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  • 2016/06/02 掲載

ウェアラブルの企業導入、成功する3つの要素と失敗する4つの原因-ガートナー蒔田氏

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ウェアラブル・デバイスのビジネス影響範囲は急速な勢いで拡大しており、将来的に企業での対応は不可避な状況となります。企業はこの新たなソリューションをどのような形で取り入れ、ビジネスに生かすことができるのでしょうか。ウェアラブルのテクノロジーはまだ揺籃期にありますが、本稿では日本企業のリアルな先行導入事例を「既存業務の支援」「従業員の健康管理」「顧客への新たな価値提案」の3つの視点で分類し、ウェアラブルの企業導入についてどこから手を付けるべきか悩む企業に、検討の入り口を見つけていただくヒントを示します。

ガートナー リサーチ部門 主席アナリスト 蒔田 佳苗

ガートナー リサーチ部門 主席アナリスト 蒔田 佳苗

ガートナー リサーチ部門 テクノロジ&サービス・プロバイダー パーソナル・テクノロジ パーソナル・テクノロジ パーソナル・コンピューティング担当 主席アナリスト。 1996年、ガートナー ジャパン入社。パーソナル・テクノロジー・グループ、イノベーション・チーム所属。世界的視野による市場統計・予測、技術動向・関連市場動向・ベンダー戦略、ユーザー動向調査などを踏まえたパーソナル・デバイス市場全般の動向分析をもって、国内外のIT関連ベンダー、半導体/部材メーカー、流通チャネル、証券・金融機関、ユーザー企業、公共機関などへの戦略的提言を行う。


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今後、企業でのウェアラブル対応は不可避という

どんなウェアラブルが企業に成果をもたらすのか

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 ガートナーとしてもウェアラブル・デバイスは、日本企業の間にも着実に浸透していくと見ています。まず外的な要因として、スマートフォンと同様にコンシューマーから先に普及したウェアラブル・デバイスを従業員が社内に持ち込み始めます。競合他社や顧客にもウェアラブル・デバイスの活用が広がれば、自社で対応しないことによる不利益もでてくるでしょう。

 一方、内的な要因として、さまざまな業務部門や経営陣からもウェアラブル活用に対する期待が高まっています。こうしたことからウェアラブル・デバイスの導入は、今後の企業にとって避けて通ることのできないイシュー(論点)となります。

 とはいえ、B2BあるいはB2B2Cの領域においても、ウェアラブル・デバイスの導入で成果を上げている例は、アクティビティ・トラッカーや限られた場所でのメガネ型ウェアラブル・デバイスに集中しており、非常に限定的です。成否を分ける大きなポイントは、デバイスそのものよりもユーザー体験やサービスの実効性の違いにあります。その違いを、ガートナーではスマートアップという4つのステップで示しています。

スマートアップ:4つのステップ

第1段階:Sync Me
データやコンテンツ、アプリをクラウド上にアップロード・同期し、あらゆるデバイス間で共有します。

第2段階:See Me
ウェアラブル・デバイスを通じてユーザーの位置情報、活動/健康情報、入力情報、環境情報の収集/管理/モニタリングを行います。

第3段階:Know Me
集められたデータを分析し、ニーズ、欲求、特性、状況を理解し、適したアラート、メッセージ、ガイド、アドバイス、サービスを能動的に提示します。

第4段階:Be Me
構築された情報や規則性に基づき、ユーザーに代わって簡単なタスクを実行します。

 もっとも、See Meまでのステップはこれまでのスマートフォンでも実現できたことで、企業にとって新しいデバイスに投資する動機づけにはならないばかりか、投資回収も難しいのが現実です。そもそも、ただデバイスを入れただけで結果が出るわけではありません。

 その意味でも、いかにして第3段階のKnow Meまで進むことができるかが鍵を握ります。コンテキスト(状況)分析によって構築された情報や規則性に基づき、ユーザーの次のアクションを促す情報やアドバイスを、必要な時に、必要な形で提供することで、ビジネスにおける成果につなげます。成果を挙げている例の中には、さらにKnow meから一歩進めて、コンテキストに応じてヒトに代わって簡単なタスクを実行する「Be Me」の段階を模索しているものもあります。

 具体的にどのような取り組みが求められるのでしょうか。ガートナーの調査によると、ウェアラブル・デバイス導入で先行的な成果を上げている企業は、いずれもビジネス課題ありきでアプローチしています。

 そこでの視点は、大きく「既存業務工程での適用」「従業員の健康管理」「新たな顧客価値の提供」の3点です。これらの領域でのビジネス課題とテクノロジーを結びつけ、具体的にどのような成果を導き出していくのかについて、そこで動くヒトの視点から、明確なビジョンをしっかり描いています。

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先行成果事例は、ビジネス課題とテクノロジーの双方からアプローチしている
(出典:ガートナー)

 

先行事例から見るウェアラブルの主な領域と成果の決め手とは

 ガートナーでは、2つの流儀のITを意味する「バイモーダル戦略」を提唱しています。従来の業務の維持・拡張・効率化にフォーカスした「モード1」と、ビジネスの成長・革新にフォーカスした「モード2」から成るものです。

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 ウェアラブル・デバイス導入で成果を上げるためにも、この考え方は非常に重要で、課題解決の道筋となります。

 モード1として「Optimize」(プロセスの最適化)、モード2として「Extend」(製品、機能、サービスの拡張/変革)があり、さらに、この2つのモードを加速させるものとして、「Remote」(リモートでの支援、操作、モニタリング、トレーニング)があります。これからご紹介する事例においても、そこでのウェアラブルでの課題解決のアプローチはこのOptimize、Remote、Extendの3つの要素のうち1つないし2つを含んでいます。

 まずは、プリンタのトナーや紙などサプライ用品の配送を行っている物流センターにおけるハンズフリーのピッキング作業支援の事例です。

 メガネ型ウェアラブル・デバイスを導入し、どの棚からどの商品を何個ピッキングすればよいのかナビゲーションを表示してミスを防止するとともに、内蔵カメラで商品のバーコードを読み取ります。

 これまで頻繁にバーコード・スキャナーを持ち替えなければならなかった手間とピッキングする商品の間違いをなくすOptimizeによって、30%時間短縮を実現しました。

 同様のウェアラブル・デバイス導入の成功例は、製造業のほか医療機関における手術準備や薬剤部などでも見られます。

 また、あるプラント保守では、作業者のナビゲーションと現場の作業指示に加えて遠隔からの指示も行われています。イレギュラーな事態が発生した際に、メガネ型ウェアラブル・デバイスのカメラ映像をセンターにいる熟練者と共有し、的確な対処を行うのです。作業精度の向上のみならず、新規担当者の早期戦力化と熟練作業者の人手不足もこの仕組みで補っており、OptimizeとRemoteで成果を上げた事例となっています。 IT保守、製造業、機器整備の現場でも成功事例がみられます。

 ExtendとRemoteを組み合わせたアプローチとしては、ある健康保険組合における組合員(従業員)の健康/体調管理の事例があります。リストバンド型のウェアラブル・デバイスを使って組合員の心拍を測り、その人固有のパターンを分析することで、体脂肪の燃焼効率が良い状態をLEDや振動で知らせるのです。

 併せてメンターがリモートから保険指導を行うことで、翌年にはリストバンド装着者の50%がメタボ対象から脱することができました。この事例の基盤となっているサービスでは、将来的にこうして集められた膨大なデータをクラウド上で分析することで自動的にアドバイスを提供する、Be Meのサービスに進化させていきたいと検討を進めています。

 従業員の健康管理に関連して、航空機の貨物の積み下ろしヤードや工場の危険区域など、過酷な現場で働く作業者の体調/安全管理のために、ウェア/リストバンド/ネックバンド型のウェアラブル・デバイスを導入し、遠隔で監視とアドバイスを行っている事例もあります。

 そのほかExtendに重点を置いた新たな顧客価値の提供というアプローチとして、劇場やスポーツ観戦、イベントなどの会場で観客にメガネ型ウェアラブル・デバイスを貸与し、フォーカスフリー、各国語対応、リアルタイムのシースルー字幕サービスを行っている例があります。

【次ページ】1ページのウェアラブル戦略

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