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2016年05月18日

トヨタ 杉山雅則 常務理事が語る、グローバルで戦うための「新自動車技術開発体制」

これまで国内自動車メーカーは、厳しい技術競争を勝ち抜き、世界をリードしてきた。しかし、企業ごとに基礎研究まで行う現在の開発スタイルは限界を迎えている。一方、ドイツを中心とする欧州は、国をあげた産学連携による効率的な研究体制を構築している。トヨタ自動車で長年エンジン技術開発に携わってきた、常務理事 エンジン技術領域 領域長 杉山雅則氏は、「従来のトライ&エラー型の開発でなく、大学の科学力を基礎研究に活かし、OEMはリソースを競争領域に集中させる開発スタイルのパラダイムチェンジが求められる」とし、「グローバル化に対応する日本の新自動車技術開発体制」をテーマに、持続可能な自動車社会に向けた業界の方向性を示した。


現在、トヨタの研究用車両のエンジンが目指しているもの

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(クリックで拡大)

トヨタ自動車75年史 車両系統図の特設サイト

(出典:トヨタ)

 これまでトヨタは、環境やエネルギーに配慮しつつ、ドライバーに対して“利便性”と“FUN TO DRIVE!”をもたらすクルマを提供してきた。2016年1月に開催された「オートモーティブワールド2016」に登壇した杉山氏は、これまでのトヨタの開発の歴史を振り返った。

「1934年からA型エンジンの試作を開始した。初期は欧米のキャッチアップだったが、その後さらに高性能・高効率・クルーンなエンジンへ進化した。昨年末に発表した新プリウスのエンジンは、世界最高の熱効率40%を達成した。一方、初代の3速マニュアルからスタートしたトランスミッション(変速機)は、高効率化のための多段階変速から、運転利便性のためのAT化、そして連続可変無段変速のCVT化へと変化してきた」(杉山氏)

 さらにトヨタは、低燃費・低エミッションを追求し、1997年に量産ハイブリッド車(HEV)のプリウスを発売した。

「現在では、ほぼすべての車両セグメントにHEVを展開しており、グローバル累積台数も800万台を超えるまでに至った(2015年7月現在)。また2014年には2台のFCV(燃料電池自動車)・ミライを日本市場向けに発売した。これまでどおり内製で開発する方針を継承し、水素タンクなどのFCVコアコンポーネントも内製化している」(杉山氏)

 また杉山氏は、パワートレインの方向性についても紹介した。

「エンジン、トランスミッション、バッテリー、モータ、インバータなど個々のユニットを向上させることは、パワートレイン開発の基本だ。一方、もう1つ重要な点は、個々のユニットを組み合わせることで従来の弱点を補い、損失を最小化することだ。内燃機関の熱効率の改善は重要だ」(杉山氏)

 現在、トヨタの研究用車両のエンジンは、従来のハイブリッド(HV)用エンジンの熱効率を上回るべく、より広い運転領域で実証しているという。またエンジンに組み合わせるトランスミッション開発も、最も効率の良いポイントを損失なく使う機能が求められる。ここでは燃焼速度が熱効率の向上につながるという。

グローバル化に向けて、内燃機関の改良と電動化普及の両軸で取り組む

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トヨタ自動車
常務理事
エンジン技術領域 領域長
杉山 雅則 氏

 杉山氏は、今後の自動車のグローバル動向についても触れた。自動車の台数は、先進国の市場では大きな変化はなく、新興国を中心に増加するものと予測されている。そこで当然、新市場への対応が必要になってくる。多方面で研究が進められるFCV、EVなどの電動化は進展するが、当面は経済的な側面から内燃機関の需要は持続する方向だ。

 同氏は「グローバル市場では、いろいろな道路環境やユースケースがあり、国によって要望も異なる。我々は1つのパワートレインをすべての地域に同時展開することが、必ずしもエネルギー問題や環境問題を解決する手段にならないと考えている。各地域の発展に最適なパワートレインを提供したい」とし、運転パターンに基づくエンジン出力と熱効率の有り様を例に、地域で最適なパワートレインを示した。

 たとえば、NA(自然吸気)エンジンとCVTの組み合わせでは、高い熱効率領域を使えば高効率になる。一方で、高速走行ではターボ過給エンジンやディーゼルも有効だ。これらは動力性能でもユーザーの期待に応えられる。他方、発信・停止や低出力を多用する地域では、S&S(アイドリングストップ機構付きNAエンジン)や、HV、EVが適する。

 このようにグローバルで持続的な自動車社会を実現するためには、短期的には燃費改善に向けた熱効率の向上や、燃料多様化への対応など、主に内燃機関の改良が必要になる。また中期的な対応としては、バッテリー密度の飛躍的な向上や、社会インフラの整備など、EV普及に向けた技術も求められる。要は、内燃機関の改良と電動化普及への技術革新の両軸で取り組むということだ。

MBDを導入し、基礎研究・応用研究・製品開発の3ステップで開発を推進

 では、こういったグロ−バル化に向け、新たなパワートレイン開発にはどのような施策があるのだろう? 杉山氏は、その技術開発手法について説明した。

 グローバル化、多様化の一途をたどるパワートレイン分野で、欧米や先進諸国のOEMに勝ち抜くためには、開発オペレーションの効率化と最大化はもちろんのこと、技術開発力そのものも強化しなければらない。

「我々は、多様なパワートレインをグローバル展開するために、基礎研究・応用研究・製品開発の3ステップで開発を進めている。これにより試作の繰り返しから脱却し、現象解析された理屈で数値化したうえで、モデルに基づく製品設計を行っている」(杉山氏)

 さらに同氏は、これら3つのステップについて概略を解説した。

 まずモデルベースの商品開発の設計手法では、開発プロセスでCAE(Computer Aided Engineering)による解析が数多く適用されてきた。しかし設計試作後の不具合を解析する受動的な評価方法が主な目的だった。

「現在は、多様なパワートレインを短期かつ高機能に開発できるように、“MBD”(Model Based Development)によって、企画段階から機能を満たす設計を行う方向で動いている。特に開発先行の企画では、競合を凌駕する先読みした車両目標に対し、動的な要求特性を満たす構造設計モデルを用いて開発を行っている。そこで設計のみならず、信頼性に対する評価や、適合成立性、製造要件の合致も併せて仮想検証されている」(杉山氏)


 たとえば、各システムモデルと連結された検討用のパワートレインは、車両動力伝達機能に加え、キャビン・冷却も考慮した水・オイル潤滑モデルや、簡単な制御モデルを備え、それらをトータルで勘案し、燃費を効率化できるように検討しているという。各システム設計では、この設計の要求値を満たすように、詳細なモジュールを用いて詰めていく。

 このような製品開発手法を確実なものにするには、3ステップのうち基礎研究と応用研究が重要になる。

 杉山氏は、現象の数値モデル化のための基礎実験として、エンジンの燃焼解析についても触れた。ここでは、エンジン筒内の挙動を観察できるように特殊加工を施し、そこに微細な粒子を流して、レーザー光やトレーサーにより、気流や燃焼の様子を定量的に観察する。燃焼メカニズムの解明と計算精度の向上を図ることが狙いだ。

【次ページ】グローバルで戦う本格的な産学官共同研究開発団体を創設

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