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  • 2016/05/30 掲載

米独が組んでも日本の製造業が孤立化しない理由とは?ハノーバーメッセ2016まとめ

#HM16

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世界最大の見本市であるハノーバーメッセ2016が、2016年4月25日~29日にドイツのハノーバーで開催されました。今年のパートナーカントリーは米国で、24日のオープニングセレモニーではオバマ大統領とメルケル首相が演説し、両国がIoT/インダストリー4.0で積極的に連携することが表明されました(ちなみに2015年のパートナーカントリーはインドで、2017年はポーランドです)。4月25日には、2人でイベント会場の展示を見学する親密な様子が報道されています。このまま米独が組むと日本企業は孤立するのでしょうか?ハノーバメッセの要点とともに解説します。

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役。 同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウデュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(組立工場、化学プラントなどの業務知識・経験)、基幹系(ERP/SCMなど)、クラウド(エンタープライズ系:PaaS、SaaSなど)、製造現場システム(MES/MOM/IoTなど)の調査・企画・開発・導入の支援に携わる。一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)のサポート会員であり、IVIのエバンジェリストをつとめる。


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ハノーバーメッセ展示会場を視察するメルケル首相とオバマ大統領
(写真提供:ベッコフオートメーション 川野俊充社長)


背景として押さえたい「オープン・イノベーション」という潮流

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 ドイツと米国は、ともにIoT/インダストリー4.0への取り組みを加速させており、その両国が連携して国際標準の策定に協力していくことになります。ドイツと米国の競争という構図から、米独連携による協調へと発展したのです。

 なぜ競争から協調へと発展したのか。その背景にあるのが、「オープン・イノベーション」という考え方です。オープン・イノベーションとは、ハーバード大学のチェスブロウ教授の著作“OPEN INNOVATION”のタイトルで、「企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ、価値を創造する」と定義されています。

 研究開発のスピードアップとイノベーション創出には巨額な投資が必要であるため、複数の企業や組織が協力して費用対効果を高める手段がオープン・イノベーションなのです。

 この手法は、欧州自動車メーカーを中心に、車載ソフトウェアの共通化を目指して2003年に設立された“AUTOSAR”(オートザー:AUTomotive Open System Architecture、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー・クライスラー、ボッシュなどが設立し、後にフォードやトヨタなど約200社が参画)や“Horizon2020”(欧州委員会が主導して、2014年に開始された、新たな研究開発枠組みプログラム。投資総額770億ユーロ=10兆円以上で日本など欧州域外からの参加も可能)などがよく知られています。

 これまで企業の研究開発は、“クローズド・イノベーション”(自前主義)が当たり前でした。これは、自社内で開発したテクノロジーを強みとした製品開発で競争優位性を獲得する戦略です。しかし、このやり方では前述した通りイノベーションのスピードアップと予算の限界があり、さらに開発に失敗したときのリスクも大きいのです。

 そこで「限られた投資をムダにせず、かつ競争力を維持したまま投資リスクを回避したい」と考えた結果、オープン・イノベーションによる「競争領域と協調領域」という考え方が生まれました。

 IIC(Industrial Internet Consortium)を主導するGE(ゼネラル・エレクトリック)は、このオープン・イノベーションに積極的に取り組み、IoTによる新しい産業革命に対する取り組みの中心的な役割となっています。

 日本の企業やメディアはIoTの「テクノロジー」に目を奪われがちですが、IoTの背景にはオープン・イノベーションによる「競争領域と協調領域」という考え方があることを認識すべきでしょう。

 ドイツと米国が国際標準で連携するということは、つながるためのルールが1つに統合され、IoTにおける「競争領域と協調領域」が国家間レベルから企業間レベルへと進むことを意味しています。

 国が業界や企業を守るのではなく、企業がどのグループに参画してどことつながるのかを自ら決め、勝ち残る戦略を自ら考えて決断しなければならなくなったのです。

 先行する欧米企業の動向を見て、国の庇護のもとでリスクを回避し、市場の方向性が定まったところで追い込みをかけるという従来の手法はもう通用しません。そう考えると今年のハノーバーメッセ2016は、クローズド・イノベーション(自前主義)からオープン・イノベーションへの転換点と読み解くことができます。

オープン・イノベーションに舵を切った国内大手製造業

 「ドイツか日本かは関係なく、もっともいい技術を採用した」──トヨタ自動車は、工場の生産設備をつなぐネットワークの新しい標準規格に、工場自動化(FA)機器大手の独ベッコフオートメーション社の「EtherCAT:イーサキャット」を採用しました。

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(左から)EtherCATの推進団体であるEtherCAT Technology Group(ETG)チェアマンのマーティン・ロスタン氏と握手するトヨタの大倉守彦氏、この立て役者である日本ベッコフオートメーションの川野俊充社長
(写真提供:ベッコフオートメーション 川野俊充社長)


 EtherCATは、ドイツで開発・オープン化された通信規格で、高速性に加えて省配線化が可能です。トヨタ自動車がEtherCATを採用する決め手となったのは、“EtherCAT P”と呼ばれるデータ通信と電源供給が1本のケーブルで対応可能な新規格への期待だと言われています。トヨタはこれまで日本電機工業会の「FL-net」を使ってきましたが、これからは「EtherCAT」が標準規格となります。

 ハノーバーメッセ2016関連で発表されたドイツ企業と日本企業の連携は、この件の他にも、パナソニックとシーメンスが、電子機器組み立ての飛躍的な生産性・品質向上を狙って生産ライン統合の標準化で提携(FA規格開発を共同開発)、自動車部品最大手ボッシュが、ファナックの協働ロボットを採用してヒトとロボットの協働製造ラインを構築するなど発表されています。

 改めて見てみると、これまで生産技術に強みを持つ国内大手企業が、このタイミングで独企業と積極的に提携していることが分かります。その理由として考えられるのは、「つながる工場」という考え方において、これまで日本企業が強みとしてきた製造技術が通用しないかもしれないという危機感があるのではないかと思われます。

 日本の製造業は、自動車やハイテク、機械など世界市場に大きなシェアを持っています。国内大手メーカーの売り上げを見ると、その半分以上が海外からという企業も珍しくなくなりました。今後、日本の人口減少や市場の成熟化を考えると、成長戦略としてグローバル市場に目を向けることは必然となります。

 そのため、世界標準への対応が、同じ土俵で戦える手段として必要となります。こうした考え方が、今回のハノーバーメッセ2016では随所に見られます。

【次ページ】米独が組むと日本は孤立するのか?

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