言いたいことは、今の社会はもう「分人」が当たり前になっているということです。まずはこの現実を社会の前提とする必要があります。

 たとえばGLOCOMには、企業に所属していたり、役所に所属していたりする人たちが客員としています。今日は役所の立場で話すとか、今日は研究者としての立場で話すといったことをされていて、我々はそれを「帽子を使い分ける」という言い方をしています。

 そのことによって議論がより実のあるものになるわけですが、個人がさまざまな立場を持ち使い分けることは、社会全体でも前提になっていたほうがいいことがあるのではないかと考えています。

──それは企業のダイバーシティの話にもつながりそうですね。日本では労働力人口が減少しているのもありますが、イノベーションのためには、多国籍化やLGBTの受け入れなど、さまざまな考え方や価値観を持つ人たちをもっと取り入れていなかければならないとの意見があります。

庄司氏:私は調査のために年に3回ぐらい海外に出かけるのですが、非英語圏に行くことが多々あります。こういったところではお互いに英語が得意ではないもの同士で、何語で話すかを事前に相談し、自分の話がきちんと相手に通じているかどうかを気にし合ったりすることがあります。

 また訪問先で飲み物を出してくれる際、いきなりコーヒーが出てくることはあまりありません。水にするか、お茶にするか、コーヒーにするか、ジュースにするか等々を聞いてくれます。この例はダイバーシティの観点から興味深いことで、相手がどんな背景の人でもなるべく対応しようと準備をし、その人の好みを尊重しているわけです。いわば決まりごとの少ない「ローコンテクスト」な世界ですね。

 しかし、英語が当たり前の国では、こちらの反応にお構いなく、一方的に英語で専門用語をたくさん入れてまくし立ててくることもあります。これは英語で専門的なコミュニケーションをすることが暗黙の前提となっている「ハイコンテクスト」な世界です。今の日本は間違いなくハイコンテクストな社会で、私は「コンテクストの高さを下げていく」ことが、非常に重要だと考えています。

 この話は、私が分人を前提にしましょうと提案していることと通じるところがあります。○○会社の人ならこんな人だろうとか、女性ならこうだろうということを前提とするのではなく、人間には多様性があることを前提とするということです。

 しかし、たとえば行政は、細分化された分人をどこかで束ねなければならない。それを可能にするのが、マイナンバーに代表されるIDだと思います。IDというと日本ではすごく嫌う人もいますが、「多様性を受け入れるためのインフラ」として活かすこともできるのではないでしょうか。

──一方でローコンテクストな社会は、非常に高コストだと思います。たとえば会議を行う際、参加者全員の間で時間通りに始めるという意識が揃っていなければ、30分遅れが当たり前になり、他のメンバーの待ち時間がコストになってしまいます。

庄司氏:ローコンテクストな社会では、確かにコストはかかるかもしれませんが、だからこそきちんと文書化したり、契約を結んだり、個々人の細かい役割を明確化します。そのことが権限の明確化につながったり、人の置きかえがしやすくなったりするなど、ビジネスの強みになる部分もあると思います。暗黙の了解は通じない社会です。

 暗黙の了解があまりにも多過ぎる社会、すなわち現代の日本のようなハイコンテクストな世界は、確かにコストは下げられるかもしれませんが、変化には弱いと思います。色々な人がいてローコンテクストな社会は、一見コストがかかるように見えて、実はバッファがあり、創造的で変化に強い社会だと思います。

地方では「分人」としての個人を取り込む動きが始まっている

──この「分人」「複属」という考え方をお聞きした際に、地方創生との相性がよいと感じました。そこで、その話の前に地方で今、何が起こっているのかをお聞きしたいと思います。

庄司氏:何と言っても、「人の奪い合い」ですね。「2040年までに896の自治体が消滅する」と人口減少のインパクトを予測した日本創生会議のいわゆる「増田レポート」(2014年)以降、各地方自治体は、将来の人口減少がどうなっていくのかを見据えて、今後の対応策を考えています。しかし、人口を増加させたり減少を穏やかなものにしたりするためには、出生率の向上だけでは間に合わず、他の自治体から移住者を連れてくる必要があります。つまり人の奪い合いです。

 他の自治体から多くの人に移住してもらうのは非常に難しいことだと気づいている自治体は、「交流人口」を増やそうという言い方をしています。たとえば、企業のサテライトオフィスに来てもらうとか、観光客に来てもらうといったことです。これはまさに自分たちの自治体に「複属」してくれる人たちを増やし、その人たちを相手に経済活動をしていこうという考え方です。

 たとえば、構想日本というシンクタンクといくつかの自治体が提唱している「ふるさと住民票」という取り組みがあります。ふるさと住民票は、今は都市部に居住しているものの、その自治体の出身者であるとか、その自治体にふるさと納税を行った人、あるいは自然災害などで他の市区町村へ避難移住している人たちに住民票を発行して、その自治体のサービスを受けられるようにするものです。

 部分的に税金を納める代わりに、一部の住民サービスを受けることができるというのは、交流人口の増加や、将来の移住につながる施策だと言えます。

 特産の農産物や工芸品をだれかが買ってくれればいいという形ではなく、関係ができた人を「交流人口」という形で、すなわち「分人」としてつなぎとめていくというのは、人の奪い合いが起きており、でも一人格を丸々獲得することは難しい状況におけるひとつの知恵だといえるでしょう。

【次ページ】企業に必要なクリエイティブ・インデックスという考え方

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